第5話 SNSレスバトル
「イルカ、これ見てよ!」
紅子が自慢げな笑みを浮かべながら、一枚の賞状をイルカに見せつけた。
「これは……『感謝状』……贈り主は……『警視総監』!? え、これ警視総監賞ってやつですか……?」
イルカは賞状の文面に目を通して、驚きの声を上げた。
「そうよ、ふふん。今朝、警察に呼ばれて貰ってきたのよ」
「はあー……お嬢様が警察から感謝状もらうとはねえ……。逮捕状の間違いじゃないんですか」
「あ゛?」
「いえ、なんでもありません。それにしても、警視総監賞って、いったい何したんですか?」
「日本に帰って来る時の飛行機で、暴れてるハイジャックをぶちのめしたお礼にって、さ」
「は、ハイジャック!? ハイジャックに遭遇したんですか!?」
「そうよ。そういえば言ってなかったかしら。驚いた?」
「驚くに決まっているでしょう。人生でハイジャックに遭遇する確率は、宝くじ当たるより低いって聞きますよ」
紅子がハイジャック犯を制圧した事自体は、イルカにとって別に驚くことではない。
ハイジャック事件から、すなわち紅子の帰還から、二週間が経っていた。
その間、紅子は特に仕事をするわけでもなく、学校や予備校に通うでもなく、炎城寺邸でぶらぶらと過ごしていた。やることといえば、日課の筋トレ、そしてパソコンをいじってネットで煽り合うことだった。つまり完全なニート生活である。
とはいえ、曲がりなりにも世界の頂点をとった格闘家である紅子は、ファイトマネーやら印税やらで、当分の間は、寝ていても莫大な稼ぎが入ってくるのだ。
「そういえば、あのハイジャック共のせいでゲームボーイ壊れたのよね……ったく、ついてないわ」
紅子は愚痴るが、偶然紅子と乗り合わせたハイジャック犯たちの方が、よっぽど不運である。
「あの、お嬢様。その事件って先々週のことですよね?」
「そうよ。わたしが帰国した日だからね」
「そんなに日が経っているのに、ネットでもテレビでも、事件のこと聞いたことないですよ。……あ、いえ。そういえば、ハイジャックがあったってのはニュースで見ました。でも、お嬢様の名前はどこにも出てなかったですけど」
イルカが不思議そうに尋ねる。
「そんなことないわよ。ネットのニュースサイトには出てたわよ」
紅子が、この二週間でそれなりに慣れた手つきでパソコンを操作し、とあるサイトの小さな記事を表示した。
「ほら、これよ。ちっちゃいけど、わたしのこと記事になってるのよ」
紅子が示したページには『格闘家・炎城寺紅子さん、お手柄。ハイジャック犯を確保』と見出しが打たれ、五行ほどの文章で事件のあらましが簡潔に記載されていた。
「ほらね?」
紅子はご満悦である。
しかしイルカは複雑な表情で言った。
「いや、あの。銃持ったハイジャック犯六人を乗客の一人が素手で制圧したって、それだけのことをして、メディアの扱いがこれっぽっちてのが逆に凄いですよ」
「そうなの?」
紅子にとっては、あんな事件など、うざったいチンピラと喧嘩した程度の認識でしかない。
「普通なら、日本中がもろ手を挙げてお嬢様を称賛して英雄になって、テレビに雑誌に二十四時間ひっぱりだこで、SNSは炎城寺紅子の信者で溢れかえり、孫の代まで自慢できる伝説になってるはずなんですがね」
「じゃあ、なんでそうならないのよ」
「それはまあ……もうマスコミも懲りてるんでしょ。お嬢様をテレビに出したりしたら、また暴言失言ヘイトスピーチを連発して、炎上確実ですから」
「そんなことしないわよ」
「いや、しましたから。お嬢様がアメリカ行って半年くらいして有名になり始めた頃は、日本のメディアも結構取材に来たでしょう。わたしも旦那様たちも、それで初めてお嬢様が生きてたの知ったんですからね。なのに、その取材が段々減っていったの気付きませんでしたか」
「そういえば、そうだったような……? ま、だとしてもさ。わたしには人気取りのために、心にもないお世辞を言うなんてできないわ」
