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胸の痛み

*本日二話目です!


熱心な練習のおかげでようやく至近距離でフレデリックに甘く見つめられても、笑顔で見つめ返すことができるようになったエステルのもとに、王宮への招待状が舞い込んだ。


「僕の婚約者は平民のエマ・ガルニエという風に伝えてあるから、嫌な態度を取られるかもしれない。だから、僕がピッタリくっついて君を守るからね!」


明るくそう告げるフレデリックだがエステルの心配は止まらない。


(女王陛下との面談は本当に大丈夫かしら?絶対にバレる予感しかしないわ。最初から素性を明かしていくべきじゃない?)


エステルの脳内で様々な考えがグルグルと巡ったが結局何が正解なのか分からず、エステルは諦めた。


(なるようになるさ~)


達観したのである。



**


今回双子はお留守番で、フレデリックとエステルの二人で王宮に向かう。


馬車に乗り込む前に振り返って手を振ると


「ママ~!気をつけてねぇ~。はやくかえってきてね~」


「フレデリック、ママをよろしくねぇ~。なかよくするのよ~」


とココとミアが満面の笑顔で見送ってくれる。


(あぁ!うちの子たち、なんて可愛いの!)


娘たちの愛らしさにキュンとして顔をほころばせると、近くにいた護衛騎士がピシッと背筋を伸ばしながらも頬を赤らめた。


「他の男がいる前でそんなに可愛い顔を見せちゃダメだ」


とフレデリックが眉を顰めて抗議する。


「・・・可愛い顔?」


釈然としないながらもエステルはフレデリックに手を取られて馬車に乗り込んだ。



*****


王宮に到着するとエステルたちは滞在する部屋に案内された。女王の審査を受けるため数日間王宮で過ごすことになる。


『同じ部屋で数日間を過ごす!』


多少の緊張はあるものの、広い部屋だしフレデリックは節度のある人だから大丈夫だろう・・・多分、きっと、うん。


エステルはそう自分に言い聞かせた。


部屋に落ち着いた後、二人でお茶を楽しんでいると


「僕は君がカツラを外した姿を見たことがないんだ。今夜、君の本当の髪を見せてくれるね?」


とフレデリックは満面の笑みを浮かべる。


「ええ。それは構いません。ただ派手な赤髪で情緒も何もあったものではないですわ」


「いや、今夜が楽しみだ。もちろん、君が嫌がるようなことは決してしないから安心して欲しい」


「もちろん、何の心配もしておりませんっ!」


「・・・・・・・・・・それはそれで複雑な心境だな」


「え?」


「いや、なんでもない」



その時、部屋の扉をノックする音がした。


フレデリックがドアを開けると、侍従らしき人物が立っていて


「フレデリック様。ミラボー公爵家のマリオンお嬢様がフレデリック様をお茶会にご招待したいとのことです」


と重々しく告げた。


フレデリックは冷たく


「断る」


とだけ返した。


使者は驚いたように


「い、いえ。フレデリック様には是非来て頂くようにとの・・・」


と懇願するがフレデリックの目は冷え切っている。


「僕は今最愛の婚約者とお茶を楽しんでいるところだ。邪魔をするなと伝えてくれ。僕は恋人から一時ひとときも離れるつもりはない」


はっきりと言い切ると、使者は狼狽しながらも


「はい。そのように伝えさせて頂きます。本当に宜しいのですね?」


と確認する。


「ああ。ミラボー公爵令嬢には全く興味がないと伝えてくれ」


フレデリックはバタンとドアを閉めた。


氷のようだった表情が嘘のように、私を振り返ったフレデリックは子犬のような笑みを浮かべていた。


「すまない。ミラボー公爵は、次女のマリオンと僕を結婚させたいらしいんだ」


「そうなのですね」


「もちろん、僕は何度も断っているんだが、しつこくてうんざりだ。婚約者ができたとはっきり伝えてもまったく懲りる様子がない」


「そりゃ六歳年上で二人の子持ちの平民には負けられないと思うでしょう。マリオン様はお幾つなんですか?」


「十六歳だ」


「あら!年回りもちょうど宜しいのではありませんか?」


フレデリックの顔が引きつった。


「エステル・・・君は僕が他の女性と見合いをしてもいいのかい?」


「え!?私がとやかく言うことではございません。もちろん、フレデリック様がお嫌でしたら、する必要ないとは思いますが・・・」


「僕は!君が!どう思うか?って聞いてるんだよ!」


真剣な眼差しのフレデリックを見て、エステルも真面目に考えることにした。


(・・・フレデリック様が他の女性とお見合い。他の女性と結婚。そうなったら・・・私なんかとこうして時間を過ごすことはなくなるわね)


フレデリックが他の女性とこうしてお茶を飲み、恋人のふりで練習したような行為をするのだと想像した時、エステルの胸がズキッと痛んだ。


自分で経験しただけに臨場感があり、簡単に想像できてしまった。


(嫌だ・・・!)


痛んだ胸とこみ上げた気持ちに驚いたエステルがハッと顔を上げる。


(もしかしたらこの胸の痛みは物理的なモノではなく、心情的なものかもしれない!)


エステルは開眼した。


彼女の顔をじっと見つめていたフレデリックと至近距離で目が合う。


切なそうに細められた灰青色の瞳が彼女を覗き込んだ。


(そうなったら・・・寂しいわ。私はフレデリック様と一緒に過ごす時間がとても楽しいと思うようになったのだもの)


エステルはその気持ちを正直に伝えることにした。


「フレデリック様はいつも私の気持ちに寄り添って下さいます。フレデリック様は私にとって、とても大切な方です。もし他の女性と結婚されたら、私と一緒に時間を過ごすことはなくなるでしょう。とても自分勝手で分不相応な考えですが・・・そうなったら寂しいと思います」


フレデリックの瞳が分かりやすくぱぁぁぁぁぁっと輝いた。


「うん。今はそれで十分だ。ありがとう。僕もエステルに会えないと寂しい。だから、ずっと側にいるよ」


そう言ってフレデリックはエステルを背後からギュッと抱きしめた。


十八歳というのはもう立派な大人だ。前世の感覚だと『若い!』と思ってしまうが、十五歳で成人を迎えるこの世界では感覚が違う。


頭一つ以上エステルより背が高いし、かなり鍛えているのだろう。しっかりした体躯と逞しい腕に抱きすくめられて、エステルは力強い腕の温もりにうっとりと浸ってしまいそうになる。


(あぁ、罪な人だわ。・・・勘違いしそうになる。これはあくまで恋人のふりなんだから!しっかりして!エステル!)


**


その後、女王から晩餐会への招待状が届けられた。三大公爵家の関係者が集まるらしい。


エステルは緊張を隠しきれない。


(自分の元家族がやって来る・・・。絶対に気づかれるわ。どんな顔をすればいいの?)


不安が募るが、フレデリックは「大丈夫だよ。バレたらバレたで」と呑気なものだ。


(はぁ・・・若いっていいわねぇ)


と溜息をつくエステルであった。

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