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脅迫


「さもなくば、なんですか!?ルイーズにもしものことがあったらコリニー伯爵が黙ってはいません!たとえ私をこの場で殺しても、フレデリックはお父さまが犯人であることを知っています!もう逃げられませんよ!」


エステルは叫んだ。


「ふむ・・・なるほど。やはりお前に言うことを聞いてもらわなくてはならないな」


「私が大人しく言うことを聞くと思いますか?」


「聞くだろうな。儂らが双子の命運を握っていると分かれば」


父親の言葉にエステルの心臓がドクリと嫌な音を立てた。


(・・・なんで突然双子のことが?二人はフレデリックと一緒にいるはず・・・?)


エステルの顔が紙のように真っ白になったのを見て、父親が心地よさそうに笑った。


「ああ、お前でもさすがに子供に対する情はあるんだな。双子を人質に取った。お前が言うことを聞かないと二人の命はない!」


「・・・どこでどうやって彼女たちを攫ったのです?」


「そんなこと言えるか?いいか、契約魔法を結んでもらう。お前に果たしてもらう契約は三つだ。儂たちのことを誰にも他言しない。パスカルを王太子にする。フレデリックに儂たちが無実だと信じさせる」


「・・・そんな勝手なこと、許されると思いますか?あなたの言うことなど一つも信じられない」


エステルが震える声で絞り出した言葉を父親は嘲笑う。


「はっ!信じられないのなら構わない。お前が二度と双子に会えないだけだ!」


「双子に何かあったら、私は地の果てまでもあなたたちを追って、絶対に後悔させてやる!」


「おお、怖い怖い。そうだな。契約魔法には、ワシらに危害を加えないことと、ワシらに永遠に従うという条項も入れようか」


愉快そうに嗤う父親をこれほど憎く思ったことはない。


「そんなに怒る必要はないだろう?儂の言うことを聞けば、双子は無事に帰ってくるんだ」


バカにするような口調に怒りが最高潮に達した。


それでも父親の言うことなんて信用できないという気持ちがあったが、次の台詞を聞いてエステルは眩暈がした。


「ああ、そうだ。双子の声を聞かせてやろう。儂が嘘をついていないことを証明するためにもな!」


リオンヌ公爵は魔道具の録音機を取り出して、音声を再生する。


そこから微かに双子の声が聞こえてきた。


『ママ~~!!!助けて!』


ココの声だ。間違いない。


『ママ~~!!!早く来て~!』


とミアが叫ぶ。


エステルの顔から完全に血の気が失せた。


握った両拳だけでなく全身がブルブルと震える。


地面がグラリと揺れて、怒りと恐怖に意識が遠のいた。


「双子は儂らの手の中にある。儂の言うことを聞いて契約魔法を結ばないと彼女たちの命の保証はない」


勝ち誇ったようにリオンヌ公爵が宣言した。





エステルは混乱し過ぎて、これが現実のこととは思えなかった。


(ココ、ミア・・・二人が危険に晒されていたら・・・私はどうしたらいい?)


足元がぐらぐらして自分がそこに存在しているのかどうかも分からない。





(冷静に。冷静になれ。今パニックに陥っていいことなんてない。考えろ)


エステルは何度も深く呼吸をした。


フレデリックが言った言葉を思い出す。


『僕はココとミアと一緒に居て、必ず彼女たちを守るから信じて欲しい』


(私は自分の役割に集中すると決めた。私の役割は、身代金を運ぶことと・・・彼を信じること!)


嘘つきはどっちだ?と考えた場合、答えは明らかだ。この人は息を吐くように嘘をつく。


父親かフレデリックのどちらを信じるかと言われたら迷わずフレデリックを選ぶ。


(私はフレデリックを信じる。彼は絶対に双子を守るって言ってくれた。どうやって双子の音声を手に入れたか知らないけど、それがココとミアを誘拐した証拠にはならない)





エステルはキッと顔を上げて父親と対峙した。


「私はあなたの言うことは何一つ信じません。魔法契約なんてするはずがない!ルイーズはどこですか?今すぐ彼女を返して下さい!」


リオンヌ公爵の顔が怒りでどす黒くなった。


「ぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぅぅぅーーーーー!!!!!!甘い顔を見せりゃバカにしやがって!!!!!くそっ、こうなったら力ずくでも!!!!!」


