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素顔

*本日一度目の更新です。後ほどもう一話投稿します。


前世、エステルは恋愛らしい恋愛をしたことがなかった。


しかし、ロマンス小説に時折触れることがあって、そんな時は


(こんな風に素敵な男性に激しく求められたらどんな感じだろう?)


と淡い憧れの気持ちを持つこともあった。


あくまで自分の身には起こり得ないことだからこその『憧れ』である。


まさか自分が生まれ変わって年下イケメンの恋人のふりをすることになり、その『恋人のふり』というものが、こんなに濃厚な体験になるとは想像もしなかった。


**


女王の晩餐会の後、エステルは疲れ切っていた。


(まさか実の家族が娘の私に気がつかないなんて・・・ダニエルは敢えて知らないふりをしてくれていたみたいだけど)


尊大で傲慢な父親に浮気を繰り返す母親。


妹と弟に対して暴言を吐き威張り散らす兄。


前世で何て言ったっけ・・・?


『機能不全家族』


そうだ。


そんな家族の中で、エステルとダニエルは二人で懸命に支え合って生きていた。


(ダニエルは可愛らしい婚約者と幸せそうだったなぁ)


エステルはホッとした。


昔から男癖の悪い母親を見て育ったダニエルは女性不信になりかかっていた。


『姉上がいてくれたおかげで女性に対する信頼を失わずにすんだのです』


そう言っていたダニエルを思い出す。


エステルは妖艶で男好きのする母親と容姿がそっくりだ。


しかし、中身がまったく違う。そんなエステルを母は疎んじた。


特に周囲の男性の視線が自分より娘のエステルに集まるようになると、あからさまにエステルは遠ざけられた。


エステルは自分の家よりも妃教育を受ける王宮の方が居心地良く、毎日のように王宮に入り浸っていた。


(ロランには好かれていなかったけど・・・)


周囲の期待に応えようと努力するエステルは女王や王太后だけでなく家庭教師や使用人からも褒めそやされた。


「お前もエステルを見習え!」


女王の口癖を聞く度に嫌そうに顔を歪めていたロランを思い出す。


(・・・ロランは自尊心が傷つけられて、虚勢を張るようになってあんなナルシストになっちゃったのかしら?)


もしそうなら自分にも責任があるのかもしれないとエステルの胸はズーンと重くなった。


ずっと封じ込めていた過去を思い出すと鬱鬱とした気分になる。


エステルは溜息をつきながらドレスを脱ぎ、手早く湯浴みを済ませた。


**


素顔のまま寝室に戻るとフレデリックが嬉しくて堪らないという風情でベッドに腰かけていた。


カツラを取り化粧を落とした姿を見せるのは初めてだ。


フレデリックは素顔の彼女を一目見ると、なぜか驚愕した表情で立ち上がった。


我が目を疑うというような顔で周章しゅうしょう狼狽ろうばいするフレデリック。


「エステル・・・君は・・・そのほくろは・・・?」


そう言って絶句するフレデリックの瞳が潤んでいるように見えて、エステルは戸惑った。


(私の素顔はそんなに衝撃的かしら?・・・ほくろが何?)


しかし次の瞬間、彼は表情を緩めて大きな笑顔を見せた。


こんなに幸せそうな彼の笑顔を初めて見る、と思った途端に体がふわっと宙を浮いた。


気がついたらフレデリックの膝の上で抱きしめられていた。


「ああ・・・綺麗だ。こんなに美しい赤毛は見たことがない。そして、この泣きぼくろ・・・。ああ、エステル。僕たちは運命で結ばれているんだ」


そう言いながらフレデリックはほくろの上に唇を落とした。


目の下に柔らかい唇を感じて、エステルはビクッと肩を震わせる。


「あ、あの・・・恋人のふりは二人きりの時には必要ないんじゃないでしょうか・・?」


「いや、何を言っているんだ。エステル。こういうことは雰囲気で周囲に伝わる。二十四時間完璧に恋人として振舞う必要があるんだよ」


両手で優しく頬を包むと、フレデリックはエステルの額に優しくキスをする。


すぐにエステルの体は熱くなり、心臓の鼓動が速まった。


(あぁ、本当に映画やロマンス小説のようだ・・・えっと、恋人同士の女性はこういう時どうしたらいいの?!)


パニックになったエステルだったが、先刻までの鉛が詰まったような胸からつかえが消えたことは確かだ。


(もしかして・・・フレデリック様は私の気持ちを察して、励まそうとして下さっているのかもしれない)


相変わらずあさっての方向に解釈するエステルであった。

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