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参謀


身代金受け渡し当日。


エステル、ロラン、ラファイエット騎士団が『呪いの森』に向け公爵邸を出発した。


「ママ~!気をつけていってらっしゃい~!」


「おみやげはいらないからね~!」


双子が大きく手を振るとエステルも馬車から笑顔で手を振り返す。


フレデリックは複雑な心境でエステルを見送った。


本当なら自分が一番エステルの近くで守りたい。


しかし、これが最も理に適った布陣なのだ。


(・・ロランに一番カッコいいところを獲られてしまうな)


フレデリックは溜息を隠して、双子と一緒に彼女らの部屋に戻る。


今夜は彼女たちの部屋で寝ずの番だ。


双子を守る仕事は他の誰にも任せられない。一番重要な役割だと思っている。


フレデリックが夜になっても部屋にいるのが珍しいのだろう。はしゃぐ双子をダフニーが宥めて、うまく寝かしつけてくれた。


二人の寝顔を確認した後、ダフニーに双子の番を任せるとフレデリックはドア一枚を隔てたコネクティングルームに移動する。


今夜の自分は参謀だ。上手く糸を引き、敵を掌の上で転がさないといけない。


何度も頭の中でシミュレーションを行った。


ふぅっと深呼吸をすると通信用魔道具のイヤホンを耳に差し込む。



実はこれは王宮に住む女王と直接つながっている。


ザザザッという雑音の後


「私だ」


という聞きなれた女王の声が聞こえた。


この魔道具を購入した時、すぐに女王に届けて事情を説明した。


エステルには反対されたが、王族であるエステルとロランを誘拐事件に巻き込むのに女王に秘密にしたままでは後々大きな問題になる。


絶対に王宮にいる人間にバレてはいけないという前提で、フレデリックは全てを女王に打ち明けたのだ。


当然、怒り狂った女王はすぐにリオンヌ公爵を逮捕すると息巻いたが、確固たる証拠がないこととルイーズがどこに監禁されているか分からない以上、迂闊な行動は取れないと女王を必死で説得した。


また、この事件を使ってリオンヌ公爵家の膿を全て出し切る必要がある。


そのためにも作戦に協力して欲しいと女王に頼み込んだのだ。


渋々ながら女王は同意した。


近衛騎士団が動くのは身代金受け渡し当日の夜だと女王には伝えていた。


だから今宵出動してもらうつもりだが、それを周囲の人間に知られては困る。


騎士団長と副団長にのみ事情を説明して、あとは出動の合図を待っていてもらう手筈になっている。



**



「女王陛下、エステルたちが『呪いの森』に向けて出発しました。前にもご説明した通り、予定では今夜三つの部隊に動いて頂くことになると思います」


「ああ。話は理解している。リオンヌ公爵や他の貴族たちに情報は漏れていない・・はずだ」


「今夜は彼らもそれどころではないでしょう。彼らは僕のガードが下がることを期待しているようですが、自分たちのガードも甘くなることには気づいていないようです」


「まぁ、人間とはそういうものだ。今夜ラファイエット公爵邸に賊が侵入する予定だったな」


「はい。ダフニーという侍女が手引きすることになっています。内側には数は少ないですが精鋭の騎士が待ち構えていますし・・・」


「近衛騎士団の第一の部隊をラファイエット公爵邸の周辺に配備する。敵に気取られないように細心の注意を払うよう申し伝えてある。賊が侵入したことを確認してから取り押さえるから安心して良い」


「ありがとうございます。そして、ルイーズ救出に当たってはダニエルの協力なしには難しいかもしれません。古い貴族の屋敷には秘密の通路や部屋があるのが普通ですから。現にうちにもありますし。彼に緊急用の手紙を送ります。ダニエルから王宮に通報があるのが理想ですが・・・。もしかしたら僕の手紙を受け取れない可能性もある」


「通報がない場合でも第二の部隊はリオンヌ公爵邸に送り込む。ラファイエット公爵邸に侵入した賊がリオンヌ公爵と関係しているという疑惑があれば、家宅捜索の十分な理由になる。賊を捕まえたら、ダニエルからの通報が無くともリオンヌ公爵邸には向かわせるつもりだ」


「そうですね。そして、第三の部隊は『呪いの森』に行って頂けますか?ロランとラファイエット騎士団の主力がいるので余程のことがない限り必要ないとは思うのですが・・・」


「分かった。問題ない」


「申し訳ありません。リオンヌ公爵はそれほど頭が回るタイプではないので、気取られることはないと思いますが、何があるか予想がつかない」


「そうじゃな。分かった。何か変更が生じたらすぐに連絡をせよ。臨機応変に対応する。私も今夜眠るつもりはないから遠慮は要らぬ」


「ありがとうございます」


「ところでロランは・・・どうじゃ?迷惑を掛けてはいないか?」


いつも自信に満ちた女王の声に若干の不安が混じる。


この女傑も母親なのだとフレデリックは微笑ましく感じた。


「はい。元気ですよ。個人的な見解ですが、彼は良い国王になるでしょう。僕も全力で支えますよ。僕の妻に手を出さなければ、の話ですが」


「お前はブレないな」


と女王がふっと笑い、通信が途絶えた。


(さて・・・後は待つだけだ)


とフレデリックは双子の寝室に戻り、窓際の椅子に腰かけて空を眺める。


(エステル、無事でいてくれ)



***



その後ダフニーは時計を確認し、フレデリックに目礼すると静かに部屋を出て行った。


彼女が手引きをして通用門の扉を開け、賊が侵入したところで、内側からラファイエット騎士団の精鋭部隊、外側から近衛騎士団が賊を挟み撃ちにする予定だ。


(上手くいくだろうか?リオンヌ公爵家とのつながりを証明できる者が混じっていれば良いのだが・・・)


しばらく経って、屋敷の裏側が騒がしくなった。


(いよいよ始まったな・・・)


しかし、エステルとの約束通り、フレデリックは双子の側から離れるつもりはない。


ややあって、息を切らしたダフニーが戻ってきた。


双子の眠りを妨げないように、急いで廊下に出て報告を受ける。


「パスカルが?!逮捕された?」


驚きでついフレデリックの声が高くなる。


まさかリオンヌ公爵家の嫡男が直々にやって来るとは思わなかった。


(僕らの想像以上に彼らはバカだったということか・・・)


パスカルを含めた賊は全員逮捕された。これでリオンヌ公爵家に近衛騎士団を送り込む絶好の口実が出来た訳だ。


女王に連絡をすると、ちょうどダニエルから通報があったところだという。


「いずれにしても既に近衛騎士団がリオンヌ公爵家に向かった。ダニエルが監禁されていたルイーズを見つけて保護したそうだ」


それを聞いてフレデリックは安堵の息を吐いた。


(もうこれでリオンヌ公爵とパスカルはお終いだな)


と実感する。


(あとはエステルだけだ・・・。彼女が無事に戻って来てくれれば・・・)


その時だった。


一瞬、北の方向から魔力の大きな爆発を感じた。咄嗟に窓の外を見ると北側の空が微かに赤く光っている。


(あれは・・・『呪いの森』の方角・・・エステルは・・・!?彼女は無事なのか?)


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