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炎城寺紅子の炎上  作者: 秋野レン
シーズン3 大炎上
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第10話 アカウントバレにご注意を①

「前にも連載が打ち切られたことといい、これはもう確定ですね。天馬くんの小説家への道を、邪魔している人間がいるのですよ……ズルズル…………」


 イルカは、夜食の醬油ヌードルを食べながら断言した。


「ズルズル……仮にそうだとしても……一体、誰がそんなことを?」


 天馬が、シーフードヌードルをすすりながら尋ねる。


「一番怪しいのは、やはり天馬くんのお父さんじゃないですか。お父さんは空峰グループの社長という超上級国民、しかも天馬くんが小説家になることに反対しているんでしょう」


「そりゃ、俺だって一度は親父を疑ったさ。けど、やっぱりそれは、ありえないんだ」


 天馬が首を振る。


「光弾出版からオファーが来たのは昨日だぜ? 俺はそのことを誰にも言ってない。光弾出版はまだ俺の本名さえも知らなかった。これでどうして、親父が俺の動きを知りえるんだ?」


「ふむふむ。たしかに謎ですねえ。『空峰天馬』が光弾出版から書籍化の打診を受けたと知っているのは、この世に天馬くんと私だけ。もちろん私も誰かに喋ったりしてません。なら、お父さんには……というか、この世の誰にも分かるはずがない……なるほど、おっしゃる通りですね」


「だろ?」


「……甘い」


「えっ」


「あまい、あまいですねえ、天馬くん。大甘ですよ。これだから世間知らずのお坊ちゃんは……」


 イルカは大げさに肩をすくめ、やれやれと首を振る。


「『誰にも喋ってないから分かるはずがない』なんて単純な考えだから、せっかくの天賦の才を活かせず、いつまでもお父さんの手の中で踊り続けることになるんです。秘密の情報が流出したなら、それは十中八九、SNSが原因ですよ」


「SNS?」


「天馬くんもTwiterくらいはやってるでしょう」


「そりゃまあ。前の担当にやっとけって言われたからな。最近の新人作家は、Twiterのフォロワー数も評価対象になるんだってさ。世知辛いよな」


「業界へのぼやきはどうでもいいです。問題は、あなたがそのTwiterに、光弾出版からオファーが来たことを書いたかどうか、です」


「…………」


「どうなんです?」


「……書いた」


「はあ……やっぱりねえ……。いるんですよ、『このことは私達だけの秘密だよ! 誰にも喋らないから!』なんて言っておいて、SNSには喜々としてアップする人間が。ネットに書いただけだから喋ってはいない、とでも言う気なんですかね」


「いや、だけど。もちろん本名は出してないぞ? 名前以外にも、個人を特定できる情報は何も載せてないし……」


「じゃあ、天馬くんのTwiter見せてくださいよ」


「……分かったよ、ほら」


 天馬がスマホのロックを解除してイルカに差し出す。二人はカップ麺を平らげて、Twiterの検証に取りかかった。



 有馬峰@7Novel_UMA

『光弾出版から書籍化の打診を受けた。嬉しい』



「なんて無味無臭のつまらないツイート……小説家のくせに、もっと面白いこと書けないんですか」


「うるさいな。他に書くこと思いつかないんだよ」


 天馬のTwiterは概ねこの調子で、毎日の日記のような近況報告が素っ気ない短文でツイートされているだけであった。


 イルカは、それらのツイートにはろくに目を通さず、Twiterの設定だけを見て即座に断言した。


「あー駄目ですね、これ。アカバレしてますよ」


「はあ!?」


「お父さんは、このアカウントが天馬くんのものだって気付いてますよ。当然、毎日チェックしてるから、天馬くんの行動も、昨日のオファーのことも筒抜けだったわけです」


「なんでそんなことが分かるんだよ。これでも身バレしないように、ツイートの内容には結構気を使ってるんだぜ」


「ツイートの内容どうこうではありません。Twiterはもっと直接的に個人のアカウントを探る方法があるんです」


 イルカは天馬のTwiter設定の、『電話番号追加』の項目を指す。


「天馬くん、アカウントに電話番号を登録してるでしょう」


「え、ああ。その方がセキュリティ強化されるってことだからな」


「この番号はお父さんも知ってますよね。この前、電話かけてきてましたから」


「そうだけど」


「Twiterの設定には『アドレス帳との連絡先同期』という項目があります。ここで誰かの電話番号を登録しておくと、その人物がTwiterのアカウントを作成したときに通知されるんですよ。『“空峰天馬”さんが“有馬峰”というアカウントでTwiterをはじめました』っていうふうにね」


「はあああっ!?」


「恐ろしいことに、この通知が行ったことはアカウント作成した本人には知らされません。アカバレしたことも、監視されてることも気付かずに、そのままのんきにTwiterを使い続けるんですよ」


「なんだそりゃ!? なら電話番号を登録するのはかえって危険じゃないか、なにがセキュリティ強化だよ!」


「Twiter社としては、アカバレはセキュリティに値しないということなんでしょう。ま、そもそもSNSは匿名でやるもんだという感覚が、日本人独特のものみたいですからね」


「マジかよ……。それ、防ぐ方法はないのか?」


「『電話番号の照合と通知を許可する』の項目をオフにすれば通知が行くことはなくなります。この項目、デフォルトでオンになってるのが怖いんですよねえ」


「すぐやってくれ」


「はいはい」


 イルカは天馬のTwiter設定を変更する。


「けど、いまさら設定変更しても遅いですけどね。もうお父さんにはアカウントバレちゃってるわけですし」


「やっぱり、親父が俺のツイートを監視していて、出版社に手を回したってことなのか……?」


 天馬としては、不仲とはいえ父親がそんなことをしているとは信じたくないようだ。


「他に可能性はないでしょう。そんな権力を持った人間が、そうそういるもんじゃありませんしね。ふむ……しかし、天馬くんのフォロワーの中に怪しい人物はいませんね……フォローはしてないということでしょうか……」


 動揺する天馬をよそに、イルカは淡々と犯人のアカウント特定を開始した。


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