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炎城寺紅子の炎上  作者: 秋野レン
シーズン2 宿命の対決
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第1話 不人気動画の作り方①

 アメリカのとあるメジャー雑誌に『世界の十代十傑』という企画がある。その名の通り、毎年偉大な功績を残したティーンエージャーを、世界中から十人選んで取り上げるというものである。


 今年、その企画で選出された十人の中には、日本人の名があった。


 炎城寺えんじょうじ紅子べにこ――十七歳にして総合格闘技の全米チャンピオン。年齢、体重、性別、あらゆるハンデを覆し、世界最強の称号を手にした少女だった。


 だが、その炎城寺紅子はチャンピオンになったその日に、引退を宣言してアメリカの格闘技界から姿を消してしまった。故郷である日本へ帰国したとのことだが、年若い彼女がどうして、なんのために引退したのか、詳しく知るものは少ない。


 アメリカ、いや世界中の多くの人々は疑問に思っている。

 今、炎城寺紅子は何をしているのだろうか――?


 

「ああーーーちっくしょう! またわたしをバカにしやがって! くそくそ! くやしいいーーー!」


 その炎城寺紅子は今、インターネットで煽られて涙目になっていた。


 

 炎城寺紅子@Redfaire

『夢月らいちさん。あなたはYOUTUMEの動画で、わたしのことを日本一バカな女だと言っていましたね。すぐ謝ってください。謝らない場合は警察に追放します』

 

 夢月らいち◆コスプレイヤー@dream7

『追放wwww通報って言いたいんですかw』

 

 炎城寺紅子@Redfaire

『あげ足取りはやめてください。謝らないと警察に通報します。刑務所に行きたいんですか』

 

 夢月らいち◆コスプレイヤー@dream7

『もうその発言があなたがバカだと証明してるんですけどww』

 

 炎城寺紅子@Redfaire

『わたしが礼儀正しくしているうちに謝ってください。怒りますよ』

 

 夢月らいち◆コスプレイヤー@dream7

『あなたのハンドルネーム、faireってもしかして火のつもりですか。正しいスペルはfireですよw』

 

 炎城寺紅子@Redfaire

『あげ足取りはやめろって言ってるだろころすぞ』

 

 夢月らいち◆コスプレイヤー@dream7

『本当にアメリカで二年も暮らしてたんですかw え、八百長試合だけじゃなくて、そっから作り話なのwww』

 

 炎城寺紅子@Redfaire

『わたしは八百長なんかしてません。あなたのような嘘つきは絶対刑務所に行くべきです』

 

 夢月らいち◆コスプレイヤー@dream7

『あなたは小学校に行くべきですねwwあ、幼稚園のほうがいいかなwwww』

 

 炎城寺紅子@Redfaire

『おいクソアマおまえいい度胸だなおい! 次のおまえの撮影会に殴り込みにいってやるからな覚悟しろよ!!!』

 

 夢月らいち◆コスプレイヤー@dream7

『はい犯罪予告ww警察に通報しときますねwww』

 

『炎城寺ざまあw』

 

『ほんとうにどうしようもないなこいつw』

 

『らいちさん、こんな人に構わないほうがいいですよ』



「うぎいいいいいーーーーー!」


 紅子は、自室のパソコンの画面に表示されているSNS――『Twiter』のやり取りを睨みつけながら、金切り声を上げた。


 偶然見かけた動画で、コスプレイヤー夢月らいちが自分のことをバカにしていると知った紅子は、文句を言ってやろうとTwiterで抗議した。だが結局、謝罪させるどころか、らいち本人と取り巻きに散々煽り返されてしまったわけである。


「ちくしょうちくしょうっ! リアルで勝負すれば、こんなやつ秒殺で沈めてやれるのに!」


 じたばたと自室の床の上を転げ回りながら、顔を真赤にして悔しがる。


 殴り合いなら世界最強の天才・炎城寺紅子は、口喧嘩では世界最弱だった。


「お嬢様。お茶をお持ちしましたよ」


 メイド服に身を包んだ少女が、ドアを開けて入ってきた。少女が片手に持った盆にはプロテインシェイカーが載せられている。紅子にとって「お茶」とはプロテインのことなのだ。


