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後日

*糖度高めです。苦手な方はご注意下さい<m(__)m>。


翌朝、フレデリックは王宮に呼ばれ、一連の事件の事情を説明した。


コリニー伯爵夫妻とルイーズも別室で事情聴取を受けていたようだ。


誘拐されていたルイーズはしばらく休養していいと言われたが、悪人を裁くために出来るだけ早く何が起こったのかを聞いて欲しい、と自ら希望してやってきたらしい。


(それだけの元気があるなら良かった。エステルも安心するだろう)


フレデリックが自邸に戻ると、ちょうどエステルが起きたところだった。


二人でのんびりと昼食をとっていると夕べの出来事が本当にあったこととは思えない。


食後、ソファで隣同士に座りながらお茶を飲んでいる間もエステルはまだボーっとしており、昨夜の疲れが抜けていないことが分かる。


しかし、ルイーズが元気そうだという話を聞くと明るい笑顔を浮かべた。


「ルイーズが無事で良かった。お父さまとお兄さまは・・・」


「ああ、今後裁判になる。録音された会話の記録もあるし、彼らが無罪になる可能性はゼロだ。ルイーズの誘拐事件だけでも重大な犯罪だ。軽い刑罰には終わらないだろう」


「そうね・・・。それは当然だわ。父と兄にはちゃんと自分たちの罪を償ってもらわないと」


と言いながらもやはり沈んだ表情を見せるエステル。


「ルイーズを助けて王宮に通報したことでダニエルは今回の犯罪には関与していないことが認められた。恐らくだが、ダニエルがリオンヌ公爵位を継ぐことで騒ぎは落ち着くんじゃないかな」


「それは・・・ちょっと安心したわ。ダニエルのことはずっと心配していたの」


エステルの表情が少し和らいだ。


「今回のことは全部フレデリックのおかげよ。本当にありがとう」


「結局僕は何もしなかったよ。運が良かっただけだ。君を救ったヒーローは結局ロランだった。僕は双子と一緒に安全な場所でぬくぬくと待っていただけだ」


フレデリックは苦笑いを浮かべた。我慢しようと思ってもつい口調がいじけたものになってしまうのを止められない。


しかし、エステルはそんな風に拗ねるフレデリックも可愛いと思ってしまう。重症だ。


「ううん。一番活躍してくれたのはあなたよ。だって、私にとって一番大切なココとミアを守ってくれたんだから。あなたが絶対に二人を守るって約束してくれたから、私は惑わされずに済んだんだもの」


「でも・・・ロランはカッコいいだろう?僕から見ても彼はカッコいいと思うんだ」


「確かにね。戦場で彼が居たらとても頼りになるし、カッコいいと思うわ。以前フレデリックが言っていたみたいに物語のヒーローみたいだった」


「・・・そりゃそうだよな。僕に比べたら全然カッコいいよ」


俯いて拗ねているフレデリックの頭をエステルは思わずぐしゃぐしゃと撫で回してしまった。


「・・ど、どうしたの?いきなり?」


「あ、ごめん。つい・・・」


エステルは慌てて頭から手を離したが、そのまま自分の手を彼の両頬に当てた。


「物語のヒーローがロランだったとしても、私のヒーローはフレデリックだよ?」


フレデリックの顔が紅潮して、目が潤んだ。


「そ、そんな風に言ってもらえるとは思わなかった。でも・・・僕がしたことを聞いたら、君は僕を軽蔑するかもしれない。卑怯だと言われたら反論できないし・・・」


「話してみて。私は絶対に軽蔑なんてしない自信があるわ」


何故か得意気なエステルを見て、フレデリックの頬は益々熱くなった。


(なんでそんな自信満々なんだ・・・?)


