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その後

*本日一話目です!読んで下さってありがとうございます!


エステルが王女になってからも生活に大きな変化はなかった。


本来なら慈善事業など多くの公務があるはずだが、双子の世話やロランの王太子教育を優先させるために女王が便宜を図ってくれたのだ。


ロランはラファイエット公爵家預かりの身となった。極秘事項であるが、一部の人間には情報が共有されている。


「ロランが見つかって廃太子が撤回されるかもしれないと知ったら暗殺されそうだから、リオンヌ公爵家の関係者には気をつけて欲しい」


というのが女王の弁だが、それがあながち冗談でもないとエステルの気持ちは沈んだ。


彼女の父と兄は野心家で自分たちの欲望のためなら人を傷つけることも厭わない。


(・・・相変わらずしつこくしつこくしつこ~く私に会わせろって連絡が届いているみたいだしね)


エステルは深く溜息をついた。



ロランは思いがけなく優秀な生徒だった。


砂が水を吸うように知識を吸収していく。


(学院時代にこれだけのやる気を見せていれば、辺境に行かずに済んだのに・・・)


と思うが、そもそも辺境に行ったからこそ意欲を培ったとも言える。


また、フレデリックがロランに剣術を教えると聞いてエステルは驚いた。


実はフレデリックに剣術を教えた師匠の一人は近衛騎士団の団長だという。


もちろん、王宮に勤める騎士団長は忙しいので普段はラファイエット公爵家の騎士団長が教えていたが、時間がある時に率先して指導してくれたらしい。それだけフレデリックに剣の才能があったということだ。


団長に『私が持つ技術と知識は全てフレデリックに教え込みました』と言わしめるほど優秀な生徒だったそうだ。


しかし・・・


「ロランは強い。技術的なことは別にして僕はとても敵わない」


とフレデリックが密かに落ち込んでいたことをエステルは知っている。


真面目で優秀で強い。


王太子として完璧な資質を備えているのに、何故昔はあんなんだったんだろうか?


ロランは使用人として公爵邸で働きながら王太子になるための修行をしている。


家令や執事などは事情を知っているが、下働きの使用人はまさか彼がロランだとは気づかない。


そんな状況の中、彼らに混じってロランは早朝から薪割りや掃除をしている。


昔は肉体労働をバカにしていたロランだったが、今では慣れた手つきで薪割りを行い、周囲の人間と気さくに言葉を交わす姿は以前とは別人である。


女性の使用人の間でロランの人気は急上昇しており、気がつくと多くの女子に取り囲まれている。物陰から熱く見つめる女子の数も急上昇だ。


「気になる?ロランがモテてるみたいだけど」


とフレデリックから尋ねられてエステルはポカンとした表情を浮かべた。


「どうしてですか?」


と言うと彼は嬉しそうにエステルを抱きしめた。彼女の背中に回した手で梳くように髪を撫でる。


「ロランのことが気になってるんじゃないかと心配だった。いつも二人で勉強してるし・・・」


拗ねたようなフレデリックの頬に手を当ててエステルはうふふと笑う。


(可愛い・・・なんて言っちゃいけないんだろうけど)


「ロランは私の弟みたいなものよ。男性として意識することはないわ」


と断言すると、彼はようやく安堵したように息を吐いてエステルの肩に額を当てた。


**


ジョゼフは相変わらずラファイエット公爵邸にやって来る。


もちろん仕事で来るのだが、女王はちゃっかりとジョゼフにもロランに法律や会計学の講義をして欲しいと頼んだらしい。


そんなジョゼフの講義の後、たまたまフレデリック、エステル、ロラン、ジョゼフの四人でお茶を飲むことになった。


侍女が運んできた香り高いアールグレイを一口飲んだ後ジョゼフは口を開いた。


「ところでエステルが戻って来たって聞いて、学院時代のクラスメートがエステルに会いたがってるんだ」


「まぁ!?そうなんですか?懐かしいです!」


エステルの顔が輝く。


対照的にフレデリックとロランの顔が暗くなった。


ジョゼフは嬉しそうに続ける。


「特にルイーズが・・・覚えてる?ルイーズ・ド・コリニー伯爵令嬢。彼女はエステルを崇拝していたからな。どうしても会いたいって聞かないんだ」


「もちろん覚えていますわ!ルイーズは正義感が強くて真っ直ぐな方でした」


「ルイーズはロランに深い恨みを持っていて、今でも会う度にロランのことをケチョンケチョンに言うんだが・・・」


ジョゼフが笑いながら言うとロランは顔を歪めて俯いた。


「俺は何を言われても仕方がないと思ってる」


「いや、ロランが改心していい奴になったって話をルイーズにも伝えたいんだけどな。ロランのことを誰にも言えないのが残念だ」


ジョゼフの台詞にロランが驚いたように顔を上げて「・・・いい奴?」と呟いた。


「で、今度同窓会をやろうぜって話になったんだ。前にも話したよな?エステルも来るだろ?」


「あ、あの同窓会についてはちょっと・・・」


とエステルは首を横に振った。


「ダメだ!」


フレデリックが不機嫌そうに一蹴する。


「同窓会に僕が付き添う訳にはいかないだろう?エステルの安全の確保が難しい」


彼の言葉にエステルも頷いた。


「そうね。ココとミアもいるし、私は遠慮した方が・・・」


「えええ!?せっかくの機会なのに?ルイーズががっかりするよ」


正直言うと懐かしい顔ぶれに会いたいという気持ちはあったが、お世話になっているフレデリックが同意しない以上わがままは言えないと思っていた。


「エステルは行きたくないの?」


単刀直入に聞かれて、エステルは困惑する。


答えに詰まっているエステルを見てフレデリックは尋ねた。


「エステル?僕に気を遣わないで。正直に言って欲しい」


「・・・本当は久しぶりに学生時代のクラスメートに会いたいです。でも、どうか気にしないで下さい。わがままで困らせたくありません」


「君のわがままならいつでも聞きたいけどね」


と言ってフレデリックは優しく微笑んだ。


「同窓会の場所は決まっているのか?」


「ああ、うちのタウンハウスでやろうかと思っていたんだが・・・」


とジョゼフが答える。


「ラファイエット公爵邸の庭園を提供しよう。ここで同窓会を開けばエステルは双子から離れずに済むし、僕が居てもおかしくない」


「まぁ!宜しいんですか?!ありがとうございます!でも・・・本当に大丈夫ですか?」


エステルの弾けるような笑顔に三人の男たちの視線が釘付けになった。フレデリックはジョゼフだけでなくロランもライバルであることを認識する。


「構わない。ただ、警備上不特定多数の人間を屋敷の中に入れたくはない。だから、参加者が入れるのは庭園だけだ。それとロラン、君は参加者に姿を見られないように気をつけてくれ。悪いが君は参加できない」


「当然だ。最初から参加できるとは思っていない」


フレデリックの言葉にロランが頷き、ジョゼフは納得したように手を叩いた。


「それが良い落としどころだろうな。分かった。同窓会の手配は任せてくれ」


「くれぐれも怪しげな人間は招待しないでくれよ」


「気をつけるよ」


エステルはそれまで考えたこともなかった『同窓会』という響きに胸がときめいた。

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