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世界色




穏やかな風が、体を包む。

草木の揺れる音が、優しく耳を打つ。


目をゆっくりと開くと、飛び込んでくる木漏れ日。

眩しさに反射的に目を細め、腕で日影を作る。



そのまま暫くすると、日の光に目が慣れてきたので体を起こした。

どうやら、とても綺麗な広い草原の木陰で横になっていたようだ。



どうやってここに来たのか、なぜ昼寝をしていたのか、全く思い出せない。


「…ここは…どこだ?」



誰に問うでもなく独りごちると




「…何寝ぼけてんのよ。」


頭の上からマリの声が。

後頭部には懐かしい感触。膝枕、好きなのかな。



「あ、すみません。おじゃましてます。」


そんな俺のおどけた発言を聞いて、マリはぺチッ、と俺の額を叩く。



「もう起きられるでしょ。これ以上の滞在は有料よ。」


恥ずかしいのか、顔が紅潮したマリはプイッと横へ顔を逸らして、俺に非情な宣告をする。


かなり名残惜しいが、有料なら仕方がない。

まだ無一文の俺に選択肢は無かった。


「仕方ない。俺の身体で支払うよ。」



と、他の手段で支払いの意思を見せたのだが、お気に召さなかったようだ。


先方はゴミを見るような目で俺を見据え、無表情なまま俺の顔のそばで、上に向けた手のひらに火を灯した。


「分かった悪かった、冗談だって。」


二人だけで依頼に出ている今なら、マリの完全犯罪が成立する。危険な提案はよそう。

これ以上機嫌を損ねぬよう、急いで身体を起こした。



するとその時、既に戦闘による痛みが消えていることに気が付いた。マリは手のひらの炎を消しながら


「アンタが気絶している間に、色術で治しておいたの。バカなこと言ってないで、まだ依頼はあと二体残ってるのよ。サクッと終わらせて帰りましょ。」



そう言ってマリは立ち上がり、草原へ目を向ける。その可愛らしい顔は、まだ少しだけ赤かった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「やっと終わったぁ…。疲れたぁ…。」


依頼の残り二体をマリと共闘して倒し、俺は夕陽の差し込む草原に座り込む。



一体目は、俺が纏色を使った近接戦闘で隙を作り、マリが色術を使った剣でトドメを刺した。


二体目は、マリが上手く敵を引きつけ、俺が遠距離から斬撃を放ってトドメを刺した。



「連携もそれなりに出来そうね。これなら一応合格かな。あとは…」


一応、一緒に戦う仲間としての試験も兼ねていたのだろう。マリは疲労困憊ひろうこんぱいの俺に、息一つ切らさずに伝える。



「ゆっくり帰りながら、他の色術のことを教えてあげる。戦っているところを観察してたんだけど、やっぱりツウの色術は紫だと思う。」



そういえばそんな話を、シゲルの工房でしていたのを思い出した。自分が実際に外で色術を使ってみて、何か実感があったわけでもない。


何故かは分からないが、自分の剣に突如現れたという紋章に目がいく。五紫桀…破桀シルヴァ、だっけか。


「でも、紫って?結局俺は今回、移動も戦闘も緑しか使ってないしさ。」


すると、もう確信したかのようにマリが話し出す。



「根拠は二つ。まず、ツウは緑を纏色して動いてたつもりだったろうけど…無意識に白も使ってる。」



白を…?使い方も分からないのに…?


「移動してた時、私が赤と白を使ってるの見てたでしょ。それに、ツウの足も治した。」



なるほど。それで効果や用途は何となくで頭に入った、と。



「そして、自分が纏色の動きに耐えられないと分かって…無意識にかばって白で身体を守ろうとしたんだと思うの。」




色術はイメージ、とはよく言ったものだ。


「確かに…俺は足を痛めてから纏色するのが少し怖くて、なるべく負担を掛けないように、ってのは意識してたよ。」


そう言うこと、とマリは納得したような表情。



「で、もう一つの根拠。ツウ、色術で全身を包み込んで、守るようなイメージを作ってみて。」



言われた通りすぐに実践してみる。

全身を包み込む…守る…


注文がフワッとしていて中々に難しい。

俺は、自分に対する衝撃を和らげるような…。

柔らかいヴェールのようなものを羽織るイメージを頭の中に作った。



「そうそう。出来てるじゃない。それが白を纏色する一番簡単なイメージよ。」



自分の身体を見ると、白いモヤのようなものが全身を包み込んでいる。


「おお。これが白の纏色か。ちょっとイメージが難しかったけど、何となくコツは分かった気がするよ。」



俺は纏色した自分の身体を動かし、観察してみた。

纏ったそれは大きく不規則に揺らいでいて、漫画やアニメでいうオーラのようなものに見える。


試しに自分の右手で、左腕を強く叩いてみる。

すると右手の叩いた感触はあるが、左腕の叩かれた感触が全くない。面白い。何とも不思議だ。




マリは観察に夢中になっている俺を引き戻すように、パン、と一つ手を叩き話を先へ進める。




「さて、それじゃあ私の纏色と見比べてみて。」




そう言ってマリは、全身へ白を纏色させていく。

それに連れてだんだんと、マリの身体全体が明るく、白くなっていく。


赤と白の装束を身に纏う美少女が、純白のオーラに身を包まれるさまは、何とも形容し難い美しさだ。




しかし、そこで違和感…というか、自分の纏色と明らかな違いがあることに気がついた。


マリの色術には、揺らぎがなかった。

全身に満遍なく広がり、薄い層のようになっている。




もう分かったでしょ?、と、俺が何かに気がついたことを悟って更に説明を始める。



「私たちは纏色、一度自分の身体を通して色を変換し、色術として使ってる。赤なら、手に纏色させてから色術として放つの。今纏色してる白で言うと、集めた色を身体に塗り広げてるような感覚ね。」




塗り広げてる…?なんだそれ…。


俺の場合は、緑を使っていた時も、今も。

自分の周囲から色をそのまま集めて身体を覆っただけだ。




「変換…?どう言うこと?」


俺には訳がわからなくなり、その疑問をそのまま口に出してマリへぶつけた。


「そもそも色術は、存在を『認識』して、自分に『纏色』させた色を『術化イメージ』させるものなのよ。一つ一つ段階を踏まないと使えないの。」



そしてそれが色術使いで、自分の身体に合わない色は、

『認識』ができても『纏色』ができない。だから『術化イメージ』までに至らず使えない、と。


ここまで昨日のアホっぽい色術の解説とは打って変わり、順序立てて理論的に話すマリ。




なるほど。マリの言っていることは何となく理解できる。でも俺はそんな段階は踏んでいない…と思う。



言葉を借りるのであれば、『認識』から直で『術化イメージ』をしている感覚。




「ツウのそれは、正確には色術じゃない。“世界に存在する色”そのものを使役してるの。纏色せずに、身体を経由させずに、色術として変換せずに。」



そしてそれは、と付け加えて


「ツウが五紫桀と呼ばれた、歴史上も含めてたった五人しかいない紫使いのあかし。別名は“世界色”。」






「簡単に言うと、そうね。全ての色術を、混ざり物無しの…純度百パーセントで扱えるってこと。厄災級の超希少な、亜神あじんみたいなものかしらね。」

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