良いコンビ
外はもう完全に日が落ちており、街の人通りもまばらである。
流石にこの時間に正面から堂々と外に出るわけにも行かず、マリとクーは人目を忍ぶように裏口から城を出た。
するとクーは突然、大きく身体を伸ばしながら
「…んあーーっ。王様の前とかお城の雰囲気とか…苦手やねんなぁ…。肩凝ってしゃーないわぁ…。」
どこかの国の方言だろうか。聞き馴染みのない言葉を発するクー。
意味は分かるが、イントネーションも違っており、強い違和感があった。
それが表情に出ていたのか、クーはマリの顔を見て続ける。
「あ、ごめん。独特な訛りでしょ。普段は普通に喋るんだけど、無意識にだと方言が出ちゃうの。“気にせんといて!”」
と、言ってニコッと笑った。
クーの出身や方言についても気になるが、目先の問題を片付けるのが先だ。
ツウの救出のために、クーのパートナーとやらと合流するべきだろう。
そんなマリの考えを悟ったのか、マリが言葉に出すのに先んじて
「まずは、あたしの相方と合流しないとね。かなり変だけど、悪い人ではないから!」
そういうと、クーはおもむろに数歩前へ。
叫ぶまではいかずとも、そこそこの声でその相方とやらの名前を呼んだ。
「おーーい、シンーーーーー!行くよーーー!」
見たところ、色術を使ったような素振りもない。
我々が裏口から城を出たことも、あそこで密会していた四人しか知らない。なのに、この程度の声量で聞こえる場所に?
「そんなことで本当に合流でき…
「あいよーーー!」
どこからともなく、クーの呼び掛けに対しての返答が来た。
上だ。
ドスン!という重い音と共に、かなり背の高い男がクーの近くに着地する。
「お疲れ!クーは王城で謁見なんて柄じゃないのに長々と疲れたでしょ!」
と、シンと呼ばれる男は、まるでマリが居ないかのような晴れ晴れとした挨拶をクーと交わす。
「うっさいわ!柄じゃないは余計やアホ!今からひと仕事するから行くで!」
いい感じの夫婦漫才を繰り広げる二人。
クーに言われてやっと、シンはマリの存在に気がついた。
少し恥ずかしそうな表情で、マリに自己紹介を始める。
「すみません、お恥ずかしいところをお見せしました。シンと申します。一緒に旅をしているクーの彼氏です。」
シンはそう言って頭を下げる。
一八〇センチはありそうな大柄な青年。年齢は自分やクーよりも少し上。
腰には短刀のような得物。言動はアレだが、立ち居振る舞いからしても、かなりの使い手だろう。
そんな彼の印象は、意外と悪くなかった。というか…
「誰がアンタの彼女や!」
クーは、彼がマリに下げた頭をスパァン!と良い音で叩いた。
やっぱり。この感じ、このキャラ、既視感がマリの頭の中で鮮明になっていく。
「彼女はマリさん。今回の王城に来た件に関係してて。王様から一緒にひと仕事受けたから、臨時で一緒に行動するよ。」
クーの紹介に、よろしく、と挨拶する。
「マリで良いわよ。そっちの方がお互い楽でしょ。なんだかあなたたちとは仲良くやれそうな気がするわ。」
そう言って、マリは二人へ本心からの笑顔を向けた。
「じゃあ、お互いさん付けは無しってことで!改めてよろしく!マリ!」
心強い仲間ができた。ツウと一度組んだせいか、この二人の人柄のせいか…。
ずっと一人だったマリは、この二人には不思議と心開き、すぐに受け入れた。
楽しく心温まる時間だが、挨拶もそこそこに、早めにツウを助け出してあげないと可哀想だ。
マリはシンに、簡単な状況と、誘拐されたツウの救出が目的であることを説明した。
「誘拐ってことは、直近で命の危険に晒される可能性は低そうだな。」
と、話を聞いたシンは見解を述べ、続けて
「状況は理解したが…“カラス”とやらのアジトは国も把握していないんだろう。どうやって居所を探すんだ?」
その点は大丈夫。と、マリはシンを制した。
そして少し気恥ずかしそうに、二人へ告げる。
「ツウの…その…固有名色を、辿るから…。」
それを聞いた二人はニヤッと嫌な笑みを浮かべ…ヒュー、と茶化すような声を上げた。
そう。固有名色。
それは、その人の本名、フルネームを知るものだけが辿れる色。
初めて出会った時に明かされた、ツウの本名だ。
色術を扱える人間なら、本名さえ知っていれば誰でも辿れてしまう。そのため一般的には両親以外に、配偶者のみ知ることができるものだ。
「そっか…固有名色…うらやましいぜ。」
そう言ってシンは、クーの方をチラッと見る。
「アンタはあたしの本名知らんでも何故か居場所分かるんだから良いでしょ。」
そう言うクーに対してシンは、愛だ。と言ってドヤ顔を見せた。
「ね?キモいでしょコイツ。」
と、苦笑いを浮かべるクー。
やはりそうだ。
背格好や口調などは違えども、この軽口や話のテンポが、今囚われの身である自分の相棒。ツウと重なって見えた。
二人のやりとりを見て、マリは少しの羨ましさを感じながら…
この二人と協力して、ツウの一刻も早い救出を心に強く決めたのだった。




