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あ、どうもはじめまして。迷子です。

穏やかな風が体を包むーー

草木の揺れる音が優しく耳を打つーー


目をゆっくりと開くと飛び込んでくる木漏れ日。眩しさに反射的に目を細め、腕で日影を作る。



そのまま暫くすると、日の光に目が慣れてきたので体を起こした。どうやら、とても綺麗な広い草原の木陰で横になっていたようだ。



どうやってここに来たのか、なぜ昼寝をしていたのか、全く思い出せない。


「…ここは…どこだ?」


誰に問うでもなく独りごち、所持品を確認する。が、サイフもスマホも何も持っていない。ポケットも空だ。


服装はいつも着ているお気に入り一式。

可もなく不可もなく、特徴もなくお洒落とは言えないが、今の状況ではいつも通りなだけで少し落ち着く。


「参ったなぁ、とりあえず人を探すか…」


お金も連絡手段もなく、自分の居場所すらわからない。

目的地があるでもなく、俺は天高く座す太陽の方向へ平原を歩き始めた。



俺は尾野通おのとおる、17歳。

身長が低いことがコンプレックスの男子高校生だ。

童顔らしく、周りはみんな可愛い系男子とか言うけど、俺からすると身長が高くてカッコいい男に憧れる。

結局のところ、自分も周りも無いものねだりをしていることは分かっている。

自分が持っていないものに対して憧れを抱くのは珍しいことじゃない。




ーーー歩き始めて結構な時間が経った。


相変わらずの気持ちの良い天気と素晴らしい開放的な景色に、状況を忘れてピクニックでもしているような気分になる。



しかし。そんな爽やかな時間は唐突に終わりを迎える。

風にのって漂ってきた、かすかな鉄の臭いと強烈な腐敗臭。


日常生活、ましてやピクニックの最中に嗅ぐことはないであろう嫌な臭いだ。


あんなに綺麗だった周りの景色が、急に不穏なものに変わる。何か恐ろしいことが起こる前触れのような、ヒリついた空気が漂う。



元々宛もなく彷徨っていた俺は、不穏な空気を感じ取りながらも目印を求めるように異臭のする方向へ向かう。そこにあったのは…




何者かに食い散らかされた動物の亡骸だった。




何故こんなところに?ここには獰猛な野生動物が?



眼前に転がるのはブタともイノシシとも違う、見たことのない生き物の無残な姿。


急に訪れた、経験のない異常事態。



様々な憶測が逡巡し、恐怖と嫌悪感からすぐにその場を離れようと背を向ける。


その時、聞いたことのない動物の唸り声のようなものが耳に入る。




俺は恐る恐る振り返った。


イヌよりは大きくトラよりは小さい中型の獣が三匹、こちらを向いて唸っている。鋭い牙、荒々しい毛並み、筋肉質な脚、明らかに肉食獣だ。



ここはアイツらの狩場なのか、または俺と同じように臭いにつられてここに来たのか。脳が激しく警鐘を鳴らす。『逃げろ!』と。



俺はとにかく走った。風と一体化するように、一目散に。しかし奴らも多分に漏れず、涎を口から迸らせながらしっかり追ってきている。



「野犬…じゃないよな。オオカミ…ってあんなデカいのか!?なんだよあれ!」


全身に風を纏い、恐怖のそれから必死で逃げる。



幸いあまり足は速くないようで、今のところ距離も開いていて追いつかれそうな気配は無い。



それが分かった俺は少し安堵し、追ってくる様子を伺いながら、逃げながら、どうしたものかと思案を巡らせる。




しかし、更なる恐怖はまた突然だった。


奴らのスピードが一気に跳ね上がったのだ。



みるみるこちらに接近し、飛びかかってくる!

鋭い爪、何が起きたのかも分からず、死に対する恐怖に涙を浮かべ、悲鳴をあげ……ようとした刹那、





色術しきじゅつ、赤!燃えろ!」




謎の声、呪文のような言葉が聞こえてすぐ、俺に飛びかかってきた獣が空中で何らかの外力を受け、別ベクトルへ吹き飛んだ。



俺は腰を抜かし、地面に座り込む。飛んでいった獣が少し離れた先で燃えながら苦しそうな声をあげ、身悶え、少しして動かなくなる。



事態が把握できない俺は少しその様子を観察していたがハッと我に帰り、残りの二匹へと目をやる。


するとすぐにドン、ドンという何かを撃ち込むような音と共に残りの二匹が同様に燃え、骸と化していく。




なんだ?何が起きている?助かったのか?銃…じゃないよな、燃えてるし。声が聞こえたし、誰かが奴らを倒したのか?どうやって?



どんどん頭の中の混乱が加速していく。理解できないこの状況を、ただ呆然と眺めることしかできなかった。




「ねぇ、キミ大丈夫?」



すぐ横で女の子の声がして顔を向け…そこで俺は緊張の糸が切れ、ゆっくりと意識を手放したーーー

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