幕開け
王都の夜に美しい虹色の光芒を引きながら、マリとクーの二人は尋常ならざる速度で建物の屋根を駆けていく。
深夜とはいえ、伝説的な色術使いが二人。四色全てを纏う紫特有の色術、彩色纏花を展開して街を縦断。
…うーん、これは流石にまずいのでは…?
マリは途中で、久々の高揚感に当てられたとはいえ、目立ちすぎる移動方法を選んでしまったことを悔いた。
夜中とはいえ、この光の帯は建物の窓から余裕で見えるだろう。目撃者ゼロとはいくまい。
この速度を目で追って私とクーだと認識できる人間は、冒険者ですら稀だと思うが。色を纏いすぎてしまった。
すまん。情報統制…頑張ってくれ。王よ。
王城を発ってから約五分ほど経った頃。私とクーは、目的地まで一キロを切るかという位置まで来ていた。
ツウの固有名色、その反応も目的地に近付くにつれ、大きくなってきている。
いや、少し大きすぎるような…それに何だか、とても…
考えるのは後だ。
マリは現在地付近に、他と比べて明らかに高さのある教会を見つけた。まずは、ターゲット周辺の観察からだ。その教会の屋上を目指し、方向転換する。
結局、合図などクーへの何かしらの意思伝達は行われなかった。後ろを跳ぶクーは、教会へ顔を向けたマリを見てそれを合図と受け取り、着いていく。
ほどなくして、二人は教会の鐘楼へ降り立つ。もちろん色は既に纏っていない。
まだ目的のアジトはもう少し先だ。あのままアジトへ突撃するのは流石に目立ちすぎる。
マリはもう一度、意識を集中してより鮮明にツウの固有名色を辿った。
どうやら…やはり地下に囚われているようだ。
階層で言うと、地下三階ほどだろうか。思ったよりも深い。
ツウの固有名色は先ほどまでの大きさ、強さを感じなくなっていた。
それに、少しモヤが掛かったような、何かに遮られている感覚がある。
これは…色術か色具か、結界のようなものが張られているようだ。
おそらく本来は、固有名色のような強い繋がりでも探索が困難な強力なもの。
奴らに誤算があったとすれば、探す側、探される側、双方ともが“紫”だったことか。
そんな強力な結界が張られている、それがもし色具ではなく色術によるものならば、それなりの強者が相手にいるということ。
しかし逆に、このレベルの結界が張られているということは、“中でどれほど暴れても外には影響がない”ということ。
これは正直、こちらとしても非常に助かる。
是非とも術者には、頑張って結界を維持してもらわねば。
しかしそんな中で、先ほど感じたツウの強い色術の高まりは何だったのだろう。
結界など意にも介さない、とでも言うような。鮮明で、少し懐かしい不思議な気配。
何故か、少し胸がざわつく。
いや、そんなものは後だ。国民が活動を始める前に片付けなければならない。
すぐに雑念を払い、周辺の探査に戻る。
結界に絶対の自信があるのか、アジトへの入り口があると思われる倉庫には見張りも誰もいないようだ。
あとは侵入手段だが、特に罠なんかも無さそうだ。周囲の気配に色術や色具による乱れは感じられない。
そのまま気配を探っていくと、倉庫内部の一部分だけ薄らと気配が少ない場所がある。
集中して探らないと、白金リバーである私でも見落としてしまいそうな、違和感程度のもの。
おそらくここが入り口だろう。結界による色術の流れを悟られないように、隠色をかけていると思われる。
それなりの大きさの組織によくあるアジトの隠匿方法だが、色術の流れが剥き出しだったり、過度に隠色されてぽっかりと気配がゼロになっていたりと、雑な場合が多い。
それに比べて今回の“カラス”は、それなりに手強いと見ていいだろう。
ターゲット周辺の調査、分析は冒険者の基本だ。実力があろうとなかろうと、これを疎かにする者から死んでいく世界。
隣で同じように、周辺を分析しているであろうクーと、お互いの見解をすり合わせる。
「…というように見えるけど、クーはどう思う?」
と、マリ。クーは
「同意見ね。結界の強さも隠色の仕方も、それなりに手強そうな感じ。」
さらにクーは続ける。
「でもあたしらなら中でも隠密できるだろうし、人質解放してから人暴れ、って感じでどう?」
やはり、それなりに場数を踏んでいるのだろう。分析も策も的確だ。
「賛成ね。人数差もある上にそれなりの手練れ相手に人質盾にされたら面倒。基本通り救出が優先で良いわ。」
ツウを盾にするようなら、一緒に焼き払えば良いだけだ。しかし組織の規模からいっても、そもそも人質で捕まっているのがツウだけとは限らない。
倉庫内で入り口を見つけて結界内部に侵入、隠密行動を心掛け、ツウ含め人質の捜索、解放。そこから先は殲滅行動へ移行。
これが妥当な策だろう。
「じゃ、ここから隠密行動開始よ。倉庫までは別ルートでお互いに迂回して、少し様子を見つつ問題なければ五分後に現地で。」
マリの言葉にクーが頷く。そして散開。
「さぁ、白炎姫の舞台の“開幕”よ。」




