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炎城寺紅子の炎上  作者: 秋野レン
シーズン5 史上最大の戦い
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第6話 人狼ゲーム⑥「さぐりあい」

「儂はこれでいったん下がらせてもらう。あとはお前たちで好きにせい。本格的にゲームが動き出すのは0時からじゃが、話し合って『人狼』を推理するだけなら今からでもできるしの。もちろん自分の部屋に戻るのも構わんぞ」


 そう言い残し、六郎太は食堂を出て行った。


 五輪本家の使用人たちも後に続く。


「………………」


 残された紅子たちは、なんとなく黙ったまま、ちらちらとお互いの様子をうかがっていた。


「……ねえ、イルカは何のカード引いたの?」


 沈黙に耐え切れなくなった紅子は、とりあえずイルカに聞いてみた。


「『村人』です」


 イルカはあっさり答えた。


「そよぎは?」


「『村人』だよ」


 そよぎもよどみなく答える。


「ふーん。イルカもそよぎも『村人』なんだ」


 もちろん、それが本当かどうかは本人にしか分からない。


「お姉ちゃんはどうだったの?」


「……『村人』よ」


 紅子は平静を装いながら嘘をつく。


「お兄様のカードはなんでしたの?」


 紫凰が天馬に聞いた。


「『村人』だった。紫凰、お前は?」


「もちろん、わたくしも『村人』ですわ」


 なにが「もちろん」なのか意味不明だが、紫凰は答えた。


「王我は?」


 天馬が王我に顔を向ける。


「『村人』だ。美雷、貴様はなんだ」


「『村人』」


「………………………………」


 七人全員が自称『村人』であった。


「ちょっと、嘘ついてんじゃないわよ! あんたら六人のうち二人は絶対『人狼』の筈でしょうが!」


(なーんて。わたしが『人狼』だから本当はあと一人なんだけどね)


