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炎城寺紅子の炎上  作者: 秋野レン
シーズン5 史上最大の戦い
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第28話 人狼ゲーム㉘「ゆらぐキャスティングボート」

 天馬と美雷が票固めを行っていたころ。


 そよぎは中庭で一人、暗中模索に陥っていた。


 処刑投票の開始まで1時間を切ったが、そよぎの迷いはいまだ晴れない。


(昨日のポリグラフの結果……天馬さんは気にするなって言った。そりゃあ、あれが公正な実験の結果なら、わたしもそうする。けど実際には、紅子お姉ちゃんのグラスのPH測定液は美雷さんの五倍の濃度があった。それなのに、あれだけハッキリした差が出るのは……誤差とか偶然とはとても思えない)


 さすがに、あの噓発見器自体が噓っぱちだったなどとは、天馬にも言うことはできない。そよぎは一人、悩み続けるのだった。


(あのとき、お姉ちゃんが何かしたの? それともイルカさん? それとも、本当に美雷さんが『人狼』だった……? あるの、その可能性も……?)


 もう何十回目かの自問自答を繰り返したところで、そよぎは別のアプローチを試みることにした。


「……あれ、やってみようかな」


 そよぎは目を閉じ、深呼吸をした。

 

「すーはー……すーはー……」


 深く、深く、息を吐き、全身を弛緩させて集中力を高める。


 そして、己の記憶をたどるための瞑想を開始した。


「マインドパレス……」




 ――――あのとき。


 

 ――――何が起こったのか?


 

 『紅子のグラス』『美雷のグラス』『変色』『汗』『心理状態』



 『なぜ』『トリック』『誰が』『第三者』『偶然』『人狼』『村人』



 『ポリグラフ』『イルカ』『調合ミス』『体温』『体質』『嘘』『PH』



 ………………………………………………………………。



 ………………………………………。


 

 ………………。




「……ぎ様……そよぎ様!」


 耳元で自分を呼ぶ声を聞き、そよぎは目を開いた。


「……ん……」


「そよぎ様、どうされたのですか。こんなところでお休みされていたら風邪をひきますよ」


 小田桐だった。


「あ……はい……」


 そよぎはぼんやりとした頭を振り、意識を戻す。


「また失敗かぁ……」


 そよぎはこの瞑想による思考法を数年前からしばしば試みているのだが、成功したことは一度もなかった。


「失敗?」


「あ、いえ。なんでもないです」


「はあ。ところで、ただ今17時50分なのですが」


「え、もうそんな時間なんですか……」


 ポケットからスマホを出して確かめると、小田桐の言う通りだった。


「すぐ投票が始まるので食堂へお急ぎください。18時までに間に合わなければ失格になってしまいますよ」


「分かりました」


 いまだ投票先を決めきれぬまま、そよぎは立ち上がった。






【shion】

『伊豆の島に遅めのバカンスに来ています♡ でも今年は寒すぎて泳げないよ~(/ω\)』


 いいね:1.1万 コメント:28



「おーっほっほっほ! どうかしら紅子? インスタ投稿から15分で1万いいねを超えましたわよ!?」


「はっ。その程度で馬鹿笑いしてんじゃないわよ。おめでたい奴ね」


「ふん、あなたの投稿はたったの200いいねじゃないですの。わたくしの圧勝……」


「よく見なさいよ狐女。わたしの投稿にはコメントが300付いてるのよ」


「え……えええっ!? そんな、まさか……!」


「コメントは1個で100ポイント計算だったわよね? トータル3万点越えでわたしの勝ちよ!」


「ちょっと待ちなさい! このコメント……『また金持ち自慢かよ』『ブス』『消えて欲しい』『死んでください』……アンチコメばかりじゃないですの! こんなの無効ですわ!」


「はあ~? そんなことルールで決めてなかったもんねー! わたしの勝ち、あんたの負け! やーい負け犬ー!」


「き、きいぃぃぃぃぃ! 紅子おおぉぉお! 殺してやるわぁぁ!」


 そよぎが食堂へ向かう途中、紅子と紫凰が廊下で争っていた。


「……二人とも、なにやってるの?」


「ああ、そよぎ。今インスタ自撮りバトルしてたのよ。それで、わたしが紫凰に圧倒的勝利を……」


「なにが勝利ですのゴウカザル! こんなインチキ無効だと言っているでしょうが!」


「それより、早く食堂に行かなくちゃ。18時過ぎちゃうとみんな失格になっちゃうんだよ」


 そんな形でこのゲームが決着すれば、五輪一族は末代までの笑いものだ。


 そよぎは呆れて二人を促した。


「そうね。紫凰、あんたも行くわよ」


「チッ……覚えてなさい。次こそフォロワー53万のわたくしのインスタ戦闘力を思い知らせてやりますからね」


 ブツブツと言いながら、紫凰は紅子とそよぎと連れ立って歩き出した。


「紫凰」


 紅子が改まった様子で紫凰を振り返った。


「あの約束は、ちゃんと守ってよね」


「……ええ。約束ですものね、ちゃーんと分かってましてよ。ふふっ」


 紫凰はなにやら腹に一物含んだ様子で、笑いながらうなずいた。


(紅子お姉ちゃんと紫凰さんが約束……?)


 犬猿の仲の紅子と紫凰。現に今の今もいがみ合っていた二人の間に、どんな約束があるというのか。この後の投票に関わることなのは間違いないだろうが。


(そうか。多分、お姉ちゃんは紫凰さんに『美雷に投票するな』って言ったんだ。それが約束の内容。さっきの表情を見る限り、紫凰さんは裏切る気満々だけど……。でも、実はそれこそがお姉ちゃんの罠。お姉ちゃんの立場なら、美雷さんに投票して欲しいに決まってるもん)


 そよぎの頭脳は、一瞬でそこまでの答えを出す。


(……食堂に行かずにインスタで時間を潰してたのもお姉ちゃんの作戦だね。なんでもいいから喧嘩を吹っ掛けて紫凰さんを足止めしておく。そうすれば、投票前に天馬さんや美雷さんから余計なことを吹き込まれて、紫凰さんが心変わりする危険を回避できるから……)


 紅子や紫凰レベルの思考など、そよぎには完全に筒抜けなのだ。


 その予想通り、紅子は紫凰に聞かれないよう、こっそりそよぎに耳打ちしてきた。


「ね、そよぎ。わたしと一緒に美雷に投票しましょ。あいつ絶対『人狼』だって。殺そ、殺そ」


「うん……考えとくよ…………」


(お姉ちゃんは美雷さんを殺したがっている。そのために紫凰さんを騙して、わたしも取り込もうとして……。でも、だからといって……お姉ちゃんが『人狼』だとは限らない……。お姉ちゃんが『村人』で美雷さんが『人狼』でも、やっぱり同じように行動するはずなんだから……)


 このままなら、紅子と紫凰は美雷に入れる。おそらく天馬と美雷は紅子に入れるのだろう。


 二票と二票。


 そよぎの最後の一票が、決定権を握るキャスティングボートとなるのだ。


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