≪書籍発売御礼SS≫ ココとミア編
「ねえ、ミア、これみて!」
きらきらした瞳でココが振り向いた。フレデリックに連れられて今日は教会のバザーに来ている。多くの露店が並び、店主が様々な商品を並べて準備しているところだ。
ココが指さした先には可愛らしい手作りのテディベアが二つ置いてあった。一つは水色の、もう一つは赤いシャツを着ている。木の皮でできた不思議な形の傘のようなものを被っているのも珍しい。
双子のような一対のテディベアにココとミアは目を輝かせた。
「これが欲しい?」
フレデリックに尋ねられて「「うん!」」と二人は同時に返事をした。
「わかった。まだバザーは始まってないけど取り置きしてもらえるか頼んでみるよ」
ニッコリ笑ったフレデリックが店主と話しているうちにココとミアは露店の他の商品を見て回る。古い絵本が何冊か置いてあってミアが一冊の本を手に取った。
「ココ、この女の人、ママみたいじゃない?」
絵本の表紙には赤い髪の女性がお姫さまのようなドレス姿で描かれている。その女性の瞳は猫のようにくりくりしていて少しつり目の緑色だ。
「ほんとね!」
興味を持ったココとミアがその絵本のページを開く。
「ココ、ミア、テディベアは取っておいてくれるって。後でここに買いにくればいいから……その本も欲しいのかい?」
双子はフレデリックを見上げて、表紙の女性を指さした。すぐにフレデリックの顔が紅潮する。
「ああ、この本はエステルをモデルにしているんだよ。彼女は昔、無実の罪でヴァリエール王国を追放されてブルトン王国の居酒屋で働いていただろう? その後、ヴァリエールの王女さまになった話を物語にしているんだ」
「「へぇ……」」
二人は感心したようにページをめくる。フレデリックの言う通り、酷い目に遭って国を追い出された令嬢が平民として居酒屋で働いているところを若き公爵に見いだされ、王女として迎えられる話になっている。でも、ココとミアのことは何も書かれていない。
「僕とエステルは君たち二人のことをできるだけ隠しておきたいんだ。存在を知られてしまうと危険が増える」
「さらわれたりしないようにってことね」
ミアの言葉にココもうんうんと頷いた。
「そうだ。だから書かれていないんだよ」
「子どもをひきとるってたいへんなことなのよね。きけんから守ったり……」
ミアが大人びた口調で言うと、フレデリックは「そうだね」と相槌を打った。
「フレデリック、知ってるとおもうけど、あたしとココはね、うまれたときにおかあさんをなくしたの。だからママがあたしたちをそだててくれなかったら、きっと、こじいんに入ることになっていたと思う」
フレデリックの表情が真剣になる。ココも彼の手を握りながら一生懸命訴えた。
「ママはね、王女さまになってから、こじいんのしえんをしたいってずっと言ってた。きっと、あたしたちみたいに、おやをなくした子どもをたすけたいの。だから、ママのおうえんしてね?」
「分かっている。僕はエステルのやりたいことを全力で応援するよ」
フレデリックが力強く約束するが、ココとミアはじーっと彼を凝視する。
「な、なんだい? 僕がなにか……?」
どことなく後ろめたそうなフレデリックに双子はずいと迫った。
「フレデリックはね、ヤキモチやきすぎるの」
ココがハッキリと言い切った。ミアも同意するように頷く。
「まえにもここに来たよね? そのときにママがティムとはなしていたらフレデリックがわりこんでいったじゃない?」
「わ、割り込んでって、そんな……」
「ママががんばっているのに、じゃまするような人とはけっこんしないほうがいいって、あたしたち、ママに言うから」
ココの爆弾発言を支持するかのように、ミアも腕を組んでフレデリックの前に仁王立ちになった。フレデリックの顔が絶望に歪む。
「……君たちに反対されたら、間違いなく僕は振られる」
呆然としたフレデリックは頭を振って、真っ直ぐに双子に向き合った。
「ココ、ミア、僕はエステルの公務を心から応援している。彼女が誰と話をしていても、絶対に嫉妬したりしない……嫉妬してもそれを表に出さないと約束するよ!」
彼の真剣な表情に双子も納得したらしい。笑顔でフレデリックと手をつなぐ。
「あ、それから、きょうかいにきふしてくれる人にも、しつれいなたいどをとっちゃダメよ?」
ミアは本当にしっかりしているとフレデリックは内心舌を巻いた。
「ああ、分かっているよ。できるだけ愛想よくするよう気をつける」
苦笑いしながら二人の手を取り歩き出した。
「エステルに会いに行こう。露店の準備をしているはずだ。クロードが付いているから心配ないと思うけど……」
「フレデリック、クロードにもヤキモチはダメダメだからね?」
ココに釘を刺されてフレデリックはもう全面降伏だ。
「大丈夫。見ててくれ。今日は絶対に嫉妬をせずにエステルの邪魔になるようなことはしないから」
自信を持って答えるフレデリックにココとミアは嬉しそうに笑った。
「「さすがフレデリック!」」
三人は仲良く並んでエステルの露店を目指して歩き出した。