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番外編 フレデリックのアルバイト 前編

*久しぶりの番外編です! 後編は明日更新予定(*'▽')

*読んでいただけたら嬉しいです<(_ _)>

「ご注文は?」


顔を上げると、滅多にお目にかかれないような極上の美青年が立っていた。


プラチナブロンドの長い髪を一つに結び、カジュアルな白いシャツと革のパンツの上に青いエプロンをしている。


青灰色の瞳に見つめられて湯気がでそうなくらい顔が熱くなった。


「あ、あああの、ちょっと待って。えーと、な、なんだったっけ?」


向かい合わせに座る女友達に尋ねると、そちらもぼーっとした顔で青年に見惚れている。


「ほら、しっかりしてよ! 何を食べるって言ってたっけ? お勧めの……」


テーブルの上に置いてあった手をパチンと叩くと、彼女もハッと我に返ってメニューに視線を戻した。メニューには料理の説明が写真付きで丁寧に書かれている。


「あ、はい! えーと、キノコのオムレツを一つ、お願いします」

「私は天ぷらうどんを」

「はい」


小さなメモ帳に書きこんだ後、青年は「お飲み物は? 水か麦茶もございますが?」と質問してきた。若干低めの声もいい。


「あ、ああ、あの、麦茶をお願いします」

「わ、わたしもそれで!」

「かしこまりました。お待ちください」


会釈して立ち去る青年の後ろ姿に二人はため息をついた。


「なにあのイケメン……」

「前に来た時は女の人が給仕してたのよ。料理長は爽やかな感じだったけど……」


最近見つけた美味しい料理屋に友達を誘ってきてみたら、天女のようなイケメンが注文を取りにきた。


思いがけない目の保養だと盛りあがっていると下の方から可愛い声が聞こえてきた。


「すみません。きょうはいつもの人たちがびょうきなんです」

「あら!?」


プラチナブロンドの髪をポニーテールにした可愛らしい女の子が立っている。


水色のドレスに青いエプロン姿のその少女は、身振り手振りで一生懸命説明してくれた。


どうやらいつもこの店で働いているマットとサリーという二人が酷い風邪で倒れてしまい、この店の元経営者が助っ人に来ているらしい。


「あたしたちは、いつもはヴァリエールおうこくにすんでいるの」

「まぁ、わざわざお隣の国からお手伝いにきてくれたの? 偉いわね」

「えへへ~」


などと話している内に注文した料理がやってきた。


イケメン給仕の冷たく見える端整な顔立ちが少女と目が合うと少し和らいだ。髪の色や顔立ちが似ているので血のつながりがあるのかもしれない。


(親子? 年の離れた兄と妹? 叔父と姪? いとことか?)


今度は少し落ち着いてイケメンが給仕してくれるのを眺めることができた。


食器を並べるのは多少ぎこちなかったけれど、慎重に配膳してくれているのがよく分かる。


「ありがとうございます。美味しそうです」


思い切って声をかけると、イケメンの口元が照れたようにほころんだ。


(眼福~!!!)


向かい合わせの友達も同じように叫んでいるに違いない。彼女の目もハートになっている。


その後、心臓を落ち着かせて湯気の立つうどんを食べ始めたところ、友達が大きな声で叫んだ。


「うっ、何これ⁉ 卵がふわふわで中のチーズはトロトロ! キノコも色んな種類が入っててすっごく美味しい!」

「でしょ~~。ここは珍しいお料理ばかりなんだけど、どれも美味しいのよ! この天ぷらっていう料理も、表面がサクサクでうどんと一緒に食べると最高に美味しいわ~」


自分が美味しいと思ったものを共感してもらえるのは素直に嬉しい。


二人で楽しく食事をしていると、料理屋の扉が開いて数人の客が入ってきた。


「お嬢さま、お足もとにお気をつけて」


恭しく扉を押さえている従者は低く頭を下げている。


そんな従者を見下ろしながら、豪華なドレスを着た令嬢が料理屋の中に足を踏み入れた。


他の客はぽかんと口を開けて新規の客を眺めている。


ぞろぞろとお付きの者たちを従えて、それほど大きいとはいえない店内に入るとそれだけで威圧感がある。


それまで楽しげに談笑していた客たちが静まりかえり、どこか不安そうな表情を浮かべた。


「いらっしゃいませ。何名様ですか?」


皆の注目を浴びても気にする様子のないイケメン給仕が客を出迎えた。残念ながら、冷たい無表情ではあるが。


彼の顔を見た瞬間、傲慢そうな令嬢の目が大きく見開かれ、表情が豹変した。


「ま、まぁ。こんな店なのに……」


ツンとしていた令嬢の言葉が途中で消えた。その頬が赤らみ瞳は潤んでいる。


給仕の美青年は若干眉をひそめたようにも見えたが、無表情のまま彼らを席に案内する。


従者が令嬢にメニューを広げて見せた。


「まぁ、こんなの、初めて見るわ。本当に美味しいの?」

「はい。旦那様と奥様は大絶賛しておられました」

「お父さまとお母さまが?」

「旦那様と奥様も後からいらっしゃるそうですが、先にご注文されておいた方がいいでしょう。こちらのお料理は……」


新規の客はどうやら落ち着いたようなので、好奇心丸出しで彼らを眺めていた他の客たちも食事を再開し、店も元の明るい雰囲気にもどった。


食事を終えた友達が嬉しそうに再びメニューを手に取る。


「美味しかったね~。食後のデザートも食べたいな。メニューに甘いものもあったよね?」

「うん。デザートも変わっていて美味しいのよ。今日のお勧めはシフォンケーキって書いてあったから、それを頼もうかな」

「あ、じゃあ、私も!」


デザートを注文しようと周囲を見回すと、ちょうど美形の給仕が新規客の令嬢の注文を受けているところであった。


「……ご注文は?」

「はい。鍋焼きうどんと……」


注文を終えた従者が大仕事を終えたように額に手を当てる。


メモを書き終えるとイケメンは素早くその場から退散しようとした。


しかし、熱心に見つめていた令嬢がすかさず彼の腕をつかんだ。


「……は!?」


イケメンは信じられないというように顔を強張らせている。


ナメクジを見るような目を向けられているのに彼女は気がつかないようだ。


「ねぇ、こんな粗末な店で働くよりも、わたくしがあなたを雇ってあげますわ! あなたのような上品な男性なら我が子爵家でも大歓迎よ」


『当然大喜びするだろう』と得意げな顔の令嬢に対し、イケメン給仕は心底嫌そうな表情を隠そうともしない。


「お断りします。ここは今日だけ頼まれた仕事なので」

「まぁ! どうしてですの? お給金ははずみますわ! ねぇ、お父さまにお願いすれば……」

「お断りします。失礼!」


取り付く島もない、とはこのようなことを言うのだろう。令嬢の手を振り払うと、さっと背を向けて厨房に向かって足早に歩きだした。


「待ちなさい! たかだか平民がわたくしにそんな態度をとって許されるとお思いですか!?」


貴族令嬢とは思えない形相で金切り声をあげるが、イケメンは無表情のまま振り返りもしない。


(この人には感情があるのかしら?)


いくら臨時の助っ人とはいえ、飲食店で愛想笑いすらしない給仕でいいのだろうか?


若干呆れながらも騒動を見守っていると、他の客もどうなることかと成り行きを注視している様子だ。


「「お、お嬢さま!?」」


お付きの者たちは慌てて令嬢を止めようとしたが一歩出遅れた。


その間に令嬢はイケメンに追いついて腕を掴もうと手を伸ばす。


しかし、その手が届く前に素早く誰かが立ちふさがった。

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