番外編 双子の誕生日
*ラファイエット邸に来て初めての双子のバースデーのお話です(^^♪
*コミック連載開始記念SSのつもりが思ったより長くなりました…(#^^#) 読んでいただけたら嬉しいです!
双子のココとミアの誕生日は七月七日である。
今年はラファイエット公爵邸でむかえる初めての誕生日だ。
エステルは感慨深げにため息をついた。
彼女達の誕生日は同時に母親のモニカの命日になるわけで、双子が幼い頃は複雑な心境でその日を迎えていた。
しかもこの世界では何の変哲もない普通の日だが、前世の日本では七夕に当たる。
エステルは前世日本の昔話をココとミアに語りきかせてきた。ここでは無用の知識かもしれないけれど、自分の心にある大切な物語を子供達に伝えておきたかったのだ。
その中には七夕の物語も含まれている。諸説あるのだろうが、エステルが知っている物語は次のようなものだ。
織姫は天空の主である天帝の娘で、機織りが得意だった。彼女は牛飼いの牽牛(彦星)と恋に落ちて結ばれる。
しかし、働き者だった二人は恋に夢中になって仕事をしなくなり、怒った天帝は織姫と彦星を天の川の両岸に引き離した。
悲しみに暮れる織姫を不憫に思った天帝は、年に一度だけ二人が会うのを認めた。
そして、カカサギという鳥が七月七日に天の川に並んで橋をかけ織姫と彦星が出会う手助けをするようになったといわれている。
この話をした時、ココは小首を傾げて言った。
「鳥さんはいたくないのかな?」
「ねー、ふまれるってことでしょ?」
動物好きな双子らしい意見にエステルはふふっと笑った。
「きっとカカサギが痛くないようにそっと歩いたのよ」
「そっかー」と言いながらも釈然としない様子のココがエステルを見上げる。
「いちねんに一回ってすくなすぎない? おとうさん、ケチ?」
「それに好きな人とむすばれたらうれしくて、おしごとしたくないってなっちゃうよ」
ミアも織姫と彦星に同情的だ。
「そ、そうね…。もう少し会わせてあげてもいいわよね」
さすがの双子にエステルもタジタジだ。
物心がつくようになった頃、一年に一度会える日が双子の誕生日でお母さんのモニカが亡くなった日でもあると伝えると、双子はしんみりと物思いにふけっていた。
エステルは何と声をかけたら良いか分からない。
「……ごめんね。辛いことを話してしまって」
「「ううん!」」
二人は同時に首を振り両手を広げてエステルに抱きついた。
「ゆめの中でもいいからおかあさんに会えたらいいな」
「好きな人にあえる日だもんね」
ココとミアを力いっぱい抱きしめ、エステルは「そうね」とかすれ声で囁いた。目頭が熱くて視界が涙でぼやける。
「……お母さんを亡くした悲しい日にお祝いしたくない?」
くぐもった声でエステルが尋ねると、子供達は一層強くエステルに頭を押しつけた。
「……あたしは、いままでみたいにバースデーパーティをたのしくおいわいしたい」
「ケーキとごちそうと……おともだちもたくさんよびたい! おかあさんもきっとよろこんでくれる」
それ以来、七月七日には心の中でモニカを偲びつつ、ココとミアのバースデーパーティを盛大に開くことにしている。
今年もエステルは二人のために心を砕いてパーティの準備をしていた。
「うわ~! 庭師と相談されていたのはこれなんですね~。わざわざ遠方から取り寄せたんですか?」
侍女のダフニーが感心しながら見上げているのは大きな七夕飾り用の笹竹である。庭師から取り寄せることができると聞いて思わずお願いしてしまったが贅沢しすぎではなかったかと不安になった。
(フレデリックは快く許してくれたし、庭師もノリノリで楽しそうだったからつい調子に乗ってしまったわ)
七夕の物語は伝えたが、笹に願い事を書いて飾る風習はまだ教えたことがない。
ココとミアが喜ぶかもしれないと思い切って取り寄せてもらったが、どうだろうか?
