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シェイプシフター

*本日五話目です!


残された参加者は茫然と彼女の後姿を見送る。


ジョゼフが如才なくパンパンと手を叩いて


「みんな、こんなことになってすまない。今日はもうお開きにしよう!」


と大声で告げた。


エステルはそれを聞いてホッとした。セシルのことは好きではなかったが自分のせいで元クラスメートが逮捕されては心穏やかでいられない。


別れの挨拶をしながら同窓会の参加者を見送る時に


「今日はありがとう。とても楽しかった」


「食べ物も飲み物もとても美味しかったです」


「また仕切り直してやりましょう!」


などと言ってもらって、安堵の息を吐くことができた。


ジョゼフは


「セシルのことは本当にすまなかった!」


と頭を下げながら帰って行った。


**


その日の夜、双子を寝かしつけた後、エステルとフレデリックは二人でハーブティーを楽しんでいた。


「エステル。セシルのことは気にするな。君のせいじゃない」


「うん。でも・・・セシルが、ロランは私のせいであんな風になったって・・。私は彼のためと思っていたけど、勉強とか・・・多分無意識に上から目線でエラそうにしていたのかも。だから、彼がおかしくなってしまったのかもしれないわ・・・」


フレデリックはエステルを抱き上げて膝にのせた。


「な、なななに?」


顔が赤くなるエステル。


「君がロランのことを考えているのも面白くないし、ロランがあんな風になった責任を感じているのも嫌だ。あいつが怠け者になったのはあいつ自身の問題でエステルが責任を感じることじゃない。『努力してごめんなさい』なんて絶対に間違ってる」


そう言われるとそのようにも思える。


「ありがとう。フレデリック」


フレデリックは愛おしくて堪らないというようにエステルの頬を撫でた。


甘い視線に耐えきれなくなったエステルは話を変えるように


「そ、そういえば、セシルがシェイプシフターがどうとかって言ってたよね?あれは・・どういう意味かしら?姿形を魔法で自在に変えられるシェイプシフターは滅多に生まれないのよね?・・・ここ百年は生まれてないって以前ジョゼフが言っていたわ」


それを聞いてフレデリックは考え込んだ。


しばらく黙り込んでいるので、エステルはどうしたんだろうと不安になる。


ようやく口を開いたフレデリックは真剣な顔つきになり、エステルはゴクリと生唾を飲み込んだ。


「これは・・・極秘だから絶対に誰にも言わないで欲しいんだが・・・いや、セシルが知っていた時点で極秘ではないのか?・・・彼女はなんで知ってたんだ?・・・まぁ、いい」


一瞬怪訝そうな表情を浮かべたフレデリックだが、そのまま話し続けた。


「僕はロランに剣術を教えているだろう?まぁ、僕に教えられるのはテクニックだけで、彼は既に僕より遥かに強い。粗削りだが物凄いパワーがあるんだ。それに・・・辺境の地で自分でも気がつかなかった魔法に目覚めたと言っていた」


「自分でも気づかなかった魔法?」


フレデリックは一拍置いてから答えた。


「ロランはシェイプシフターなんだ」


「え!?!?・・・だって、誰もそんなの・・・え!?」


「ロラン自身も驚いていた。辺境の地で魔獣に襲われた時に突然覚醒したらしい。もう死ぬと思った時に鳥になって逃げることが出来たそうだ。彼は大きな才能の塊だ。辺境司令官からの報告書を読んだがロランの実績は素晴らしい。労を厭わず人々を助け、どんなに恐ろしい魔獣や敵にも怯まずに勇敢に戦っていたらしい」


「・・・私が知ってるロランじゃないみたい。やっぱり昔は私のせいで・・・」


言いかけるエステルの頬を、フレデリックは両手でびよーんと引っ張って伸ばした。


軽く睨まれて


(私ったら・・同じことをうじうじと・・・)


と反省するエステル。


「ごめんなさい。でも、ロランは辺境で頑張っていたのね」


「ああ、認めるのは悔しいが・・・。彼は物語に登場するヒーローのようだ。辺境で鍛えられることで才能が開花したんだな。だから、女王の判断は正しいと思う。もし、彼がこのまま努力を続けたら、彼が一番国王として相応しくなるだろう」