と叫ぶとエステルに掴みかかってきた。


エステルはそれをアッサリ避けて、公爵を地面に叩きつけた。


しかし、それを見た残りのマントの男たちがエステルに襲いかかる。


エステルは強い。しかし、明らかに戦闘に慣れた大勢の男相手には敵わない。


しかも、彼らは武器を持っている。


丸腰のエステルは明らかに不利だ。


「・・・くぅ、公爵にこんな屈辱を!!!!許せん!いいからこいつを殺せ!儂らのことがバレてしまう!!!」


リオンヌ公爵が地面に這いつくばったまま叫ぶ。


男の一人が剣を持ってエステルに襲いかかった。彼女の正面から頭を真っ二つにする勢いで切りかかる。


あまりのスピードにエステルは腕で顔を庇うのが精いっぱいだった。


(もうダメだ・・・・・!)


と観念して目を固く閉じる。


キィンという耳の奥に響く嫌な金属音がした後・・・・静寂があった。


しかし、何の衝撃もない。


恐る恐る目を開けるとロランがエステルを庇うようにして、敵の剣を自分の剣で受け止めていた。


相手の剣と腕がブルブルと震えているのに対し、ロランの剣は微塵も動かない。


「ロラン!?!?!?い、いったいどこから!?」


「あ~・・・フクロウを見たろ?あれが俺だ」


照れくさそうに言うロラン。


ロランは犬としてついて行けないと分かったので、フクロウに変身して上空からエステルを見守っていたのである。


ロランは無造作に男の剣を弾き飛ばした。


「よえーな、おい。悪党の用心棒なんてもっと強い奴を用意しとけや!」


そう言いながらロランは物凄いスピードで男たちを打ちのめす。


エステルは、彼が動く度に胸に緑色の光が揺れるのに気がついた。


(・・・良かった。さっき咄嗟にロランの首にかけた魔道具の録音機を付けてくれている。これでお父さまの犯罪の証拠を掴めた)


その間にもロランの動きは益々速く激しくなる。


そのスピードと威力に男たちは簡単に圧倒された。


暗がりなのにロランは敵が見えているようで、男たちがアワアワと混乱する中、的確に彼らを仕留めていく。


これは暗闇での戦闘に慣れている男の戦い方だ。


あっという間に、男たちは全員地面に蹲って完全に動けなくなった。


(す・・・すごい。こんなに強いなんて・・・)


まだ地面から立てずにいるリオンヌ公爵は恐怖と驚きに満ちた目をロランに向けている。


「ま・・・まさか・・・戻ってきたのか・・・?」


「おい!おっさん!覚悟はいいか?エステル。緊縛の魔法でこいつを捕縛して・・・」


ロランがそう言いかけた時、リオンヌ公爵が動いた。


「く、くそっ!こうなったら・・・まとめて殺してやる!」


驚くほどの素早さで公爵は自分のマントの内側から小さなバズーカ砲のようなものを取り出した。


「・・・っ!おい!バカ!止めろ!こんなところで・・・!」


とロランが叫ぶ間もなく、公爵はそのバズーカ砲の引き金を引いた。




ズーーーーーーーーーーーーーーーーン!




凄まじい勢いで炎の球が飛び出した。ロランはエステルを庇って地面に伏せる。


ものすごい土砂や突風が襲いかかるがロランが咄嗟に結界を張り、二人とも無事だ。


しかし、地面に蹲っていた男たちの多くはその勢いでどこかに飛ばされていった。


恐ろしい破壊力を持つ魔道具であるバズーカ砲を打った公爵は、その威力に驚いて腰を抜かしてしまったようだ。


地面から立ち上がれずにウンウン呻いている。


炎の球はその辺り一帯を焼きつくした。


エステルを守るようにのしかかっていたロランが


「・・・まずいな・・・テリトリーを荒らされて怒った魔獣が来るかもしれない」


と呟いた。

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