日常の喧騒
冒険者たちの集まる、『リバティワーカーズ』、通称ホーム。
ここは毎日休まず、冒険者たちの喧騒で賑わっている。
今日もそれに違わず、入り口から進んだ大きなホールには、数えられないほどの冒険者たちが仕事や情報を求めて集まっている。
冒険者たちを掻き分け、受付を目指す。若干の視線。ただ通りすがりの人間に向ける視線とは別の。
おそらく、マリの相方として既に噂になっているのだろう。
美少女で二つ名持ちの手練れ。
パーティに限らず、チームやクランからも勧誘は少なくはなかったはずだ。
誰とも組まなかったマリが初めて組んだ、何処の馬の骨かも分からないような謎の新人。
果たしてその正体とは。
それを知るためにも、まずはアズサを探そう。
何とか受付まで辿り着き、空いているカウンターの一つに陣取った。
押し寄せる冒険者たちの対応に、受付の職員が慌ただしく働いている。
おっ、いたいた。
その中から、見知った顔を探し当てて声を掛けた。
「おーーーい、アズサさーーん。アーズーサーさーーん。」
大きく手を振って自分の存在を知らせ、名前を呼んで相手に用事があることを伝える。
「あ、ツウさーん!ちょっとだけお待ちをー!」
気がついてくれたようだ。アズサは両手を上にあげ、俺に気がついているというアピールをする。
そういえばマリが同じようにここでアズサを呼んでいたな。
ぴょんぴょん跳ねて、手を大きく振っていたマリ。この人の多さがデフォルトなら、この呼び方が癖になるのも納得である。
同じようにアズサを呼んでいる自分が、なんだか少し面白かった。無意識に顔が綻ぶ。
少しして、アズサはパタパタとカウンター越しの俺のところへ、大量の書類を持ったまま小走りでやってきた。
「すみません、お待たせして!今日は…マリさんは一緒じゃないんですね!」
そう言いながら、持っている書類をカウンターに置く。
相変わらず溌剌とした笑顔だ。忙しさも疲れも感じさせない。流石プロ。
「なんか用事あるって朝早く出てったよ。今日は聞きたいことがあって。」
アズサは、それを聞き
「相変わらずマリさんは忙しそうですね!」
と、抱えた書類の脇から顔を出しながら、俺へ笑顔を向ける。
いや、今まさに、目の前でとんでもなく忙しそうに働く人に言われても。反応に困るわ。
「ところで、五紫桀についてちょっと調べたくて…。何か情報とかあるのかな。」
それを聞いてアズサは困った顔をする。
「五紫桀ですかぁ…。文献にもあまり残ってなくて。それなりの身分の方々へ、先代から口伝されてきているだけらしいんですよ。」
それなりの身分、ねぇ。王族や位の高い貴族といったところか。
もっと伝説的な扱いで、本や演劇で題材になるようなものかと思っていたのだが…。
やはり厄災と呼ばれていただけあって、国では秘匿されているものなのか?
一抹の不安が過ぎる。
するとアズサが、
「でも、支部長なら何か知ってるかも…。ちょっと声掛けてきますね。」
と。どうやら一番上の人間にアポを取ってくれるようだ。
表がこんな状態なのに、トップがそんなに簡単に捕まるものなのだろうか。
「こんだけ忙しそうなのに、支部長に出張ってもらうのは大丈夫なの?」
流石に気が引けたので、一応アズサに聞いてみる。たとえ異世界でも、日本人としての気遣いは大切にしたい。
「いいんですよ。私たちがこんな状態なんですから。ちょっとお待ちくださいね!」
……?どういうことだろう。
小走りで奥へ消えていくアズサ。
マリを見慣れているせいかあまり気にならなかったのだが、やはりアズサも見目麗しい美少女だ。
ちょこちょこと走り去るアズサを目で追う。
マリには気品のある美しさがあり、それに加えてあの可愛らしい性格だ。
それとは違い、アズサは素朴な町娘のような可愛さ、愛嬌抜群の性格。
全く、どちらも捨てがたいことだ。
そんなことを考えながら、俺はアズサが戻るのを待った。
とりあえず、支部長から良い話が聞けることを祈ろう。