「お世辞言わなくていいんです。ただ口開かずに黙っていれば、それで世界一のアイドルになれるんですよ、お嬢様は」
世界最強、いや女性としては史上最強の天才アスリートであり、さらに十七歳という若さと美貌を兼ねそろえておきながら、紅子は頭と口の悪さでその全てを台無しにしてしまうのだった。
「ふん、いいのよ。わたしはマスコミの力なんて借りずに、ネットの世界で自分でアピールしていくんだから。今に見てなさいよ、Twiterがまた使えるようになれば……」
「ああ。それ、できますよ」
「え」
「今朝、お嬢様のTwiterの凍結は解除されてました」
「マジ!?」
イルカの言うとおり、確かに紅子のアカウントは復活しており、自由に操作できるようになっていた。
「よし、これでまた書き込めるわね! とうとう復讐の時がやって来たわ!」
「復讐ですか?」
「そうよ。Twiterが復活したら、真っ先に潰してやろうと思ってた奴がいるのよ」
紅子は、Twiterの検索キーワードに『炎城寺』『八百長』と入力して検索を始めた。
「この方法、最近見つけたのよね。こうやって検索かければ、わたしの悪口コソコソ言ってる奴らをあぶり出せるのよ。凄いテクニックでしょ。ふふん」
紅子は誇らしげに語る。
「いえ、それただのエゴサーチですから。別に凄くないです。みんな知ってます」
「なんだ。わたしだけの秘密の必殺技だと思ってたのに」
「必殺っていうか、それやるとむしろ自分のメンタルが殺されますよ。ただでさえ叩かれまくってるお嬢様が、なんでこの上、自分から傷付きに行くんですか」
「わたしの悪口言う奴は、どこに隠れていようが見つけ出して潰すのよ。とくにわたしを『八百長』扱いした奴は、万死に値するわ」
エゴサーチによってあぶり出された紅子アンチの中に、ひと際ツイート数の多いものがいた。その名は『ヴァンス・D』であった。
「わたしが今一番ムカつくアンチがこの野郎よ。ほら、また今日もわたしのことディスってやがるわ」
ヴァンス・D@SojoSS
『ってわけで、業界としては話題になって注目されるお人形が欲しかったんだよ。だから炎城寺っていう、十代の女の子のチャンピオンを作り上げたわけ。俺なんかには見え見えの仕込みなんだけど、ま、一般人は素直に信じちゃうんだろうねw』
ヴァンス・D@SojoSS
『最近の風潮を受けいれて格闘技の大会も男女の区別を撤廃しました、そしたら女が優勝しましたー。とかもうね、わざとらしすぎるんだよね。で、その女はアジア人だから、LGBTもBLMもとりあえずご機嫌とれるってわけ。ほんと、こんな八百長にどうしてみんな騙されちゃうかなあ……w』
「ああああ! マジでうっっっっざいのよ! こいつ!」
紅子はTwiterの画面を睨みつけて叫んだ。
「どうよイルカ!?」
「はあ。まあ、たしかにこのヴァンス・Dって奴の口調は、めちゃくちゃうざいですけど」
イルカは、とりあえずの相槌を打ちながら答えた。
「でも、こいつは直接お嬢様に絡んで、煽って来たわけじゃないんでしょう」
「どっちでも一緒よ。こんなクソみたいな妄言でわたしを中傷する奴は、絶対に潰してやらないと」
「どうやって潰すんです? まさか、また『住所晒して勝負しろー』とか言う気ですか」
「ふん。そう言ったところで、クズ共はなんだかんだ言い訳して逃げるってのは、もうわかってるわ。だったら真正面から口論して、論破してやろうじゃない。頭脳戦よ」
「頭脳戦て……お嬢様の最大の弱点は、頭が悪いことじゃないですか。五段階評価でいえば、間違いなくE判定ですよ」
「わたしには、高校行くより大事なことがあったのよ」
「学歴以前の問題なんですが。中学でも、体育以外でまともな成績取ったことあります?」
「うるさいわね。んなこと、どーでもいいのよ。とにかく、このヴァンス・Dを論破する武器はあるんだからね」
