覚悟
「まぁ、依頼もある事だし!武器も手に入ったから、腕試しも兼ねてガルム討伐、いってみよー!」
と、急に、朗らかに、右拳を高々と掲げるマリ。
「ガルム討伐だぁ!?」
シゲルさんがまた驚いた声を上げる。
破桀紋の時といい、慄いたり驚いたり…実は小心者なのではなかろうか。
「見たところツウはリバーになりたてのヒヨッコだろう!ガルムなんか相手できんのか?」
え、そんな感じの相手なの?ガルム。
平原ではマリがサクッと燃やしてたから、序盤の雑魚筆頭みたいな気持ちでいたんだけど。
「大丈夫よ、私いるんだし。その辺の雑魚じゃツウの強さを測れないでしょ。」
「えぇ……。」
俺がこの世界に来て初めての戦闘、リバーになって初めての依頼。その相手が、その辺の雑魚じゃないことがほぼ確定した。
マリは、へへーんとでも言いた気に胸を張っている。私はアホの子じゃないんだぞ、と顔に書いてある。非常に誇らしげに。キラキラと。
アホの子じゃないとできない表情を浮かべるマリと、頭を抱えてため息を吐くシゲルをよそに
俺はガルムに襲われた時の光景…もといトラウマに思いを馳せる。
平原でガルムに追いかけられ、必死に逃げて…
そういえばマリは昨日、俺が緑の色術を使って走っていたと話していた。
あの時は、風と一体化するように、風を纏うように…纏うように。そんな感覚。
生命の危機に瀕して、色術を無意識に使っていたのだろう。
そして振り返って、あまり速くない、追いついてきていない、と言う安堵。そこで集中が途切れた。
と同時に色術を解いてしまい、一気に詰め寄られて…
集中力、色術を纏う…
あの時と同じように、息をするように色術を扱えるようにならなくては。
その感覚を、何としてもこの初仕事で掴むんだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
随分と長い時間、シゲルの武具店にいた気がした。
それでも午後になり、人通りの増えてきた街道の時計の針は、まだ2時を告げようかというところ。
まだ慣れない街並みと喧騒の中を。たわいもない話をしながらマリと歩く。
無意識に、だんだんと口数が少なくなっていく。もう少しで、平原へ出る門に差し掛かる。
そんな時にマリが、ところで、と話を切り出してきた。
「色術、まだ使役したことはないのよね?」
それに対して、うん。と頷く俺。
俺の緊張を感じ取ったのだろうか。マリはとても優しい顔で続ける。
「そんなに心配しなくても大丈夫だってば。ちゃんと色術を見せてあげるし、教えてあげるから。」
色術はイメージ。
支部長やシゲルに言われたことを思い出す。
俺がこの世界で生き残れるのか。
これからもマリの隣で、くだらないことを言って笑い合えるのか。
ここが、最初の分岐点だ。




