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番外編 前日譚 マリッジブルー その5

*番外編 前日譚 マリッジブルーの最終話です(#^^#) 読んでくださってありがとうございます!


ずっと重かったフレデリックの心が羽根のように軽やかに跳ねた。


ようやくエステルの不審な行動の理由が分かった。

道理で会いたがらなかったわけだ。


(だって僕が彼女の……)


自分が彼女の『好きな男』だと実感して、エステルに対する愛情が胸の奥深くからこみあげてくる。


こんなに愛おしく感じる女性は、今後一生現れない。


早く家に帰ってエステルに伝えたい。


(それにしてもエステル、君はなんて可愛いんだ!)


フレデリックの脳裏から、ミラボー公爵家とマリオンのことはきれいさっぱり消えていた。


◇◇◇


フレデリックがミラボー公爵家に出かけたとフィリップから聞いて、エステルの心は不安で苦しくなった。


(もし魔法が解けなかったら、私たち、結婚式も挙げられないわ。というか、結婚自体が無理じゃない? マリオン様は魔法のことを話すかしら? 私が昼も夜もずっと粗相していたとしても、フレデリックはまだ私を愛してくれる? いえ、無理よね。そんな女、嫌に決まってる……)


エステルは泣きたくなった。


その時、屋敷の正面が騒がしくなった。フレデリックが帰ってきたのかもしれない。


エステルは自分の部屋のベッドの中に深く潜りこんだ。


しばらくすると扉をノックする音がした。


「――エステル! どうか開けてくれ。マリオンから話を聞いた。あれは出鱈目だ。君は何の魔法にも掛かっていない!」


ドア越しに叫ぶフレデリックの声を聞いて、エステルの頭の中は真っ白になった。


「……え?」


戸惑いながら、エステルはドアに近づく。


「フレデリック、それは本当ですか? 私は、その、貴方の前でも恥ずかしい思いをしなくて済む、と?」

「そうだ。だから、頼むから開けてくれないか?」


少し躊躇したが、フレデリックが嘘をつくはずない。エステルはゆっくりと扉を開けた。


久しぶりに目にするフレデリックは相変わらずの美丈夫だった。


少しやつれて目の下に隈ができているが、青灰色の瞳は明るく輝いていて、エステルと目が合うと優しく弧を描く。目尻にできる皺もとても可愛いとエステルは目を奪われた。


「……」

「……」


何も起こらなかった。


エステルは目に涙を溜めてフレデリックを見つめた。言葉が出てこない。


そんなエステルをフレデリックは強く抱きしめた。


「ごめんなさい! 私が愚かでした。よく考えたらそんな魔法ある訳ないですよね。それなのに、私、愛する貴方の前で粗相してしまったら嫌われてしまうって、……それが怖くて貴方に会えなかったの。仕事で疲れて帰ってきた貴方を労いもしないで……本当にごめんなさい!」


この時のフレデリックの顔は、ニヤけてとても見られたものではなかったが、幸いエステルには直視されずに済んだ。


「いいんだ。君のせいじゃない。それより君がどんなことをしても、僕の愛情は変わらないよ。だから、仮にあの変な魔法が本物だったとしても、僕は変わらず君を愛し続ける。君は僕から隠れる必要なんてなかったんだ」


エステルは驚いて顔を上げた。


「え⁉ でも、淑女の嗜みとして、そんな粗相は許されない……」

「いや、君のだったらさぞかし可愛……っ、ごほっ、こほっ、いや、なんでもない。僕は何があっても君を愛する。だから、どうか僕の愛情を疑わないで欲しい。夕べ君が会ってくれなかった時、僕は君に愛想を尽かされたんじゃないかと思って……とても悲しくて不安だったんだ」


彼を傷つけてしまったことを実感して、エステルは深く反省した。


「自分のことしか考えていませんでした。フレデリックの気持ちを考えず本当にごめんなさい」

「いや、いいんだ。マリッジブルーじゃなくて本当に良かった」


フレデリックがエステルの顔を覗き込んで、頬に手を当てる。


「マリッジブルー?」


キョトンとフレデリックを見返すと、彼は苦笑した。


「僕が鬱陶しくて、しつこいから結婚したくないのかなって心配だったんだ」


エステルは彼を軽く睨みつけた。


「私の気持ちこそ絶対に変わりませんわ。どうか私の愛情を疑わないで下さい。マリッジブルーなんてなりっこありません。私、結婚式が楽しみで仕方がないんですから!」


晴れやかなエステルの笑顔を見てフレデリックの愛情が溢れ出した。

エステルをガバっと抱きしめて「愛してる」と耳元で囁く。


「君のことになると簡単に動揺したり、戸惑ったり、不安になる。でも、昔は考えられなかったくらい、大きな喜びも感じるんだ。君のことを愛しているから……」


エステルも同じ気持ちだったが、上手に言葉にできなくてフレデリックの背中に手を回してぎゅっと抱きしめた。


頬を緩ませたフレデリックが、エステルの顎に指を掛けてそっと上向きにする。

そして、鼻がぶつからないように頭を傾けて唇をそっと重ねた。


柔らかい唇と舌の感触にエステルは身も心も蕩けそうになる。


唇が離れるとエステルは少し寂しい気持ちになってしまう。


「エステル、大好きだよ」


ニコリと微笑んだだけなのに、恐ろしく魅力的でエステルの心臓がうるさく騒ぎ立てた。


「……私も、です」


完熟トマトのような真っ赤な顔で、エステルはフレデリックの胸に顔を埋めた。

*新作『「君を愛することはない」と言いましたよね?前言撤回はナシです』も鋭意投稿中です(*'ω'*)

読んで頂けたら嬉しいです(#^^#)


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