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転生者

*これが六話目。本日最後の投稿になります!




地下牢に入れられたセシルは相変わらずエステルへの恨み言をブツブツと呟いている。


セシルは前世で乙女ゲーム『薔薇の名は』をやりこんだ転生者だった。


彼女は自分がヒロインのセシルに転生したことが分かった時、小躍りして喜んだ。


しかし、ストーリーで重要な役割を果たすはずの悪役令嬢がまったく悪役令嬢ではなく、学院で優等生になっていることに気づき、セシルは愕然とした。


悪役令嬢エステルを嫌うはずの攻略キャラの多くが彼女に好意を示していることも信じられなかった。


ジョゼフやダニエルだけでなく、攻略キャラだった学院の教師も優等生の彼女にメロメロだった。


攻略キャラの中で王太子ロランだけがエステルを疎み、セシルに興味を示してくれた。


(あり得ないけど、ジョゼフはエステルのことが好きみたい。女嫌いのはずのダニエルは何故か婚約者と上手くいってる。フレデリックが登場するのは私が学院を卒業した後だし・・・。この分だとロラン・ルートしか選択肢がないのか。キャラ的には最強だし、ま、いっか)


そうしてセシルはロランに近づいた。


最初は魅了チャームのポーションを使った。高価なので貧乏令嬢のセシルには痛い出費だったが、魔法は使いたくなかった。魅了チャームの魔法は得意だったが、王太子に魔法をかけていることが魔力特性でバレてしまってはさすがにまずいと思ったのだ。


その上で、追従おべんちゃら作戦を実行した。


厳しい母親と優秀な婚約者に挟まれて劣等感の塊だったロランはセシルの甘い美辞麗句にコロッと転がされた。


彼は褒め言葉に飢えていたのだ。


そして、セシルのお世辞をすべて真に受けたある意味純粋なロランは『俺すごい!』と立派なナルシストへと変貌を遂げてしまった。


ポーションの効果は一定期間しか続かないが、すっかりセシルに篭絡されたロランにポーションはもはや必要なかった。


前世から怠け者だったセシルは現世でも勉強や練習を嫌い、ロランにも


「勉強や練習なんてしなくていいのよ!あなたはそのままで完璧!最強よ!いずれ国王になるんだから何も頑張る必要なんてないわ!」


と事あるごとに言い続けた。


最初は躊躇していたロランも最終的にはやすきに流されてしまったのだ。


そうして、エステルから犯罪まがいの嫌がらせを受けたと嘘をつき、なんとか婚約破棄までこぎつけることができたが・・・


その後の展開がまったく予想外だった。


思い出すだけでセシルの苛立ちは高まり、激しい怒りに身が震える。


(全部あの女・・・エステルが悪いのよ!)


腹いせに追放後にも彼女の悪評を広めようとしたがそれも上手くはいかなかった。


「・・・・なんなのよ。悪役令嬢のくせに!私はヒロインよ。何もしなくても幸せになれるんじゃないの?まったく・・・婚約破棄まではうまくいったのに・・・」


看守はチラリとセシルに視線を向けるが何も言わない。


「大体、努力とか真面目ってなんなのよ!?一番ダサいじゃん!」


イライラと指の爪を噛むセシルは気がつかない。


エステルが何も知らずに真面目に努力した結果、あらゆるフラグをへし折ってきたことも。


ゲームの中のセシルは真面目に努力すればこそのヒロインであったことにも。


そして、セシルが修道院で努力していれば女王もロランとの仲を認めて幸せな未来があったであろうことにも。


セシルにも機会チャンスは与えられていたのだ。


運命のシナリオを知っていてもそれを活かせるかどうかは本人次第なのである。



**


その時独房に続く扉がガチャンと開かれた。


看守がセシルに声をかける。


「おい!面会人だ!」


座り込んでいたセシルが顔をあげると、深くフードを被った男が彼女を見下ろしている。


頭からすっぽり被ったフードのせいで顔は分からない。


「お前はエステルへの不敬罪で捕まったと聞いている」


「私は侮辱する気なんてなかったわ。あんな冗談みたいなことで捕まるなんてバカみたい!そもそも私だけ同窓会に出席できないなんて酷いじゃない!?みんなエステルが悪いのよ!」


「同窓会ね・・・。エステルについてお前が知っていることを話してもらおうか?」


「いいわよ!エステルはね・・・・」


セシルは喜色満面でエステルの悪口を言いまくった。


こんなに気持ちよく喋るのは久しぶりで、セシルの気分は最大限に高揚する。


果てしない悪口に、最初は熱心に聞いていた男も徐々に疲れてきたようだ。


「わかった・・・もういい」


「もういいの?まだまだあるのよ!あの女はね・・・」


永遠に続きそうな悪口に男はうんざりした様子で


「おい。エステルが親しくしている人間は誰だ?」


と尋ねた。


「エステルと仲がいい?・・・誰かしら?ジョゼフとは仲が良さそうだけど」


「ジョゼフ・ド・メーストル伯爵だな?あとは?」


「えっと・・・ルイーズはいつもエステルの取巻きよ」


「ルイーズ・ド・コリニー伯爵令嬢・・・ね」


わずかに覗く男の口元がニヤリと歪む。


「ね、ねぇ!ちょっと待ってよ。貴重な情報を教えてあげたんだから、何か便宜を図ってくれたっていいじゃない!?私を出してよ!ねぇ!ねぇってば!!!」


というセシルの声を完全に無視して男は地下牢から出ていった。



その後、王太子とのロマンスで一躍有名になった男爵令嬢のセシルは、悪評だけが広まり求婚者が誰も現れず、独身のまま年を重ねることになったという。

*これから少し更新をお休みさせて頂きますが、戻ってきて必ず完結させるつもりです。読んで下さって本当にありがとうございました!


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