「若い時にその才能が開花していたらあんな苦労はしなくて済んだのにね・・・」


「僕としてはそうならなくて良かったと胸を撫で下ろしているところだよ。もし、そうだったら君と彼は結婚していただろう?」


とフレデリックは苦笑いした。


「おかげで君と子供たちを守る機会をもらえたからね」


爽やかに微笑むフレデリックにエステルの頬が紅潮した。


フレデリックに言いたいことがある。


「あ、あのね。今日セシルがあなたにベタベタと触っていたでしょ?」


「うん」


「彼女は昔、あんな風にロランにも触っていたの。その時は何とも思わなかったんだけど・・・今日は、すごく嫌だった。フレデリックには触らないで、って。わ、わ、わわわたくしのフレデリックなのにって。すごく、すごく、嫌だったの」


恥ずかしさで泣きそうだ。でも、それを乗り越えて、思い切って告白するとフレデリックの口がポカンと開いた。


その後、喜びが湧き上がってきたのか顔だけでなく首や耳まで真っ赤になり、少年のような笑顔を浮かべる。


フレデリックは自分の顔が緩むのを抑えることが出来ない。


(ヤバい・・・・ニヤける)


口元を片手で隠しながら


「エステル。やきもち?・・・本当に?」


ともう片方の手でエステルの華奢な肩を抱き寄せた。


「・・・エステル。可愛い」


と抱きしめながら耳元に唇を寄せて囁くと、顕著な反応が返ってくる。


「耳が弱いんだね?」


と言いながら、ふっと耳の中に息を注ぎ込むとビクッと彼女の体が動いた。既に顔や首だけでなく指先までもが真っ赤に染まっている。


微かな吐息にすら反応するくらい耳が敏感らしい。


熱っぽい眼差しで見上げるエステルに、フレデリックは何か奥からこみ上げてくるものを感じた。


我慢できずに顎に指をかけながら


「口づけしていい?」


と聞くと


「く?く、くくくくくくくちづけですか?」


とエステルは激しく動揺した。


(ダメかな・・・やっぱり)


諦めかけたその時、エステルが意を決したようにギュッと両拳を握りしめて


「は、はい!どうぞ!」


と目を閉じて顔を上に向けた。


(・・・いいのかな?本当に?)


と思いながらもここで引いたら男じゃない。


フレデリックはゆっくりとエステルの柔らかい唇に自分の唇を押しつけた。



**


翌朝、ロランはセシルの醜態を聞いて衝撃を受けた。


「すまない・・・エステルに嫌な思いをさせてしまった」


と再び深く頭を下げるロランに


「ロランのせいじゃないわ。気にしないで」


と言っても、彼は納得しないようだった。


「いや・・・本当に悪かった。セシルは・・・たまに彼女の言うことが的を射ていて、その通りになることがあったんだ。それで彼女を信用し始めて・・・。昔の俺を百万発ほど殴ってやりたい。本当に女性を・・・というか人を見る目がまったくなかった。情けない」


恥じるロランに


「僕は君に女性を見る目がなくて良かったと思っているから、気にしないでいいよ」


とフレデリックが冷たく言い放つ。


「セシルはあの後どうなったの?」


エステルの質問にフレデリックが答える。


「ああ、彼女は審問を受けて王宮にある地下牢にしばらく入ることになるだろう。女性だし初犯だからせいぜい三日程度だと思うけどね」


「そっか・・・」


「可哀想なんて思っちゃダメだからね!」


フレデリックが釘をさす。


「いいかい。王族への侮辱を甘んじて受けてはダメだ。女王の権威まで傷つけることになるんだよ!」


「そうね。フレデリックの言う通りだわ。気をつける。ありがとう」


(セシルも少しは反省して変わってくれるといいんだけど・・・それにしてもセシルが何か喚いていたけど、全然意味が分からなかった。なんの話なのかしら?あくやく・・なんとかって何なのかしらね?)

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