「「きゃーーーーーー」」
青々とした笹を見上げていたら背後から双子の歓声が響き渡った。
「ママ! ママ! ママ! すごいすごい! これはなに? とてもきれいね!」
ココが笹の周囲をくるくると駆けまわる。
「すてき~! おもしろいはっぱね。なににつかうの?」
ミアもうっとりと笹の葉に手を伸ばした。
外国(実は前世日本)の笹飾りや願い事の風習について説明すると、二人の瞳が星のようにきらきらと煌めく。
早速、エステルと子供達は色紙を使い様々な飾りを作りはじめた。
違う色の紙を細長く切り、輪っかにしてつなぐくさり飾りは目にも鮮やかだ。
他にもちょうちんやあみかざり、お星さまなど、エステルの前世の記憶にあるものをココとミアに教えていく。
もともと工作が大好きな双子なので、心から楽しそうに沢山の七夕飾りを作り終えた。
それらを全部笹に飾ると風になびく姿も風流で、通りかかった使用人たちが「綺麗ですね~」と声を揃える。
バースデーパーティの当日はゲストに願い事を書いてもらい、それを笹につるしてもらう趣向だと言うと、双子の顔が『待ちきれない』という風に輝いた。
***
誕生日当日。
エステルと双子はお洒落に着飾ってゲストの到着を待ち構えていた。
ココはポニーテールに水色のリボン。ミアはハーフアップにした髪に青い髪飾りをつけている。お揃いの群青色のドレスがよく似合う。
今日は立食形式のカジュアルなパーティだ。朝からココとミアの好物の鶏のから揚げ、だし巻き卵、ポテトサラダ、などなどご馳走を料理長達と一緒に用意した。ケーキは二人が希望した山ほどのイチゴを載せたショートケーキ。
会場の中心に笹飾りを置き、願い事を書く用のテーブルも準備万端である。
「みんな、どんなおねがいごとをかくのかなぁ~」
ワクワクする気持ちを隠しきれないココが呟く。
「たのしみだね~」
ミアもニコニコと笹飾りを見上げている。
「ココとミアのお願いごとは? もう書いたの?」
「んー、まだ~!」
「あたしたちはさいごにかざるから~」
エステルは口元に柔らかい笑みを浮かべて双子の頭を撫でた。
「楽しみね。ココ、ミア。お誕生日、おめでとう。生まれてきてくれてありがとう」
「「うふふ~、ありがとう!」」
そして誕生日プレゼントにリクエストされた刺繍入りハンカチを手渡した。かなり時間をかけて刺したエステルの力作である。
ハンカチを開いて双子の顔がパッと輝いた。
「わーい! ありがとう!」
「うれしい!」
双子は幸せそうに笑うとエステルに抱きついた。
「ママのお願いは~?」
ココが尋ねるとエステルは得意げに自分の短冊を見せた。
『ココとミアと私の大好きな人たちがみんな健康で幸せでいられますように』
「え⁉ でも、ママが入ってないよ?」
ミアが心配そうにエステルのドレスの裾を引っ張る。
「私はあなたたちが健康で幸せでいてくれたら幸せなのよ」
しかし、双子は納得しない。仕方なく『私と(私の大好きな人たち)』という言葉を付けくわえて笹に飾りつけた。
「やぁ、ココ、ミア、誕生日おめでとう!」
最初にやってきたのはフレデリックだ。大きな箱に入ったプレゼントを持っている。
「「ねぇねぇ、フレデリック、あけていい?」」
双子にねだられて頬を緩めたフレデリックは「もちろん!」と答えながら大きな箱を開け始めた。
中には本格的なイーゼルが二つと油絵を描く道具が一式入っていた。エステルが見ても興奮するくらいの多彩な色の絵具で、双子は顔を真っ赤にして言葉を失っている。
二人とも絵を描くのが大好きだ。
(イーゼルと油絵の道具なんて贅沢かもしれないけどいいチョイスだわ。さすがフレデリック!)
心の中で感心していると、ココとミアがフレデリックに飛びついて「すごいすごいすごい!フレデリック! あいしてる~」「フレデリック、だいすき~!」と熱烈な告白を始めた。
(嬉しそうでなにより)
エステルはくすっと笑った。
「ねぇ、フレデリックのおねがいごとはなに~?」
ミアから鋭い質問を投げかけられてフレデリックはたじたじとなった。
「えーっと、まだちゃんとは考えてないんだけど……」
「じゃあ、いま書いて~」
「こっち、こっちよ!」
願い事を書くテーブルに手を引かれていくフレデリック。
何やら願い事を書いては「それじゃだめよ」「ちがう~」などとダメ出しをされている模様だ。
「うん、これでいいわ!」
「よし!」
ようやく双子のお許しがでた青い短冊を笹の葉につけると、フレデリックは照れたように笑いながらエステルに近づいてきた。
「なんて書いたの?」
「ちょっと恥ずかしいな……」
頭を掻くフレデリックに、後で絶対に見にいこうと決めたエステル。
その後も続々と双子の仲良しや使用人たちがやってきて願い事のテーブルも大盛況だった。
ご馳走やケーキも評判が良く、用意した料理は全て無くなった。
ココとミアは疲れてソファで眠ってしまったので、フレデリックが二人を寝室に運んでくれた。
片づけが終わった会場でエステルは笹竹に歩み寄って、色々な人の願い事を見て回った。
『居酒屋が繁盛を続けますように』
マットとサリーはわざわざ隣国から駆けつけてくれた。
『ラファイエット公爵家のますますのご繁栄を』
忠実な家令らしい願いだ。
『素敵な恋人ができますように』
若い侍女の願いらしい。
その中でふと青い短冊が目に入った。フレデリックが書いたものかもしれない。
短冊を裏返してみると彼の端正な文字が見えた。
「永遠にエステルとココとミアと一緒にいられますように。エステルとラブラブになれますように」
くすっと笑った後、じんわりと胸が温かくなる。
(ずっと一緒にいられますように……)
今日のココとミアの溌剌とした笑顔を思い返しながら、彼女達の願い事を探した。
ココが描いたと思われる猫の絵を見つけて短冊を裏返す。
「ゆめの中でおかあさんに会えますように。ママがながいきしますように」
ココとミアの二人で書いたようだ。
モニカの闊達な笑顔を思い出して目の奥がじんとなる。
まさかあんなに突然のお別れになると思ってもみなかったからモニカの写真も何も残っていない。
誕生日プレゼントのハンカチには、エステルの記憶の中のモニカを丁寧に刺繍で表現したつもりだ。
(全然本物にはかなわないけど……。モニカの素敵さが少しでも伝わればいいな)
頬を伝う涙を拭いながらエステルも願った。
どうか、ココとミアが夢の中でモニカに会えますように。
二人がずっと幸せでありますように。
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