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陰謀


「なんでエステルなんだっ!?」


エステルの父親であるリオンヌ公爵は立派なマホガニーの机を拳でドンッと叩いた。


彼の機嫌は最高潮に悪い。鬼のような形相で周囲に当たり散らしている。



**


リオンヌ公爵は女王の演説後、議場から退出したところを近衛騎士に取り押さえられ、地下牢に放り込まれた。


女王に対する不敬罪という罪名だったが、どこからともなく公爵家の顧問弁護士が現れて、議会では様々な意見が出て当然で、女王の決定に異議を申し立てることは違法ではないと滔々と述べた。


また、リオンヌ公爵が侮辱したのはエステルに対してであり、その時点で正式な王族ではないエステルに対して不敬罪は適用されないと判例などを用いて論じたため、本来なら一週間の禁固刑のところを一日で出所することができた。


しかし、公爵家の現当主が投獄されるという辱めを受けて、彼は怒り心頭である。


(この屈辱っ!!!くそっ!!!絶対に女王の思い通りになんてさせやしない!)


イライラと室内を歩き回り、椅子を蹴とばす姿は駄々っ子と同じだ。




「エステルが女王に気に入られていることを何で誰もつかんでなかったんだ?諜報の怠慢じゃないか?」


最近涼しげな髪型になってきた兄のパスカルが苛立たしそうに言い放つ。


「姉上も女王陛下も個人的な感情をおおやけにしないよう慎重にされていたんです。品位のある対応だと思いますけどね」


弟のダニエルは父と兄を睨みつけて、怒りを露わにした。


「だから、あんな風に姉上を追い出すのは反対だったんです!」


爽やか系イケメンのダニエルの正論にパスカルがいきり立つ。


「おい!なんだその口のきき方は!?言葉に気をつけろ!しょせんお前なんて公爵家のごくつぶしに過ぎないんだぞ!家を継ぐのは俺だ!俺が王太子になったらお前が公爵を継げるはずだったのに当てが外れて残念だったなぁ?その八つ当たりか?」


性格の悪さが人相に出てきた兄の言葉にダニエルはたじろいだ。


「ち、違う!そんなんじゃ・・・」


「二人ともやめろ!今さら言っても遅い。エステルが王太女になるとはまさか思わなかった。くそっ!あんな小娘が!」


父親の言葉にダニエルの顔が青ざめた。


「姉上も立派なリオンヌ公爵家の血筋です。そして、恐れ多くも王太女になる栄誉を得ました。姉上のために喜ぶことはできないのですか?」


ダニエルが必死で叫ぶ。しかし、二人には全く通じない。


「は!?何を言っているんだ?エステルなんて我が家の恥でしかない!あんな娘を王太女にするなんて女王の酔狂だ!」


父親とはとても思えない発言を聞いて、ダニエルはドスのきいた声で訊ねる。


「・・・姉上に謝罪して和解する気はないのですか?」


「は!?謝罪だと!?わしらは何も間違ったことをしていない。王太子の不興を買って国外追放されたのはエステルの責任だ」


「父上の言う通りだ。昔からエステルは生意気で可愛げがなかった。王太子に気に入られなくても当然だ。俺たちには何の責任もないだろう」


「あなた方はまったく自分たちに非がないと思っているんですか!?」


「お前は昔からエステルと仲が良かったな・・・。今でも連絡を取り合っているのか?だったら、エステルに王太女の話を白紙にするよう伝えろ。そして、王太子はパスカルにするよう命令するんだ!そうしたら我が家に戻ってくるのを許してやる」


父親の言葉に『信じられない』という表情を浮かべたダニエルは


「そんなこと出来るわけないでしょう?それに、僕は姉上の連絡先を知りません!あんな風に姉上を追い出した家の人間が連絡できるはずありません!ラファイエット公爵の婚約者なのですからラファイエット公爵家に連絡してみたらいかがですか?」


と言い放った。


「もちろんラファイエット公爵家には何度も手紙を書いたし、使者も送った。直接訪ねたこともある。しかし、あいつは絶対にエステルに会わせようとしないんだ。あんな若造が調子に乗りやがって!あいつはエステルが女王のお気に入りだということを知っていたに違いない。でなかったらエステルなんかを選ぶはずがない!しかも、最初は平民の娘などと偽って俺たちを油断させたんだ・・・くそっ!あんな奴にしてやられるなんて!エステルが女王になるなんて絶対に認めない!」


傲慢極まりないパスカルの言葉に端整なダニエルの顔がさらに曇る。


「僕の目にはラファイエット公爵は心から姉上を愛しているように見えましたがね」


父と兄に絶望したダニエルは、黙って首を振りながら部屋から出て行った。


残された二人は呆れたように顔を見合わせた。


「ダニエルはどうしたんだ?」


恐るべき現状認識力の欠如である。


「気にする必要ありません。父上。それよりもエステルが俺を支持するように何とかできませんか?エステルが推薦すれば王太子になれる気がするんですが・・・」


「そうだな・・ただ、エステルがわしらの言うことを聞くか?あいつはわしらを恨んでいるかもしれんぞ?」


「エステルが言うことを聞かざるを得ない状況に持っていけばいいんじゃないですか?あいつには弱みがあるでしょう?」


パスカルの顔が醜く歪む。


「・・・弱み?」


それを聞いて考え込んだ公爵がニヤリと薄笑いを浮かべた。


「ああ、そうだな。あいつは昔から子供が好きだった。だが、ラファイエット公爵家の守りは固いぞ」


「・・・それが厄介ですね。何か方策を考えないと。でも、エステルは困った人を助けずにいられないという弱点があるじゃないですか?ふふっ」


「エステルは隣国の居酒屋で双子を育てていたそうだな?諜報をそちらに向けよう」


「諜報は既に送りました。俺にいい考えがあります・・・」


パスカルが悪意のある笑みを浮かべた。



この二人は、エステルの前に跪き許しを請うことになる未来をまだ知らない。


*安心して下さい。双子が危険な目に遭うことはありません!

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