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告白

「ココとミアが眠った後に話そう」


フレデリックにそう言われて否と言えるはずがない。


エステルはコクコクと頷いた。


夕食後、双子を寝かしつけるとエステルはフレデリックに会うために屋敷のサロンに向かった。


フレデリックはサロンのカウチにゆったりと腰かけてエステルを待っていた。


エステルは沐浴を済ませて簡素なドレスに着替えている。もちろん、カツラは着用しているし泣きぼくろは消したままだ。


しかし、湯上りでツヤツヤの肌や上気したピンク色の頬がすさまじい色香を纏わせていることに本人だけが気づいていない。


「フレデリック様。お待たせして申し訳ありません」


そう言ってフレデリックの前に座ると、彼は目線を外しながら片手で口を覆った。


彼が耳まで赤くなっていることにもエステルは気がつかない。


この察しの悪さ。ある意味見事である。


「・・・いや、待ってないから大丈夫だ。お茶でいいかい?」


「あ、はい!ありがとうございます」


タイミングよく侍女がお茶を運んできた。


しばらく黙って二人でお茶を飲んだ後、思い切ったようにフレデリックが話し始めた。


「ジョゼフが話していたエステル・ド・リオンヌ公爵令嬢のことだ。君が知っていることを正直に話して欲しい。僕はココとミアの肉親だ。相続のためにも正式な手続きが必要になる。僕が知らない事実があると彼女たちに影響が出る可能性があるんだ」


(確かにその通りだ・・・。双子の将来のためにも正直に話さないといけない。たとえ追い出されることになったとしても)


双子のことになるとエステルの覚悟が決まるのも早い。


エステルはこれまであったことを順序立てて語りだした。


フレデリックは、婚約破棄の場面では不機嫌そうにチッと舌打ちし、両親から勘当されたところでは眉間に深い皺を寄せた。


モニカを失った悲しみを乗り越えて双子と過ごしてきた時間は恵まれた日々だったと話すと、彼の目が潤んだように見えた。


フレデリックは黙って話を聞いてくれた。


仕草や表情でエステルの気持ちに寄り添ってくれるのを感じてエステルは胸が一杯になる。


こんな風に胸の内を打ち明けるのはモニカに話した時以来だ。


不思議と過去の悲しみや苦しみが浄化されたように胸が軽くなった。


長い話が終わり、エステルはすっかり冷めた紅茶を一気に飲み干す。


しばらく考え込んでいたフレデリックはゆっくりと口を開いた。


「エマ・ガルニエというのは偽名で、モニカの妹は存在しないのだね?」


「はい」


「君がエステル・ド・リオンヌ公爵令嬢、なんだね?」


「はい。国外追放された『元』公爵令嬢ですが。嘘をついていて申し訳ありません。居酒屋の人たちは何も知りません。もし罪に問われるとしたら、どうか私一人に・・」


エステルが真っ直ぐに背筋を伸ばして頭を下げるとフレデリックは慌てて首を振った。


「いや、事情は分かる。君は婚約破棄され、不当に追い出されたんだ。君に罪がないことは明らかだ。それにしても、まったく・・・無事で本当に良かった・・・」


「あ・・・ありがとうございます?」


そんな風に言ってもらえるとは思ってもみなかったエステルが呆然とフレデリックを見つめた。


「えっと・・・じゃあ、私はココとミアと一緒にいても宜しいのですか?」


「当たり前だろう。君は彼女たちのかけがえのない母親だ」


フレデリックに断言されて、エステルは喜びで目頭が熱くなった。


「ココとミアは優しく思いやりのある人間として健やかに育っている。君のおかげだ。王太子の目は節穴だったんだろう。こんな素晴らしい女性を捨てるなんて・・・。しかも、最悪の形で恥をかかせるなんて男の風上にもおけない」


「私も彼のことを好きだったわけではないのです。彼もそれを感じて他の女性に惹かれたのかもしれません」


「それは、僕にとっては嬉しい知らせだな」


フレデリックのとびきりの笑顔から突然色気がダダ洩れて、エステルの心臓がドキドキと高鳴った。


(最近、動悸が激しいのはどうしてかしら?)


戸惑うエステルに気づかず、フレデリックは言葉を続ける。


「君は好きでもない婚約者のために一生懸命尽くしたんだ。その努力は認められるべきだと思う」


彼の温かい言葉にエステルの涙腺が崩壊した。


ロランに恋してはいなかったけど、婚約者としての務めを果たそうと子供の頃から必死に頑張ってきたエステルにそんな言葉をかけてくれる人はいなかった。


「フレデリック様はいつも私を泣かしますね」


「・・・そんなつもりはないんだよ。僕は・・・君には笑っていて欲しい」


「そう言われると余計に涙が出てきます」


「じゃあ、せめて僕をハンカチの代わりにしてくれるかい?」


フレデリックはエステルの隣に座り彼女を優しく抱きしめた。細く見えるのに思いがけなく逞しい筋肉の張りを感じてエステルは驚いた。


「申し訳・・・ありません」


エステルは彼の胸に顔を埋めて号泣した。


今までこんな風に泣かせてくれる人はいなかった。


フレデリックは優しくエステルの頭を撫で続ける。


優しくて静謐な時間が二人を包んだ。


*今夜、もう一話投稿できるかもしれません(*^-^*)。引き続き読んで頂けたら嬉しいです!


*誤字脱字チェック、ありがとうございます<m(__)m>

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