「イルカ! いいところに来たわね、こいつに仕返ししてやってよ!」


 紅子は床から立ち上がり、パソコンのモニタを指さす。


「なんですか、またネットで煽られたんですか」


 メイドの少女――千堂せんどうイルカは呆れて答えた。


 お嬢様と呼ばれている通り、紅子は日本有数の資産家である炎城寺家の一人娘である。イルカは、その紅子が幼い時から傍で仕えてきた腹心の侍女であり、親友だった。


「どれどれ……え、夢月らいちって超有名なコスプレイヤーじゃないですか。こんな人と絡めるなんて、やっぱお嬢様はすごいですねえ」


 イルカはTwiterのやり取りを見て感心する。


「なにが超有名よ、こんな奴よりわたしのほうが有名に決まってんでしょ。わたしはアメリカで『世界の十代十傑』に選ばれたのよ」


「それ、取り下げろって抗議が山ほど来てるらしいじゃないですか」


 紅子は世界的有名人だが、その頭と口の悪さゆえに、世界中のあらゆるネット社会で叩かれている嫌われ者である。


「うっさいわね。とにかく、このコスプレ女は許さないわ。絶対こいつを悔しがらせて泣かせてやるんだから。戦争レスバトルの時間よ、イルカ!」


「はいはい。では失礼しますよ」


 選手交代、とばかりにイルカがパソコンの前に座る。


「…………ふむふむ…………ふーん……では、こんな返しはいかがでしょう」


 イルカはしばらく夢月らいちのTwiterを眺めたのち、紅子のアカウントからリプライを書き込んだ。


 

 炎城寺紅子@Redfaire

『らいちさんって、いつも同じ角度で写真撮ってますね』

 

 炎城寺紅子@Redfaire

『左ななめ上からの構図ばっかりですけど、なにかこだわりあるんですか。正面から撮れないんですかw』

 

 夢月らいち◆コスプレイヤー@dream7

『ポーズ決めるの私じゃないんですけど。お仕事で言われた通りに撮ってるだけです』

 


「あ、効いてるわこれ! 語尾にダブリューが付かなくなったもん!」


 紅子がプロテイン片手に笑い出す。


 

『言われてみれば似たような構図多いな、この人……』

 

『どんなポーズでも顔の角度ほとんど同じだ』

 

『やめてw言われなきゃ気付かなかったのにwww』


 

「いい流れですね。中立の位置にいたフォロワーが、こっち側に寄ってきましたよ」


「よしよし! その調子でもっと煽り散らしなさい!」


 気を良くした紅子がはやし立てる。


「では、ここでさらに追撃の一手を、と……」


 イルカは高速でタイピングし、ツイートを連発していった。


 

 夢月らいち◆コスプレイヤー@dream7

『何も知らない素人が勝手なこと言わないでください。無知をさらすだけですよ』

 

 炎城寺紅子@Redfaire

『あ、ごめんなさい。プロにはいろいろあるんですよねw失礼しましたw』

 

 炎城寺紅子@Redfaire

『ところで、らいちさんがよく上げてるスイーツの写真ですけど』

 

 炎城寺紅子@Redfaire

『なんでいつもテーブルの手前半分しか写さないんですか? 向こうに誰かいるんですか? いつも一人でカフェ巡りしてまーす、って言ってるのに』

 

 夢月らいち◆コスプレイヤー@dream7

『いません』

 

 炎城寺紅子@Redfaire

『先週アップした、池袋のカフェの写真もおかしいですよね。卓上にコーヒーミルクが写ってますよ。らいちさんが注文したのはレモンティーなのに。レモンティーにミルクなんて入れませんよね。コーヒー頼んだのは誰なんですか?』

 

【この画像は夢月らいち◆コスプレイヤー@dream7さんによって削除されました】

 

 炎城寺紅子@Redfaire

『池袋の写真削除されたみたいですね。わたしは保存していたのでアップしときます。気になる人はどうぞ』

 

 炎城寺紅子@Redfaire

『で、一緒にいる人は誰なんですか?』

 

 炎城寺紅子@Redfaire

『ひょっとして彼氏ですか?』

 

 炎城寺紅子@Redfaire

『おーい、もしもーし?』

 

【夢月らいち◆コスプレイヤー@dream7さんはあなたをブロックしました】


 

「……ブロックしてきましたか。まあ、これくらいで十分でしょう」


 そう言って、イルカは席を立つ。


「ブロックしたってことはあいつの負け! このバトルわたしの勝ちね!」


 紅子の脳内ルールでは、Twiterで相手をブロックすることは口論からの逃げであり、敗北なのである。……この歪んだ価値観のせいで、紅子のTwiterは百人以上のアンチに常時粘着され、荒らされ続ける地獄の惨状になっているのだが。


 とはいえ、イルカの書き込みは夢月らいちのフォロワー達に衝撃を与えたようで、彼らは早速らいちの過去のツイートを掘り起こして検証を始めた。この様子をかんがみれば、今のらいちが先ほどまでの紅子と同じように、顔を真っ赤にして悔しがっているであろうことは想像に難くない。


 紅子は満足気にうなずいて、椅子に腰を下ろした。


「でも、なんで彼氏いるのかって聞いただけで、こいつは逃げ出したのかしら?」


「わからないんですか。やれやれ……お嬢様はITスキル以前に、世間の常識というものを身に付けるべきですね」


 イルカは偉そうに肩をすくめた。


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