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帰宅


フレデリックは戦慄した。


一瞬だったが北の方向から魔力の大きな爆発を感じて窓の外を見ると真っ暗な闇の中、北側の空が僅かに赤く光っている。


(あれは・・・『呪いの森』の方角・・・エステルは・・・!?彼女は無事なのか?)


彼女のことが心配で居ても立っても居られない。


しかし、どれだけ心配してもここを動く訳にはいかない。双子の側から絶対に離れないとエステルと約束した。


心臓の動悸が激しくなる。万が一彼女に何か起こったら・・・


(僕は生きていけないかもしれない・・・)


エステルを失うかもしれない恐怖にフレデリックの肌が粟立った。


しかし、しばらく経ってラファイエット騎士団の団長から全員無事だという紙飛行機が届いた。


(・・・良かった)


と安堵したものの、実際にエステルの無事な姿を見ないと落ち着かない。


まんじりともせず待ち続けていると、外から馬車の音がして窓越しにエステル達が戻ってきたのが見えた。


既に明け方に近い。


フレデリックはダフニーともう一人の侍女に双子の番を任せると屋敷の玄関に向かって走り出した。


階段を駆け下りると、ちょうどエントランスのところに馬車が停まったところだった。


馬車の扉が開いてエステルが顔を出す。


ドレスは泥だらけで顔も髪も煤で汚れている。


でも、若葉色の瞳はいつも通り煌めいているし、疲れの色は見えるものの大きな怪我はなさそうだ。


フレデリックは夢中になってエステルを搔き抱いた。


「エステルっ!無事で・・・無事で良かった」


彼女の華奢で柔らかな、そして温かい体を感じると、安堵のあまり声が湿っぽくなるのを止められない。


エステルは


「ココとミアはっ?!二人は無事なの!?」


と声をあげる。不安のせいか顔が白い。


「大丈夫だ。ココとミアは無事だ。二人ともよく眠っているよ」

「良かった・・・・」


とエステルは涙目になった。


「それより君の方が心配だった。何があったんだい?」


「あ、そうよね。心配かけてごめんなさい・・・。えっと、何から説明していいか」


戸惑うエステルは幼い少女のようで、フレデリックの目が柔らかく弧を描いた。


「いや、いいんだ。君が無事ならそれでいい。こんなになるまで頑張って・・・」


フレデリックは毛先が焼け焦げた赤い髪を摘まんでそこに口づける。


「ううん。私は何もしなかったわ。ロランとラファイエット騎士団が頑張ってくれたの」


腕の中に囚われたままのエステルが顔を赤くしながら言う。


フレデリックは彼女の額にそっと口づけた。


「まずお風呂に入ってゆっくり休んでくれ。無理する必要はない」


エステルの顔がホッと安心したように緩んだ。


「本当にごめんなさい。とにかく今は疲れていて・・。ココとミアの顔を見たら休ませて頂きます。明日報告させてもらっていいかしら?」


「ああ、もちろんだ。ゆっくり休みなさい」


**


笑顔でエステルを見送った後、フレデリックが振り返った時には既にいつもの無表情が張り付いている。


その表情の変化にロランがぎょっとした。


「お前さぁ、それスゲー特技だよね?エステルと居るときと落差がすごすぎねー?」


ロランが感心したように言う。


「放っとけ。それより何があった」


「ああ、体を洗ったら報告させてもらう。フレデリックの執務室に行ったらいいか?」


「ああ、そうだな。それから・・・エステルを守ってくれて、感謝する。悔しいけどな」


ロランは苦笑いだ。


「気にするな~」と言いながら後ろ手でヒラヒラと手を振ると、自分の部屋に向かって階段を上っていく。


フレデリックはラファイエット騎士団の面々に労いの言葉をかけ、それぞれゆっくり休むように伝えた。


女王にもエステルとロランが無事に戻ってきたことを簡潔に伝えると、女王も安心した様子だった。



