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厄介な誘拐




ーーーーーーーーーー王城ーー




「要約すると、その英傑の力を継いだ4人が現れた時に、ルシードが復活して好き放題暴れるかも。って話ね。」



この国、この世界に伝わる歴史を話し終えたリムル王に、確認するような口振りで要約するマリ。



「相変わらず情緒もへったくれも無いな…。この話はまだ伝説の域を出ないが、これまで千年もの間現れなかった紫術師が、同時期に複数確認された。何らかの予兆だと考える理由としては十分足る。」



マリは諸々の事情を知っていた。自分の出生、故郷、ひとり旅をしてきた理由…。

長かったような、短かったような。



いつか、この話をツウにもするのだろうか。

その時私は、ツウは、笑顔で言葉を交わせる関係でいられているだろうか。



自分の立場も、役割も、全てを投げ打って何処かへ消えてしまいたいと何度思ったことか。


そして結果、今私の大切な人を。自分が傷付ける道に引き込んでしまった。



こうなる可能性はずっと考えていた筈なのに。

だから一人で歩いてきたのに。



「マリ、大丈夫か。流石に疲れてそうだな。もう日も落ちただろうから、今日は休んで…」



と、王が解散の言葉を口にしようとした途端




「宰相!火急の要件です!管轄内の街道で人が襲われた様子で…!」



慌てた様子で兵士が謁見の間に飛び込んできた。それを見て、宰相が慌てた様子で王へ頭を下げて謝罪する。


「宰相…、ここの話が終わってなかったらどうするつもりだったんだ?いい教育してるな、全く。」



そう小言を漏らす王。

あの飛び入り兵士は、果たして説教で済むのだろうか。



「襲われたのは商人か?映像はあるか?」


そう兵士に王が聞くと、小さな機械のようなものを床に置いた。


あれは、色術を様々なものに流用した便利器具のようなもの、色具しきぐの一つだ。



床に置かれた色具から、色術が展開される。

様々な色が組み合わさり、鮮明な映像が空中に映し出された。



それは、リルム平原の街道で、一人の男が複数の盗賊のような男たちに襲われ、連れ去られる様子。



それを見て王は


「襲われてると言うことは、商人か?最近は冒険者リバー風の装いで偽装する商人も多いと聞く。直ぐに商人組合に連絡して…」



と、冷静に状況を把握して直ぐに対処しようとした。しかし、それはマリによって遮られる。



「…ごめん、王様。アレ、くだんのバカよ。私と一緒に行動してるってやつ。」



どう見ても、襲われているのはツウだった。

先ほどの話で出した、この国の命運が掛かる要人である。



「何やってんのアイツ…!完全に伸びて…助けに行かなきゃ!」




急激にマリの中に心配と焦りが募る。

ツウは無事だろうか。ちゃんと説明しなかった自分のせいだ、ツウはこの世界のことをよく知らないと言っていたのに…!



マリの表情に憔悴が浮かぶ。考えが上手く纏まらない。

もしも、もしもツウの身に何かが起きたら…!


私のせいだ。どうしよう。落ち着け、落ち着け…




「落ち着け、マリ。」



王の、芯の入った深い声。革命家として人々の上に立ち、呼びかけてきた強い声がマリを貫く。


ビクッと身体を震わせる。

雑念が一瞬で吹き飛び、マリは冷静さを取り戻す。



マリが落ち着いたのを見た王は、片手を上げて合図し、飛び入り兵士を下がらせた。


そして兵士の姿が無くなったのを確認し、向き直る。



「今の口振りからすると、あの少年が紫持ちで、マリと一緒に活動している冒険者リバー、ということでいいな?」



マリは、そうだ。と強く頷く。



「さて困った…。襲っている奴らは通称“カラス”だな。堂々と犯行するクセに居どころが掴めない厄介な盗賊団。それに…冒険者は国の保護対象外だ。」



そう、冒険者は何があっても自己責任。それが依頼中でもそうでなくても。

だから安全のため、複数人で固まって行動することが多いのだ。



国からすると、紫持ちの要人は何としても保護したい。


が、ツウは世間的には一般の駆け出し冒険者。それを表立って国が助けるのはあまりにも不自然。




「いやぁ困った。“カラス”は、この少年を連れて王都方面へ向かったとの報告があるが…国は表立って手を出すわけには行かんからなぁ。」



そう言って王は、マリの方をチラチラとわざとらしく目を合わせに来る。



はぁ…。と、わざと聞こえるように大きく溜息を吐くマリ。本当に、頭の回る男だ。嫌なほどに。


「分かったわよ…。今回は私の落ち度でもあるし、行ってくればいいんでしょ。」


そう。これはあくまでもお忍びの依頼。

国の関与を有耶無耶にして、リバティワーカーズを通さず、この極秘事項を知っている内輪で片付けることが出来る唯一の手段だ。



マリのその言葉を聞いて、王はニヤリと嫌な笑みを浮かべた。

しかし、それを見てすかさず



「“救出”は私の尻拭い。けど“討伐”は別よ。報酬、楽しみにしてるわね。」



手を焼いていた盗賊団の討伐も一気に片付けてしまおうと言う魂胆は見え見えだ。

プラチナクラスの冒険者を安く見てもらっては困る。



すると、ここまで沈黙を貫いていたクーが、突然口を開く。




「私も一緒に行きますよ。マリさん一人じゃ危険だし、紫同士顔合わせもできます。」



急な申し出に驚くマリと王。

それは有難いが…ただでさえ紫持ちの要人が一人捕まっている状況。なるべくなら外に出したくないところだが…



「大丈夫ですよ。私のパートナーも連れて行きますし、これでも紫使い。その少年がどうかは知りませんが…私、強いですよ?」


クーはそう言ってニヤッと笑った。

むしろマリよりも…と言わんばかりの自信に満ちた表情。



少し気に触るが、紫に関してはツウの事ですっかりイメージが変わっていた。

本来は唯一無二の最強色なのだ。戦力としては間違いないだろう。



「ごめん。厄介かけるけど…よろしく、クー。」


マリは申し訳なさそうな表情で助力を乞う。


しかし、先ほどのお返しとばかりに、『足手纏いにならないでね』という言葉を孕ませた目でクーを見据えた。


それを受け取ったのか、マリへ感情の無い目で返答するクー。




女の戦いは怖い。

それを見ていた王は、何か不穏な空気を察して強い寒気を感じたのだった。

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