二者二様の溜息
俺は、窓から入る陽の光と、一日の始まりを告げる街の声に目を覚ます。
それなりにグレードの高いであろう、居候させて貰っているマリの部屋のベッドの上だった。
正直、昨日リルム平原から帰ってきてからの記憶が曖昧だ。
俺たちはあの後、夜になる少し前に拠点であるリルムの街に戻った。
特に怪我もなく戻った俺たちを見て安堵したのか、門番のシュウは笑顔で出迎えてくれた。
そしてホームで依頼の達成報告を済ませ、マリと食事を取り、相部屋の自分のベッドに倒れ込んだ。
「そういえばマリは…。…もう出たのか。」
隣のベッドに目をやると、すでに整えられて空になっている。
何やら、ちょっと用事があるらしい。数日で戻ると言っていたが、他の街にでも行ったのだろうか。
それも気になるが、やはり
「はぁ…。何だよ亜神って…。もうバケモンじゃねぇか。そもそも、五紫桀ってなんなんだよ…」
転生チートどころの騒ぎでは無い。
歴史上五人しかいなかった、最強の色術使い。
そいつらがいったい何を成したのか、なぜ厄災と呼ばれるのか。
「はぁ…。調べてみるかぁ…。」
ため息が重なる。自分が紫使いだと言って回るわけにもいかないし、せめて厄災と呼ばれている理由だけでも知られれば。
それによってはこの世界で、自分の身の振り方を考えないといけないのだから。
「とは言っても、どこに行くか。俺の取れる選択肢的には…まぁ、支部長のとこが妥当だよな。」
どう質問したもんかな。と、上手い聞き方を頭で考えながら、俺は重すぎる腰をあげてホームへ行く準備を始めた。
「あらツウ。おはよう、早いわねぇ。」
階段を降りて、リバーハウスの出入り口へ向かっているところ。そう挨拶してくれたのは、この時間でもう忙しそうに働くファルさんだった。
「あ、ファルさん。おはようございます。ちょっと出てきますね。」
ちょうど朝食の準備をしているのだろう。奥からは美味しそうな、いい匂いが漂ってくる。
「朝ご飯、食べてくかい?すぐに出せるよ。」
俺の腹は空いていた。いい匂いが鼻腔と食欲をくすぐる。
ファルさんの作る食事は、美味い。が、
「ありがとうございます。マリもいないし、用事済ませがてら、街を散策して外で適当に食べようかと思ってます。」
腹は空いているが、食欲はあまりない。
頭の中を、色々な不安や葛藤が渦巻いている。食事に割くメモリは俺の頭にはなさそうだ。
そう伝えると、ファルは笑顔で
「そうかい。気をつけて行くんだよ。マリちゃんいないんだから、迷わないようにね。」
幼児か俺は。と心の中でツッコミを入れる。
でも純粋に、母親のように心配してくれるファルさんの言葉は、なんだか少し安心した。
知らない世界に一人。分からないことだらけで不安がつきまとう俺にとって、ファルさんやシュウのような存在はとてもありがたい。
俺はファルさんに、気をつけます!と笑顔で返して外に出た。
向かうはリバティワーカーズ。ホームに行ってアズサさんや支部長に、五紫桀や紫の色術について情報収集だ。
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その頃マリは、知り合いの商人が走らせる荷馬車の中だった。
うとうとしながら、商品の入った木箱の並ぶ荷台で馬車に揺られている。
「マリちゃん、随分とお疲れだね。最近男の子とパーティ組んだみたいだし。忙しいのかい?」
商人がそうマリに問いかける。
眠いながらも、護衛を兼ねて王都まで乗せてもらっているのだ。仲の良い商人とはいえ、返事くらいすべきだろう。
「まぁねー…ちょっと色々とね。今回の王都行きも関係してて。疲れというか、寝不足で眠いだけだから大丈夫よ。」
眠気に負けそうになりつつも気怠く答える。朝早いのは苦手だ。
「寝不足、ね。昨晩はお楽しみかい?」
定型文を読むようにあらゆる場所で耳にする言葉を口にするおっさん。
突っ込むのも面倒だ。あぁ…眠い…。
「出会って二日で何かあるわけないでしょう…全く。」
ドキドキしたのは私だけだったみたいだし、と小さく付け加える。
「ん?なんか言ったかい?」
と、小声が聞こえたのだろう。商人が聞き返す。
「何でもないわよ。ごめん、少し寝るわ。気配は見てるから安心して。」
どうしようもなく眠い。やはり昨日の依頼の疲れも残っているのか、単に朝早かったからか。
話の流れから、早起きの原因となったツウが、今朝横で爆睡していたのを思い出して語気が少し強くなる。
それを聞いて商人は、少し不安そうに
「大丈夫なの?王都まで乗せる代わりに、護衛するって話なんだからね。頼むよ〜。」
その辺は商人らしいというか、しっかりと交わした条件を念押しして来る。
「知ってるでしょ。私二つ名持ちのプラチナなんだけど。ホームに依頼出したら幾ら掛かると思ってんの?」
マリがそう投げかけると商人は、それもそうだな。と笑って操車に戻る。
「はぁ…久々だなぁ王都。まさかこんな要件でまた行くことになるとはなぁ。はぁ…面倒くさい。」
そう独り言を溢しながらも、マリは睡魔の誘惑に抗えず、静かに寝息を立て始めた。