 紅子は声を荒げながら、心の中でぺろりと舌を出した。


「ま、嘘をつかなければゲームにならないですからね」


 イルカが肩をすくめて言った。


「問題は、嘘をついてるのがこの中の誰かってことだ」


「そうよね。それが問題だわ。うんうん、激しく同意」


 紅子はこれ見よがしにうなずき、周囲の六人をぐるりと見渡したあと、最初から決めていたターゲットを指差した。


「わたしは紫凰が怪しいと思うわ。明日はこいつを処刑しましょ」


「はあああああああ!? なに言ってますのこのクソ猿! そんなこと言って、本当はあなたが『人狼』なのでしょう!」


「は……ち、違うし! わたしめっちゃ『村人』だし! この炎城寺紅子がそんな卑怯な真似すると思うの!?」


「真っ先に『処刑しろー』なんて言い出す奴ほど怪しいのですわ!」


「そうやってムキになるアンタのほうが怪しいでしょ!」


 紅子と紫凰は五輪一族でも特に相性最悪の犬猿の仲だ。理由は単純、同族嫌悪である。


「お嬢様、落ち着いてください。殴ったら即失格ですよ。深呼吸、深呼吸」


 そろそろ腕力行使を始めようとしていた紅子を、イルカが諫めた。


「分かってるわよ……ふーー、ふー……うん、落ち着いた。……落ち着いて冷静に考えると、うん……紫凰と王我が怪しいと思うわ」


「まだ言いますか」


「はん。わたくしは逆に紅子が怪しいと思いますわ。さっきまで顔真っ赤でしたもの。それと……美雷ですわね。この二人がきっと『人狼』ですわ」


 紫凰は主張する。


「は? なに言ってるのよこのデスワー。怪しいのは紅子と天馬よ」


 突然疑いをかけられた美雷が反論する。


「『人狼』は紅子とそよぎだ。この二人を処刑すべきだな」


 王我まで言い出した。


「お前ら、嫌いな相手の名前言ってるだけだろ」


 天馬が呆れて突っ込んだ。


「お嬢様大人気ですねぇ」


「というか、現時点で誰を処刑するかなんて考える必要はないだろ。処刑投票は明日の夕方なんだからな。それより今夜、まず『人狼』の襲撃がある。これをどうするかだ」


「襲撃を防げるのは『騎士』の能力だけ。それが出来なければ、今夜さっそく村人チームから一人脱落するわけよね」


「『騎士』は誰なの?」


 紅子はきょろきょろと周りをうかがう。


「おーい。『騎士』の人、手をあげてー」


 誰も反応しない。


「……いや、なんでよ。『人狼』が名乗り出ないのは当然だけど、『騎士』までどうしてコソコソ隠れてんのよ」


「当然だろ。『人狼』にとって最も邪魔になるのは『騎士』の能力だから、自分が『騎士』であることがバレたら真っ先に狙われる」


「『騎士』は自分自身を守ることが出来ないですからね」


 天馬とイルカが解説してくれた。


「はーん、なるほどね。『騎士』もいろいろ考えてんのね」


「とか言っておいて、貴様が『騎士』なんじゃないのか」


 ふむふむと頷く紅子に、王我が絡んできた。


「あんたさっきわたしが『人狼』だって言ったじゃないの」


「ほう、やはり『人狼』だったのか」


「そーいうのやめなさいよ! ほんっとクソみたいな性格してるわねあんた!」


 態度は尊大なくせに、やることは妙にセコイのが王我である。


「ま、『騎士』が誰かってのは我々『村人』にとっては大して意味のないことですよ。『人狼』にとっては大事でしょうけど」


「そうなんだ。じゃあ、わたしは『村人』だから関係ないわ。『村人』だからねー」


「………………」


 わざとらしく主張する紅子を、すでにこの場の数人は疑いの目で見ていることに、本人は気付いていない。


「『騎士』が誰かってことはどうでもいいのよ。問題は、『騎士』が今夜誰を守るかってことでしょ」


 美雷が頬杖をつきながら言った。


「オレだな。誰が『騎士』かは知らんが、ゲームに勝ちたければオレを守るべきだ」


 王我が主張する。


「なに勝手なこと言ってるのよ、このオレ様使い」


「『オレ様』など使った覚えはないわ中二病女」


「王我よりあたしよ。このメンバーでただ一人の常識人である、あたしが生き残るべきよ」


 自称常識人の美雷は、五輪一族を「気違いの集団」として嫌悪している。


 この後継者決定戦にも本来乗り気ではなかったのだが、いざ勝負が始まれば真剣である。その闘争本能こそまさに五輪一族の血統、戦闘民族の遺伝子なのだが。


「守るのはわたくしに決まってるでしょう! この空峰紫凰がゲーム開始直後に死亡したら村人チームは勝てませんわ!」


「僭越ながらわたしを! 千堂イルカをお願いします!」


「はあっ!? メイドの分際でなんて図々しい!」


 紫凰とイルカも我こそはと主張し始めた。


 たしかに、今夜早々に『人狼』の襲撃で死んでしまえば、この大勝負にほとんど参加できず指をくわえて見ているだけだ。そんなことは御免、と考えるのは当然だろう。


 が、紅子にとってそんな心配は無用である。『人狼』である自分は殺されるのではなく、殺す側なのだから。


(はあー、見苦しい連中。ぎゃあぎゃあ騒いじゃって、どいつもこいつも助かりたくって必死ね。ま、『人狼』のわたしは高みの見物、と……)


 ふんぞり返って余裕をかます紅子だったが、ふと気付いた。


(……ん? あれ、でも……ここで何も言わずにいたら……)


 紅子の脳内で、にっくき紫凰と王我が因縁をつけてくる映像が展開された。



『紅子のやつ、なぜあんなに余裕なんだ? 自分が今夜死ぬことはないと確信しているようではないか』


『ってことは紅子は人狼ですわ! 処刑! 処刑しましょう!』


『しょーけーい! しょーけーい!』



(……駄目じゃん! 『人狼』だってばれるじゃん!)


 慌てて紅子は口を開く。


「わ、わたしを守りなさいよ『騎士』! わたしを守れって! わたし『村人』だし! 襲撃とか超怖いから! いいわね!」


 またしてもわざとらしい発言を繰り返す紅子は、ますます疑わし気な目で見られるのだった。


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