「武器?」
「これよ、これ」
紅子は、先ほどイルカに見せつけた警視総監賞の賞状を持ち出してきた。
「こいつが今朝手に入ったのはグッドタイミングだったわ。この賞状は、『炎城寺紅子は銃持ったハイジャック犯より強いんです。実際に勝ったんですよ』って、警察のトップが保証している証拠でしょ?」
「まあ……確かにそうですね。警視総監賞が強さの証明って発想がもうなんか、さすがお嬢様ですよ」
「この警視総監賞の写真と、さっきのニュースサイトへのリンクを張って、ヴァンス・Dの野郎に見せつけてやるのよ。『どうだ、わたしはハイジャック犯を倒したんだぞ。これも八百長か? おい、なんとか言えよバーカバーカ』ってね。それでこいつは赤っ恥、何も反論できなくなって泣き出すこと間違いなしね。今までドヤ顔で偉そうなツイート連発してたぶん、ダメージも大きくて、Twiter引退しちゃうかもね。ふふん」
紅子はドヤ顔で偉そうに計画を語った。
だがイルカは、その計画をにべもなく切り捨てた。
「三十点」
「は?」
「そんなことでは、このヴァンス・Dを煽って悔しがらせることなど、到底出来ませんよ」
「どうしてよ!?」
「お嬢様がそのハイジャック犯確保の功績を突きつけたところで、こいつは『これも仕込みだろ』『捏造』『そんな賞状は偽造』とか言い張るだけです」
「ハア? 警察が事件を認めてんのよ、捏造なわけないじゃない。ちゃんと調べれば、仕込みだのお芝居だのじゃない、本物のハイジャック事件だってことも、わたしが銃持った男六人をぶちのめしたことも、疑いようなくはっきりわかるはずよ」
「その『ちゃんと調べれば』ってのが甘いんです。ネット民は『ちゃんと調べる』なんてしません。自分に都合のいい事象の断片だけを見て、不都合なこと・気に食わないことは全て目を閉じて無視します」
「はあああああ!?」
「しかも、このヴァンス・Dのプロフィールを見てください。『自分は個人の感想を述べてるだけなので、議論する気はありません。文句つけて絡んでこないでください』なんて書いてあるでしょう。ちゃっかり逃げ道を用意してるんですよ」
「なによそれは! お前はわたしのこと思いっきり文句つけてんだろうが!」
「直接リプライ送ってディスってるわけじゃないから、文句ではなく『個人の感想』ってことなんでしょう。虫のいい話ですがね」
「ふざけんな! 直接言わなくたって名誉毀損は成立するのよ!」
「おお。よく知ってましたね。お嬢様にしては凄いですよ」
「そもそも、なーにが『議論する気はありません』よ、このカスが。議論になったら勝てないだけだろうが」
「おっしゃるとおり。そこまでわかるなら、お嬢様が警視総監賞を叩きつけたときの、このヴァンス・Dの反応も予想がつくでしょう。そうしたところで、こいつは『あー変なのに絡まれちゃった』『バカと議論はしたくないからブロックしまーす』って言って、逃げるだけです」
「なんって卑怯な奴よ! このクソ野郎!」
「いえ、だから前にも言ったでしょう。レスバトルは卑怯が当然なんですよ」
「あーもう! それじゃあこいつを論破して悔しがらせるなんて、絶対無理じゃない! こっちがどんな証拠を用意しても、無視して逃げ出すんじゃどうしようもないわよ!」
「いえいえ、そうとも限りません。ようは攻め方の問題なんですよ」
「攻め方って?」
「ふふふ。ここはわたしが、レスバトルのお手本というものをお見せしましょう」
イルカは紅子に代わってパソコンの前に座った。
「それで、一体どうするのよ」
「お嬢様のアカウントで書き込むことになりますが、よろしいですか?」
「こいつを倒せるならね」
紅子は憎々しげにヴァンス・Dのアイコンを指さす。
「はいはい、お任せください。わたしにかかれば、こんな意識高い系一年生の僕ちゃんなんて瞬殺ですよ」
イルカは高速でキーボードをタイピングして、炎城寺紅子Twiterからヴァンス・Dへリプライを送信した。
