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炎城寺紅子の炎上  作者: 秋野レン
シーズン3 大炎上
40/138

第4話 紅子とくじらとレスバトル④

「ええっ! この人イルカちゃんなんですか!?」


 紅子の書き込みを見て、みい子は驚きの声を上げる。


 そよぎは、やっぱりね、と言いたげな表情だった。



 砂くじら@uodnes_akuri

『イルカって誰ですか? わたしは砂くじらなんですけど……(汗)』


 炎城寺紅子@Red_Faire

『(汗)やめろ鬱陶しい! “一日中更新してるからパソコンにしがみつきっぱなしじゃないかと心配”なんて、普通誰も思わないっての。スマホがあればどこでもツイート出来るんだから』


 炎城寺紅子@Red_Faire

『そう考えないのは、わたしがスマホを持ってないことを知っている人間だけ』


 炎城寺紅子@Red_Faire

『そうなんでしょ、イルカ! 完全論破よ!』



 それきり、『砂くじら』からの反応は途絶えた。


「なにも言ってこないですね……」


「反応しないのは図星の証拠よ。逃げたのかしら?」


「じゃあ、やっぱりこの人はイルカちゃん……」


 その時、パソコンの電子音が鳴った。ビデオ通話がかかって来たのだ。


「…………」


 相手は誰か……そんなことは分かりきっている。


 紅子はしばし逡巡して、応答した。


『はいお見事、おっしゃるとおりです。お久しぶりの千堂イルカですよ、お嬢様。……おや、みい子とそよぎ様もいたのですね。これはこれは』


 ビデオ通話の画面に現れたイルカは、一か月前のことなどまるでなかったかのように、平然と話しかけてきた。


「イルカ! あんた、よくもノコノコわたしの前に顔出せたわね!」


 紅子は、ここで会ったが百年目と言わんばかりに、イルカに向かって吠える。


『おやおや。その様子ではまだお怒りのようですねえ、お嬢様』


「当たり前でしょ! ブログを荒らした上に、さんっざんわたしをコケにして逃げ出したあんたを許すと思ってんの!?」


『いえ、まあそうだろうなとは思ってましたよ。だから、謎のお助けキャラ“砂くじら”を装って様子をうかがってみたわけで』


 イルカの様子は炎城寺邸にいたころとまるで変わらない。


 長い黒髪のストレートヘアと、くりくりと動く大きな瞳、そしてヘラヘラとふてぶてしい笑いが特長的な少女だった。服装まで相変わらず、メイド服を着ている。


「ふん。あんな見え見えのお芝居に引っかかるわたしじゃないんだからね」


『ははは、あれはレベル1の初歩的なクイズです。更新頻度が心配だからパソコン云々……ってのも、ヒントのつもりでわざと書いたんですよ』


「は、後釣り宣言? 見苦しいわよイルカ!」


『おっと、なかなか小賢しい言葉を覚えられたようで。では反論いたしましょうか』


 イルカは人差し指を立てて、教師が教え子に尋ねるがごとき口調で偉そうに問いかけてくる。


『わたしのハンドルネームにも、わたしの正体を示すヒントを入れてあったんですが、お気付きになられましたか?』


「え? えと……その……考えるから、六時間くらい待ちなさいよ」


『いやいや。uodnes_akuriって逆から読めばIrukaSendouですから。これくらい即答できないのは、いくらなんでもやばいですよ』


「は、はあ!? 知ってたし! あんまり低レベルなクイズだから、裏があるのかなーってつい深読みしちゃっただけだし!」


『はいはい。そういうことにしときましょうか。それじゃあ第二問です』


「え、まだあんの……」


『“砂くじら”の方はどうでしょうか。こっちは難しいですよ。制限時間は一分としましょうか』


「く……」


「あ、わかりましたよ!」


 横からみい子が口を出した。


「イルカもくじらも、どっちもお魚です」


「そ、そうよ! わたしもそう思ってたわ、どっちも魚よ!」


『どっちも動物です』


「じゃあ、どっちも動物よ! これが正解ね!」


『違いますって……あと三十秒ですよー』


「うぐぐ……」


 紅子の頭をどう捻っても、答えなど分かりそうもない。このままではイルカに負けてしまう、それだけは我慢ならない……と思ったとき、パソコンのWEBカメラから見切れた場所で、そよぎがこちらにメモ帳を掲げていることに気付いた。

 

【漫画「GTO」で、ネットで知り合った正体不明の人物“砂くじら”が実は昔別れた友達だった、ってエピソードから取ってる】

 

(ナイスそよぎ!)


