様式美
「ツウさ〜〜〜ん!お待たせしました!」
アズサがカウンターの奥に消えてから10分ほど経っただろうか。
変わらぬ溌剌とした…笑顔だが、心なしかさっきよりもツヤツヤしている。
「修練場奥の支部長室へどうぞ!話は通してありますので!」
そうそう捕まるものではないと思っていたが、本当に支部長に直接話が聞けるようだ。助かった。
「ありがとう、アズサさん。助かったよ。」
アズサは俺の感謝の言葉に、いえいえ〜と笑顔で返答。先程カウンターに置いた書類の山を再び持ち上げ、颯爽と仕事に戻っていった。
支部長に色術を教わった、懐かしの修練場。そのさらに奥へ進んだところにある扉。
そこには、なんだか偉そうなプレートに【支部長室】の文字。
木製の扉をノックし、反応を待つ。
少しして、気怠そうな支部長の声。
「開いてるぞ。入ってこい。」
その声に従って、中に入る。
内装は学校の校長室のような感じだ。ちょっと高そうな椅子と机に、賞状のようなものや本部からの支部長の辞令書などが並ぶ。
そして正面中央に、これまた偉そうな机と椅子に、気怠そうに座るオッサン。
テキパキと働くアズサとは正反対の、ホームの長の姿がそこにあった。
「これはこれはご機嫌麗しゅう。お久しぶりです。お忙しいところお時間作っていただきありがとうございます、支部長。」
これ以上にないほど丁寧な挨拶をかましてやった。初見で口汚く罵られたことを忘れたと思うなよオッサン。
「今の俺を見てご機嫌麗しく見えんのなら、ホームに来るより医者が先じゃねぇのか。」
不貞腐れ、頬杖をついて機嫌悪くそう言い放つ支部長。
マイナスオーラのオンパレードだ。
「何かあったんです?相当機嫌悪そうですけど。」
本題の前にそこだろう。まともな話をできない状態なら意味がない。
質問を投げかけながら、支部長の座る机の前にある椅子に腰掛けようと近づいた瞬間。
「酒クサっ!!!」
強烈な酒臭さが鼻腔を襲う。え?まさかただの二日酔い?
「言いたかないですけど、もっとアズサさん達の仕事見習った方がいいですよ。」
あの走り回る受付嬢達を見た後だ。文句の一つも出よう。
その一番上の人間が、二日酔いて部屋に篭って不機嫌そうにしているのだ。末端社員を甘く見てはいけない。
「言いたかねぇなら言わんでもいい。俺の仕事を全うした結果だ。それに、上の人間が居ないほうがうまく回るくらいでちょうどいいんだ。覚えておけ小僧。」
さらに機嫌が悪くなってしまった。すぐに調子に乗るのは俺の悪い癖だ。
謝罪を口にしようとした俺を遮るように、支部長が言葉を紡いだ。
「んで、何の用だ。二日酔いのオッサンに説教垂れにきたわけでもねぇだろ。」
支部長の方から切り出してくれた。すみません、と一言謝罪を添え、年長者の優しさに甘えることとしよう。
「実は、色術の紫について何かご存知ではいかと思いまして。」
それを聞いた支部長の表情が曇り、深くため息をつく。
すぐにまた不機嫌な表情に戻り、重い口を開いた。
「やっぱお前だったのか。紫持ちの英傑ってのは。」
英傑…?災厄とか亜神とかは聞いたけど、それまでのイメージとは正反対の肩書きが出てきたことに戸惑う俺。それを支部長は見逃さなかった。
「その反応、図星だろ。その辺は全て国家機密だ。俺とごく一部の機関のトップしか知らんし知られんから安心しろ。」
国家機密…?そう言われても思い当たる節などない。紫については,ここに聞きにきた側だ。しかし、国家機密と言う言葉を聞いて、恐れを多分に孕んだ例の言葉が口を突いて出てきてしまう。
まさかこのセリフを、俺が言うことになるとは微塵も思わなかった。
歴代の主人公達も、きっとこんな気分だったんだろう。
「俺、なんかやっちゃいました…?」




