適材適所
教会の鐘楼から、街外れらしい狭い小道へ別々に降りた二人。ここからは周囲の様子をより詳細に探りながらの隠密行動だ。
先ほどよりも少し冷たく強い夜風とともに、マリは建物の間を音もなく通り抜けていく。
大きな通りからは大きく離れ、日中だとしても人通りの少ない場所。
城の対角に位置するこの場所は、もちろん相応の治安だ。
目的のアジトが近付くにつれて、マリの緊張感は増していった。
「見張りは…やっぱり居ない。アジト周辺でこの静けさは流石に不気味だけど…まぁいっか。」
そろそろ約束の五分だ。集合地点の倉庫へ急ごう。
そう思った矢先、妙な気配…というよりも勘に近い。それほどまで極めて微小な違和感。
何かが追ってきている…?
気配は無い。殺気も感じない。
マリは立ち止まり、周囲を注意深く観察する。
全神経を集中し、気配を探る。
「誰…?」
それでも、本当に追っ手がいるのか…それすらも正直分からない。
気のせいか…。
それに、もうクーとの合流地点である倉庫の目の前だ。一旦合流してから…
「アンタ変なの連れてきてるわね…。癪だけど、流石のマリでも『コレ』の察知は難しいのね。」
後ろから声が掛かる。クーだ。
やはり誰かにつけられて…
マリが身構えて振り返ると、そこにはクーの右手にシンが襟首を掴まれてぶら下がっていた。
「これはこれでアリだな。一種のご褒美だ。」
親猫に咥えられて運ばれる子猫のような姿で、シンは何故かご満悦の表情を浮かべている。
かなり背の高いシンが、小柄なクーに持ち上げられているのには違和感を覚えるが、紫持ちならば別に大したことではないか。
そんなことよりも、驚きを隠さずにシンへと質問を向ける。
「私をつけてきてたの、シンだったの?全くと言ってもいいほど気配無かったけど。色術?」
それこそアジトの出入り口ならまだしも、人間は動き、息をし、熱を発し、音を出す。
気配も姿も、あそこまで察知できない程に消すことは不可能。そんな色術は存在しない筈だ。
「あぁ、俺は“黒”でね。それも、他の黒使いとは別方向に発展させた色術を使う。三原色はそれなりだけど、一応“輝色”…黒曜まで習得してる。」
輝色…色術を非常に高いレベルで使用する者に現れる特異点。
通常の色術と比べ、色術そのものや、纏色がより輝いて見えることから輝色と呼ばれる。
リバーのランクで言えばプラチナは勿論、ゴールド帯の一部でも発現している場合がある。
とはいえ、猛者の証明という点では信用に足るものだ。
「黒の輝色…珍しいね。初めて見たかも。」
マリは素直に感嘆した。
私も、得意とする赤と白は、輝色である“紅玉”と“真珠”に至っている。
黒は元々、白と並んで特異色術とされており使い手が少ないが、白と比べると黒は更に少ない色術だ。
その上で輝色に至る人間は…言うまでもない。
「盛り上がってるとこ悪いんだけど…一応敵地なんだよねここ。長居したくないからさっさと片付けない?」
クーに呆れたように声掛けられ、我に帰るマリ。
そして唐突に思いつく。
プラチナリバーである私が探知できないほどの、最高クラスの隠密スキル。
この短時間で、紫二人に追いつけるほどのスピード、息が上がらない体力。
間違いなく戦力としても申し分ないレベルだろう。
そして、これから行うのは人質の解放、そこからの盗賊団殲滅。
正直考えるまでもない。
「これさ、潜入の先行、私らじゃなくてシンでよくない…?」