炎城寺紅子@Redfaire
『わたしを八百長あつかいするなよカス! わたしのパンチは世界最強だから、相手が銃持ってても勝てるわ!』
「は? なによこれ?」
「まずはジャブを一発ってことです」
「いや、何よこの幼稚で頭悪い文章は!?」
「いつものお嬢様の書き込みを参考にしたんですがね……ま、とりあえず相手の反応を待ちましょう」
「これ、結局ハイジャック犯捕まえたことを見せつけて、わたしの強さを証明しようってことなんでしょ? それは通用しないって、あんたが言ったんじゃない」
「いきなりそれをやっても通用しないでしょうね。ですから、まずは敵を罠にはめる必要があるんです」
「?」
「お、返信が来ましたよ」
ヴァンス・D@SojoSS
『なんか変な人が絡んできちゃったよ……w どんな頭してたらこんな幼稚園児みたいな発言が飛び出すんだろw』
炎城寺紅子@Redfaire
『幼稚園児とはなんですか? 馬鹿にしないでください』
「なんでさっきはタメ口で文句付けたのに、今度はいきなり丁寧口調になるのよ。情緒不安定過ぎない?」
「だから、お嬢様のいつもの書き込みがこうなんですって」
ヴァンス・D@SojoSS
『いるんだよなあ、こういう人。漫画やゲームのフィクションそのまま信じ込んじゃって、格闘家は武器持った素人より強いとか思い込んでる奴。もうその思い込みが、あなたが素人だって証明なんですよねw』
ヴァンス・D@SojoSS
『あなたは力道山を知っていますか? さすがに(八百長さんでも)知ってるとは思いますが……w 伝説的な強さを誇ったプロレスラーの最後は、格闘家でも何でもないヤクザのナイフに刺されて死亡したというものです』
ヴァンス・D@SojoSS
『現代でも、ほとんどの格闘家は相手が武器を持っていたら勝てないと断言しています。格闘技とは、武器を持った相手と戦う技術ではないのです。まあ格闘家じゃないお人形さんにはわからないんでしょうけどねw』
「なによこいつ? 議論はしませんとか言ってたくせに、めっちゃ喋ってんじゃん」
「負ける議論はしたくないけど、勝てる議論なら大喜びでするってことですよ」
炎城寺紅子@Redfaire
『ほかの奴の事なんて知るかよ! わたしは勝てるんだよ!』
ヴァンス・D@SojoSS
『いや無理だってwww ここまで説明してあげて理解できないのかな?』
炎城寺紅子@Redfaire
『なら証明してやるよ! 今から三日以内にわたしが銃に勝てるって証拠見せてやるからな! わたしの言うことが正しければお前、切腹しろよ!』
ヴァンス・D@SojoSS
『いいですよw 嘘だった場合、あなたが切腹するならねwww』
炎城寺紅子@Redfaire
『いいよ』
炎城寺紅子@Redfaire
『はい。これで契約成立ね』
ヴァンス・D@SojoSS
『は? なに言ってんの』
「はい、ここです」
「え、なにが?」
「ここで、お待ちかねの警視総監賞の出番ですよ」
イルカはデジカメで手早く賞状の写真を撮り、パソコンに取り込む。
その写真と、紅子が示したニュースサイトへのリンクを合わせて、ヴァンス・Dへと叩きつけた。
炎城寺紅子@Redfaire
『はい証拠。これでおまえ切腹だなwwww』
「……何も言ってこないわね」
イルカの書き込みから十分たっても、ヴァンス・Dはなんのツイートも寄こさなかった。
「効いてるってことですよ。今は必死になって、お嬢様のハイジャック犯確保の功績のあら探しをしてるんでしょう。無駄な努力ですがね」
「そりゃそうよ。本物なんだもん」
「さて。わかりましたか、お嬢様」
イルカは、紅子の顔を見上げて語り出した。