***



その後、ロランから『呪いの森』での出来事を詳細に聞いた。


「はぁ・・・無茶をする。本当に無事で良かった」


深い溜息をついたフレデリックにロランは笑いかけた。


「俺も肝が冷えた。エステルが魔獣を庇って立ちはだかった時は危なかったよ。剣を止められて良かった。後で近衛騎士団に聞いたんだが、あの虎は森の主のような存在らしい。もしあいつを殺していたら、魔獣の統制が取れなくなって森から出て人を襲い始めていたかもしれないそうだ。だから・・・助かったよ。一頭の魔獣を殺すと十倍になって返ってくる。だから、戦っても殺すのは最終手段だって辺境で習ったんだがな。頭に血が上ってすっかり忘れていた」


「そうか・・・。ロランが手練れで良かった。きっとカッコよかったろうしな。女心をグッと掴んだだろう」


「は!?なんの話だ?」


「ロランが戦っている姿は男の僕が見てもカッコいいよ。強いしさ。エステルだって君のことを見直したんじゃないかな」


明らかに拗ねているフレデリックを見てロランが爆笑した。


「おま・・・マジか~。俺はさ、逆にエステルがお前をとことん信じてるんだなぁって羨ましくなったんだぜ」


「え・・・!?」


「あの双子の声をあのおっさんがどこで手に入れたかは知らないけど、あの声は間違いなくココとミアだったよ。エステルも動揺して顔が真っ白になったのが見えた。ふらふらで倒れそうになったんだ」


「ああ、その件な。後でどうやって手に入れたかを調べるつもりだが・・・。そんなものを聞かされたら彼女は揺さぶられただろう。よくきっぱり断ることが出来たものだ」


「そうなんだ。彼女はおっさんの言うことは何も信じないとか、そんなことを叫んでた。揺さぶられている感じはしなかったぞ。フレデリックがココとミアを絶対に守るって約束したからだろ?エステルはお前のことを心底信用してるんだなぁって感心したんだ」


それを聞いたフレデリックの顔が真っ赤に染まった。


ロランは珍しいものでも見るようにフレデリックを眺めると、両手で彼のプラチナブロンドをぐしゃぐしゃに撫で回した。


「な、ななななにをするんだ!?」


「いや、悪い。つい・・こう撫で回したくなった。お前は年齢の割にしっかりし過ぎていて可愛げがねーと思ってたけど、案外かわいーんだな!」


「う、うるさい!」


「俺はさ、エステルが好きだ」


「は!?」


ロランの言葉にフレデリックが固まった。赤かった顔があっという間に強張って土気色になる。


「お、おい!誤解すんな。俺に彼女を好きになる資格がないのはよく分かってる。酷いことをしたし、彼女の魅力が分かったのはつい最近だ。昔の俺は本当にどうしようもないクズだった。だから、彼女にまた婚約者になって欲しいとか、気持ちを伝えたいとか、そういうのは全くないから」


「本当に?」


フレデリックは疑い深そうにロランを見つめた。


「本当だ。だけど、彼女には幸せになって欲しい。それは本心だ。だから・・・お前なら安心だ。彼女を幸せにしてやってくれ」


「言われなくても」


フレデリックの拗ねたような表情も全く意に介さないロラン。


「ああ、それから、フレデリックと一緒に居る時のエステルは俺が知らない表情ばかりする。あんな風に無防備な顔を見せたり、照れたり、赤くなったり・・・あんな可愛い顔を見たことはなかったよ」


「そう・・・・か?」


意外そうなフレデリックの背中をロランが叩いた。


「ああ。だから、自信持てよ。彼女が好きなのはお前なんだ。俺のことなんか眼中にねーよ。それは確かだ」


フレデリックは照れた様子で鼻の頭を掻くと、赤くなった顔をロランから背けた。

*あともう少しでゴールです。これからどんどん糖度を上げていきます。

苦手な方はご注意下さい<m(__)m>。

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