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炎城寺紅子の炎上  作者: 秋野レン
シーズン5 史上最大の戦い
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第30話 人狼ゲーム㉚「四人目の脱落者」

 気絶した美雷が搬出されていった後、夕食となった。


 今晩のメニューは満漢全席にも劣らない中華の豪華フルコースである。


「なんかご飯が段々豪華になっていってない?」


 目の前に供された干しアワビの煮込みとフカヒレのスープを見て、紅子が言った。 


「ちょっとしたご褒美じゃよ。長く生き残った者ほど、美味い飯が食えるわけじゃ」


 六郎太は愉快そうに笑った。


「明日の晩飯はそりゃあもう、とんでもないぞ。この儂が生涯で出会った最高の美食を、これでもかと取り揃えておる。ゲームが決着した後、最後に残った勝者だけがそれにありつけるのじゃ」


(決着……か)


 北京ダックを摘まみながら、そよぎはその言葉を反芻する。


 六郎太の言うとおり、人狼チームか村人チームかどちらが勝つにせよ、明日の18時の投票で決着が付くことは間違いないのだ。


「紅子。さっき美雷を気絶させた手刀は見事だったな」


 食事の終わりごろ、天馬が探るような視線と共に紅子に話しかけた。


「なによ、急に」


「恐ろしく速い手刀だった。俺にも見えなかったぞ」


「え、ええっ!?」


 兄こそが最強と信じて疑わない紫凰が、素っ頓狂な声を上げた。


「完全なゾーン状態だな。元々強かったが、今のお前はさらにスピードが跳ね上がり、集中力も研ぎ澄まされている」


「ゾーン? なにそれ? ま、あんたでも見えなかったのなら、もう完全にわたしが宇宙最強ってことよね。ふふん」


 得意げに鼻を鳴らす紅子。


 だが、天馬の次の発言が、紅子を有頂天から引きずり下ろした。


「そうだな。けど、おかげで分かったことがある」


「えっ」


「昨日のポリグラフの結果だ。お前は、みんなが千堂のグラスに注目していた一瞬に、美雷のグラスに手を伸ばして自分のPH測定液を押し付けた。お前のさっきの動き……あれだけの速さがあれば、可能だ」


 そよぎは思わず、弾かれたように叫んだ。


「そうかっ! そうだったんだ!」


 この瞬間、そよぎを惑わせていた疑問が氷解したのだ。


「わ、わたしがそんな事した証拠が、どこにあるのよ」


「お前のグラスだけ不自然なほど反応が少なかったこと。お前と美雷が隣の席だったこと。美雷のグラスが、『あなたは人狼ですか』の質問をする前から変色していたこと。これだけ状況証拠があれば十分だ」


「う…………し、知らないわよ…………」


 そう言った紅子の声は震えている。


(これで100パーセント間違いない。『人狼』は紅子お姉ちゃんだ……!)


 そよぎは、冷や汗を流す紅子の横顔を見つめながら、今度こそ確信した。






「ごめんなさい、天馬さん」


 夕食後、そよぎは天馬に頭を下げた。


「わたし、迷って美雷さんに投票しちゃった」


「気にするな。俺も、紅子のトリックに気付いたのは投票が終わってからだ」


 天馬は穏やかに言って、そよぎの失着を許した。


 もっとも天馬が許しても、殺された美雷自身はそよぎに恨み骨髄であろうが。


「それに紫凰。お前が紅子に取り込まれないように、釘をさしておくべきだったな。過半数を抑えたと思って油断した」


「取り込まれる? 何のことですの?」


 紫凰は、いまだに状況を理解していなかった。


 時刻は午後9時。


 そよぎ、天馬、紫凰の三人は紅子をハブにして談合を開いていた。


「あの、ひょっとして美雷に投票したのはまずかったのでしょうか。やはりお兄様に相談すべきでしたか?」


「別に、いちいち俺の許可を得る必要なんかない。お前はお前の考えで好きにすればいい……」


 そこまで言って、天馬は首を振った。


「……こういう態度が不味かったんだな」


「え?」


「紫凰。このゲームで、俺はお前と相談することや、あれこれ指図することを極力避けてきた。お前には空峰家の跡取りとして、自分の考えで自立して欲しいと思っていたからだ」