 紅子はいとこのファインプレーに内心で感謝し、イルカに向かって堂々と答えた。


「元ネタはGTOでしょ! 簡単ね!」


『ああ、そよぎ様に教えてもらったんですね』


「は、はあ!? ち、ちが、ちがうし!」


『さっきからそよぎ様が画面に映らないし、お嬢様が答える前に左の方めっちゃ見てたじゃないですか。バレバレですよ』


「ぐ、ぐぎぎぎぎぎ……!」


 何から何まで、紅子はイルカの手玉に取られてしまう。


『あははは。やっぱりお嬢様とのレスバトルは楽しいですねー。わたしが勝つから』


「はあ? なに言ってんの? あんたはわたしに負けて、泣きながら敗走したんでしょうが」


『おや。あのことは、お嬢様の中では自分が勝ったことになってるんですか』


「わたしの中で、じゃない! わたしの勝ちであんたの負け! これは全世界が認める絶対の真実なのよ!」


『そーですか、そーですか。ま、そういうことにしときましょう』


 イルカは肩をすくめた。


『さてさて、久しぶりのご挨拶はこのくらいにしておきましょうか。お嬢様のお怒りがとけていたなら、炎城寺邸に戻ろうかとも考えていたんですが……お許しを貰うには、まだ少しかかりそうですね。それでは、さようならー。うえっへっへ』


 紅子にとって、つくづく癇に障る笑いを最後に残し、イルカとの通話は切れた。


「あ・い・つ・はぁぁ~~~!」


 アンチに煽られた時の十倍の怒りと共に、紅子は歯ぎしりする。

  

「おじょうさま、イルカちゃんが元気そうでよかったですね」


 みい子としては、イルカの安否が確認できただけでも朗報だったようだ。


 だが紅子は憤懣やるかたなく、机を殴りつける。


「どこがいいのよ!!!」


 象が暴れても壊れないはずの、スチール製のデスクに亀裂が入った。


「ひいっ!」


「なんって、ふてぶてしいのよ! あのクソメイドは! もうキレた! マジキレた! こうなったら奥の手を使ってやるわ! 人狩りよっ!!!」


「ひ、ひとがり、ですか?」


「そうよ。『千堂イルカって女を捕まえたら賞金出します』って、SNSで呼びかけるのよ」


「あ、すごくいい考えですね。それならきっとイルカちゃんも見つかりますよ」


「でしょ? これで今度こそ殺してやるわ、イルカ!」


「ええ!? こ、殺すなんてだめですよ、おじょうさま!」


「はあああああ!? このわたしを、ここまでコケにしたあいつを生かしておくわけないでしょうが! あいつはね、わたしのブログを荒らして、わたしに嘘をついて、わたしをバカにして、わたしから逃げて、今日またわたしをバカにして、もう死刑確定レベルの罪を五回は犯してんのよ!」


「で、でも、死刑はいけないって『全ての人に生きる権利を』さんも言ってたじゃないですか」


「いまさらあんな糞アンチのこと思い出させるんじゃないわよ! せっかく忘れてたのに!」


 ぎゃあぎゃあと喚く紅子とみい子の傍らで、そよぎはぽつりとつぶやいた。


「なんでイルカさんはメイド服を着てたんだろ? ひょっとして、今もメイドとして働いてるのかな……?」





「やれやれ。お嬢様は相変わらずお怒りですか」


 テーブルに立てかけたスマホを回収して、千堂イルカは肩をすくめた。


「あの頑固者にも困ったものです。てゆーか結果的に、怒りをさらに煽る結果になってしまいましたかね……。ま、しょうがありません。お嬢様を見てると、ついからかいたくなるんですから」

 

 押すと爆発するボタンと分かっていても、つい押してしまうのがイルカだった。


「さてと……」


 イルカは壁にかかった時計を確認する。バイトの休憩時間がそろそろ終わりに近づいていた。


 ドアが開き、黒いエプロンを身につけた中年の女性が顔を出した。


「千堂さん。ちょっと早いけど、そろそろ戻ってもらっていいかしら」


「はい、店長」


 イルカは立ち上がった。


 そんなイルカを見て、女性は満足気に笑う。


「千堂さんがうちに来てくれて本当によかったわ。手際がいいし、器用だし。なによりメイドのキャラ付けをよく分かってるものね」


「あはは、恐縮です」


「とても素人とは思えないわよ。あなた、本当にメイド喫茶でバイトするの初めてなの?」


「はい。メイド喫茶は(・・・・・・)初めてですよ」


 イルカはにこりと笑って答えた。


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