戸惑いながらも訥々とこれまであったことを説明する。


エステルは目を丸くしながら黙って聞いていたが、


「フレデリック。私たちはあなたにとても助けられたのよ。やっぱり私たちの自慢の王子様だわ。本当にありがとう」


と彼の手を握りしめた。


「そう・・・思うかい?君の実家の人たちを騙して誘き寄せたようなものだよ?」


「だって、向こうが先に手を出してきたのよ。ココとミアを誘拐しようだなんて・・・本当に許せないわ」


エステルは真剣に怒っている。


「それにね、チームワークと言うか・・・適材適所と言うか。フレデリックは今回の状況で一番理に適った私が望む戦略を選んでくれたわ。私にとって一番大切なのはココとミアだって分かってくれた。だから自分であの子たちを守るって決めてくれたのよね。それは、私にとって本当に大きなことなの。とても感謝してる」


「本当に?そう思ってくれるのかい?女の子って白馬に乗ったヒーローが自分のために戦って守ってくれることを望んだりするんじゃないの?」


「あら、そういう憧れを持っている女性はいるかもしれないけど、私は違うわ」


エステルは悪戯っぽく微笑んだ。


「もちろん、強い騎士に守られたいって望む女の子の気持ちも分かる。ロマンチックよね。でも、私はそれよりも状況に応じて、ベストな道筋を考えられる人の方が信頼できる。そして、私の希望を無視しない人がいい。今回のフレデリックのように。だから、私にとってのヒーローは貴方なのよ」


真っ直ぐな瞳を向けられて、フレデリックはどう応じていいのか分からない。嬉しいのと恥ずかしいのでついエステルから顔を背けてしまった。


視線が外れるとエステルが遠くを見ながら、ふと昔語りを始めた。思い出を懐かしむように彼女の瞳がしんみりと潤む。


「実は私ね・・・前世の記憶があるの。前世では八十歳近くまで生きたんだ。その人生で学んだのは、一人で全部やろうとしても無理だってこと。『俺一人でみんなを守る!』なんて本当に可能かしら?もし、フレデリックが双子を別な人に頼んで私を守ろうとしていたら、私、ガッカリしてたと思う。あなたは冷静に状況を分析して一番適切な人に適切な仕事をお願いしたのよね。それって誰にでも出来ることじゃないわ。上に立つ人間としてとても重要なことよ。だから、私はフレデリックを尊敬しているし・・・その・・・愛しているから・・・」


それを聞いてフレデリックの脳内の理性的な何かがブチッと音を立てて切れた。


エステルの背中に手を回して強く抱きしめると、フレデリックは彼女の肩に顔を埋めた。


肌に吐息がかかり、彼女の首筋から鎖骨や肩にかけて口づけを繰り返す。


「んっ・・・あの、フレデリック・・くすぐったい・・・」


エステルの心臓がうるさいくらいに高鳴る。


フレデリックが顔を上げると、灰青色の瞳が赤裸々な貪欲さを見せていた。


彼はエステルの頬にそっと手を添えてそのまま顎を上へ向かせると、優しく唇を重ねる。


最初は軽く触れるだけの口づけだったものが徐々に深く執拗になっていく。


エステルが思わず息を止めるとフレデリックがふふっと笑って


「大丈夫?」


と一旦止めてくれる。


しかし、エステルが落ち着くと再び柔らかい唇の感触を味わい始める。


「口を開けて?」


と言われて、よく分からないまま口を半開きにするとその隙間から柔らかな舌が入り込んできた。


「・・・・・っ!!!」


初めての感触にパニックになったエステルが両拳でフレデリックの胸を叩くとやっとエステルは解放された。


ゼイゼイと息を荒くしているエステルに対してフレデリックは落ち着いたものだ。チロリと舌を出して唇を舐める仕草は十八歳とは思えない色気がある。


(くっ・・・六歳も年下なのに!なんでこんなに手練れなのか!?)


その時フレデリックが


「さっき・・・前世がどうとか言ってたよね?八十歳まで生きたとか?もっと詳しく教えてくれる?」


と尋ね、エステルは


(しまった!言って良かったのかしら?!)


と狼狽した。

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