「お兄様……」


「だが結局、そこを紅子に付け込まれた。もうこの際だ、お前にはちゃんと『人狼』が誰か教えておこう」


「それくらい、わたくしにも分かってますわ! 美雷と紅子ですわね!」


「違う。千堂と紅子だ」


「どっちにしろ紅子を殺せばいいんでしょう! 同じことですわ!」


「まあ……その理解でいいか……」


 呆れ顔の天馬に向かって、そよぎは言った。


「けど明日の投票の前に、今夜の襲撃があるよね」


「ああ。そして狙われるのは多分、俺だ」


「ええっ!? どうして今夜、襲撃されるのがお兄様だと分かるのです?」


「紅子の立場で考えてみろ。『人狼』のあいつが勝つには、明日の投票で残った『村人』二人のうち、ひとりを騙してもう片方に投票させるしかない。なら天馬、紫凰、そよぎのうち誰が騙しやすい?」


「紅子に騙される奴なんていませんわよ!」


「いや、お前今日思いっきり騙されただろうが」


「……うぐ。そりゃあ……お兄様と比べたら、わたくしの方が劣るのは当然ですよね……。それに……そよぎだって頭いいですし………」


「そうだな。そして紅子は当然、お前以上にそよぎを評価している」


 紫凰はギリギリと歯ぎしりを始めた。


「つまり、紅子はわたくしを『残したい』と考えている……。騙して操るためのカモと思ってるんですわね……! きいぃぃぃ……! あいつめぇぇえ……! 舐めやがってぇぇ!」


「それで紫凰、お前は残すとしてだ。もうひとり残すのは誰がいい? これも決まってる、そよぎだ。俺とお前が残った場合、お前が俺より紅子に味方するとは考えられないからだ」


「だから今夜殺されるのは、お兄様だと……」


「そう。今夜俺を殺して、明日の投票でお前を騙してそよぎを『人狼』だと信じ込ませて処刑する。それが紅子に残された勝利のシナリオだ」


「ふん! 紅子め、騙されるものですか! 明日は必ずあいつを処刑してブチ殺してやりますわ!!!」


 紫凰は地団太を踏みながら叫んだ


「そうだ。そこまで分かっていればいい。……あとは頼むぞ、紫凰、そよぎ」


「はい!」


「うん」


 紫凰とそよぎは、強くうなずいた。






 10月7日。


「ん……」


 そよぎは、カーテンの隙間から漏れる朝日のまぶしさに目を覚ました。


 時計を見ると、午前7時。


 襲撃で殺されはしなかったのだ。


「やっぱり狙われたのは天馬さんか……」


 予定調和の流れというわけだ。


「よかった、死ななくて」


 最終的に村人チームが勝ったとしても、最後まで残るのと途中退場では、やはり評価は違うはずだ。そよぎとしても、できることなら生き残りたいと思っていた。


「よしっ……!」


 そよぎは気合を入れて起き上がる。


 洗顔し、服を着替えて、部屋を出た。


 紅子は今日一日、紫凰を取り込もうと動くはずだ。まさか紫凰が二日続けて騙されるとは思えないが、それでも万一という事がある。


 朝食の席で顔を合わせたら、もう一度しっかり「紅子を殺す」と約束しておくべきだ。


 そう考え、食堂に足を踏み入れたそよぎが見たものは――――。


「天馬……さん……?」


 昨日と変わらず席についている、天馬の姿だった。


「え、天馬さん……襲撃されなかったの……?」


「ああ。どういう訳だかな……」


 不可解な表情を浮かべながら、天馬は言った。


「それじゃ……昨日の夜殺されたのは……紫凰さんなの……?」




◆――――◆――――◆




「きぃぃぃぃいぃいいっ! なんでわたくしが殺されなくてはなりませんのーーーー! ぜったい、ぜったい紅子を吊るしてやるって、決めてましたのにーーー!!! あんのゴウカザルがあああああああああああああああああ!!!」


 早朝、別館に連行されてきてからずっと紫凰は喚き続けていた。


「残ったのは、天馬とそよぎだと……? フン。紅子め、どういうつもりだ」


 泣き叫ぶ紫凰を横目に、王我が鼻を鳴らした。


「ほんっと大馬鹿ね、紅子は。自分が知恵比べで勝てる相手は紫凰だけってことが分からないのかしら」


 美雷も冷ややかに言い放つ。


「まー、あのキチガイにまともな判断が出来るはずもないか。とにかくこれで、村人チームの勝ちは決まりね」


 美雷は余裕の態度で、別館の壊れかけた椅子にふんぞり返った。


 だが。


 そんな彼らの様子を離れて眺めていたイルカは、静かに笑う。


「ふふ、いい感じですね。最終日に残った相手が海原そよぎと空峰天馬……。お嬢様、それでいいんですよ……」


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