「最初に言ったように、いきなり警視総監賞を見せつけていても、こいつは適当に言葉を濁して逃げるだけです。それを防ぐには、まず相手に自分が優位に立てると錯覚させ、議論の土俵に引きずり込むこと。そして、これまた相手に負けるはずがないと錯覚させ、逃げ道のない約束をさせたうえで言質をとること。今回は嘘つきが切腹するというものですね。これだけの準備をしたうえで、ようやく切り札は最大限に効力を発揮するのです。これがレスバトルの基本戦略です。ご理解いただけましたか?」
「……え、あ。うん……完璧に理解したわ」
「よろしい。では、とどめといきましょうか」
「とどめ?」
「はい。こうするんですよ」
イルカは、ヴァンス・Dとの一連のやり取りを改めてツイートした。
炎城寺紅子@Redfaire
#拡散希望
『ヴァンス・Dが切腹するようです。みんなで彼の最期を見届けましょうwww』
『これマジ!?』
『ヴァンス・Dってウザかったからマジでうれしい』
『あいつ死ぬんだwww』
『おもっくそ負けてんじゃんww炎城寺に論破されるってどんな馬鹿だよwww』
『切腹! 切腹!』
「これでヴァンス・Dのアカウントは大炎上ですよ」
「ってことは……わたしの勝ちってことね!」
紅子は高らかに拳を突き上げた。
「いや書き込んだのは全部わたしで……まあ、いいでしょう。メイドの勝ちは主人の勝ちですからね」
イルカは立ち上がって、紅子に席を譲った。
「ふふーん。それで、このヴァンス・Dの野郎はいつ切腹するのかしら?」
「えっ」
「できれば切腹シーンの動画とかあげてほしいわね。このわたしに牙剥いたバカがどんな哀れな死に方をするか、全世界へ発信されればアンチ共も震え上がるでしょ」
紅子は本気であった。
「いえ、あの。お嬢様。さすがに本当に切腹なんてしないですよ」
さすがのイルカも狼狽して言った。
「は? なに言ってんのよ。どっちかが切腹するって約束でしょ。このヴァンス・Dは、はっきりそう言ったし、あんただって『契約成立』って書き込んだじゃないの。今さら冗談でしたー、なんて通ると思ってんの?」
「いやいやいや! こんなのただのネットのおふざけですから! 本気で死ぬわけないでしょ!」
「ああああ!? 本気で殺さなきゃわたしの怒りは収まらないのよ! まさか、ヴァンス・Dの奴も、このまま逃げられると思ってんじゃないでしょうね!」
紅子はそう言って、絶賛炎上中のヴァンス・Dへ向けてツイートを書き込んだ。
炎城寺紅子@Redfaire
『おいヴァンス・D! お前ちゃんと切腹するんだろうな! いまさら謝っても許さないからな! 絶対切腹しろよ! 絶対だぞ!』
炎城寺紅子@Redfaire
『なんとか言えよ! 無視すんな! お前約束したよな!? わたしが銃に勝てる証拠見せたら切腹するんだよな? おい!!!』
炎城寺紅子@Redfaire
『無視すんなって言ってんだろ嘘つき! お前が切腹しないなら、わたしが殺しに行くからな! どこに住んでんだよ住所さらせよ!!! おい!!!』
炎城寺紅子@Redfaire
『おまえ絶対殺すからな!!! 覚悟しとけよ!!!』
【このアカウントは凍結されました】
「………………なによこれ」
マウスを連打しながら、いっこうに操作できなくなった画面を見て紅子がつぶやく。
「またアカBANされたみたいですね」
「なんで?」
「この状況で、本気で不思議そうな顔ができるお嬢様に『なんで』と聞きたいですよ」
「だって、こいつは自分で切腹するって言ったのよ……。わたしは約束を守れって、当たり前のことを言っただけなのに……」
紅子は顔を真っ赤にして、震える声を絞り出す。
「当たり前じゃないですから、それ。自殺教唆ですから。まあ普通に殺害予告もやっちゃってますけど」
「なんでだよ! 悪いのはこいつの方なのに! うぎいいいーーーー!」
紅子は怒りの叫びと共に机を殴りつけた。
「あ、もうキーボードを破壊しないだけの分別は付けられたようですね。お嬢様にしては凄い進歩ですよ」
もうこんな光景には慣れきってしまったイルカは、呑気に言った。