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逮捕


「エステル!僕だ!」


その声でフレデリックが来たことが分かった。


(え!?なんでこんなに早く・・・公務は大丈夫なのかしら?)


エステルが扉を開けるとフレデリックが必死の形相で立っていた。


エステルの姿を見て安堵したようにほぉーーーっと息を吐き、彼女を腕の中に囲って息が詰まりそうなほど強く抱きしめた。


「エステル・・・無事で良かった・・・」


「えっと、私の手紙が届いたのですね?」


フレデリックは手紙を受け取ってすぐにこちらに向かったのかもしれない。


目の下にクマができていて、美麗な顔貌にも疲れの色が見える。


「フレデリック様、こんなにすぐに来て下さってありがとうございます」


「ああ。君のためなら」


甘い笑顔でそう言うとエステルの頭に唇を落とした。


「それで・・・あの男は?」


フレデリックの顔が険しくなる。


「ああ、ロランなら大丈夫よ。昔より優しくなったし・・・」


エステルがそう言って腕から抜け出ると、フレデリックはもう一度彼女を背後から抱きしめて自分の腕の中に閉じ込めた。


「へぇ、彼と仲良くなったの?あんなに酷い目にあったのに?」


耳の中に熱い息を吹き込むように低い声で囁くフレデリック。


「フ、フレデリック様?」


「そして、彼は呼び捨てなのに僕には他人行儀な『様』をつけるんだね?」


「だ、だだって、お世話になっているのにそんな馴れ馴れしくは・・・ロランは子供の頃から婚約者だったので・・・」


「それで?幼馴染で仲良しだから?じゃあ、僕は?恋人で婚約者じゃないの?」


フレデリックの腕の力がますます強くなり、エステルは焦った。


(えっと・・・私たちは既に恋人で婚約者だったっけ?)


自分たちの関係が何なのかに自信がなくなったエステルは慌てて叫んだ。


「わ、わかりました!恐れ多いですが、フレデリックと呼ばせて頂いてもいいでしょうか?」


「もちろん!」


そう言ってもフレデリックはますます腕に力を入れる。身動きが取れなくなってエステルは焦った。


ロランはポカンとした顔つきでフレデリックとエステルのやり取りを眺めている。


「あの・・・エステルを離してあげてほしい。彼女が困っているようだ」


ロランの言葉を聞いて、フレデリックが硬直した。


凍てつくような冷たい視線をじろりとロランに向ける。


親の仇のような鋭い敵意を向けられてもロランは動じない。


腕を組んで値踏みするようにフレデリックを眺めている。その度胸はたいしたものだ。


二人は正面から睨み合った。気のせいかバチバチと火花が見える。


修羅場のような物騒な雰囲気に、何故だか分からないが『ごめんなさい』と謝りたい衝動に駆られたエステルの脳裏には、喧嘩を止めさせたいという前世の懐メロソングがエンドレスで流れ始めた。


「エステルは僕の婚約者だ。君に何かを言われる筋合いはない。それより君は軍を逃げ出したんだろう?逃亡罪は重罪だ。しかも、王族でありながら軍から脱走した。陛下は大層ご立腹されている。廃太子はもちろん、禁固刑の可能性もある」


フレデリックの声音は今まで聞いたことがないくらい冷たい。


エステルが恐る恐るフレデリックの顔を見上げると、暗い表情で怒りと嫌悪を露わにしていた。


「ああ、罪を犯したのは俺だ。分かっている。君がフレデリック・ラファイエット公爵だね?」


「ああ。そうだ。何度でも言うがエステルは僕の婚約者だ。彼女に近づくな!見るな!喋るな!」


「婚約者がそんなに余裕がないとエステルの息が詰まってしまう。母上はエステルを王太女にすると宣言したと聞いている。君は本当に心からエステルを愛しているのか?君こそ何か下心があって彼女に近づいたんじゃないのか?」


フレデリックの顔から完全に色が消えた。恐ろしいほどの無表情でロランを見据えるフレデリックを見て、エステルの全身に鳥肌が立った。


「僕の気持ちはエステルさえ分かっていればいい。女王陛下からロラン元王子を捕えてヴァリエール王国の王都まで連行するよう命じられている。覚悟は宜しいか?」


というフレデリックの言葉にロランは頷いた。


「覚悟はできている。自分の行動の責任は取るつもりだ。わざわざ来てもらって申し訳ない」


そう言って頭を深く下げると、ロランはフレデリックが連れてきた騎士達に連行されていった。

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