『仲間』
建物の中は、武具店という感じではなく、カウンターがひとつ置いてあるだけの簡素な作り。武器などの商品は置いていない。
普通の店とは違う雰囲気が漂う。流石は二つ名持ち御用達の店といったところか。
すると、その二つ名持ちが急に
「久しぶりー!!シゲル!!、いるー!?」
と、大きな声でシゲルなる人物を呼びつける。不躾なやつめ。
その雑なマリの呼びかけに対し、店の奥の方から野太く、ぶっきらぼうな怒鳴り声がお返しとばかりに飛んでくる。
「奥だ!工房!勝手に入ってこい!」
それを聞いて、行こ。とだけマリが言い、慣れた足取りで、指定された工房へと向かう。
カウンターの先、家紋のような紋様があしらわれた暖簾をくぐると、その人物が居た。
「お前だと思ったよ…。何の用だおてんば娘。」
身長は高くないものの、ガッチリとした身体つきに強面でヒゲ面。如何にも『職人』という言葉の似合うシゲルが、マリに向かいながらそう言い放つ。
「その呼び方はやめてって言ったでしょヒゲオヤジ。」
と、おてんば娘はヒゲオヤジに応戦する。
「お、なら他にお前の武器をイジってくれる店が見つかることを祈ってるぜ。」
と、ニヤリと笑みを浮かべながら仕事に戻ろうとするシゲル。
「ちょ、それはズルいって!アンタしかイジれないの分かってるでしょう!悪かったってば!」
何のことやらさっぱりだが、ひとまずシゲルさんの勝利で決着がついたようだ。
「んで、そちらさんは?マリの新しい彼氏か。」
と、シゲルさんが俺を一瞥して話を進める。
「申し遅れました。マリの彼氏のツウと申します。いつも彼女がお世話になっております。」
連れに紹介してもらう立場、初対面としては当たり障りのない、完璧な自己紹介だ。
「ツウもバカなこと言ってんじゃないわよ…。というか、新しいも何も紹介したことなんてないでしょ。まず彼氏とか居たことないし。」
マリがそう反論するが、シゲルさんはガハハハ!と豪快に笑っている。
「ま、よろしくな!今日きたのは、そのツウの武器調達ってとこだろう。ちょっと待ってな!」
そう言うと、早速準備を始めるシゲルさん。
金属の棒のようなものを数本取り出し、台の上に並べている。
「さすが、話が早くて助かるわ。ついでに私の武器も見てもらえるとありがたいんだけど…。」
と、マリがシゲルさんに頼む。
「おう、その辺に置いとけ。ツウを借りるぞ。その辺で時間潰してくるといい。」
ありがと、と一言お礼を残して工房を後にするマリ。その後ろ姿が消えたのを確認してから、シゲルさんが俺に言う。
「お前らの馴れ初めに興味なんざない。が、とりあえずまず…アイツと一緒に居てくれてありがとな、ツウ。」
藪から棒にそう言われる。
やはり何かあるのだろうかと気になって、シゲルさんに聞いてみる。
「リバーハウスでファルさんって人に同じようなこと言われたんですけど…。」
あぁ。とシゲルさんは反応を示す。
「ファルも事情を知ってる1人だからな。あいつは…マリは、この街に来てからずっと…独りだったんだよ。」
そういうと、まるで肉親のような優しい表情を浮かべ、その先を続ける。
「俺たちは所謂、支援職だからな。もちろんあいつのためなら全力で手を貸すが、間接的にしか関わってやれないんだ。」
さっきの話でもあったけど、マリはパーティすら組まずにずっと独りで活動していた。何か理由があってのことだとは思うが…。
シゲルさんの口振りからして、それを本人以外の口から聞こうとするのは野暮だろう。
気にならない、と言ったら嘘になるが、聞いても聞かなくてもマリと一緒に居たい気持ちはきっと変わらない。
「だからツウはあいつにとって、リバーとして命を預けてもいいと思えた、この街で初めての相手ってわけだ。」
マリらしいというか、なんとも不器用な話だ。
大きな嬉しさと少しの可笑しさで、自然に顔が綻ぶ。
「ま、あの性格だからな。そんなことを自分で気がついてるのかも怪しいもんだ。」
そう言って、シゲルさんと俺と2人の笑い声が、静かに工房に響いた。




