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第2話「約束」

 毎日学校へ来て、1から6時間目までちゃんと受けるというのがこんなにだりぃことなんて久しぶりに感じた。学校へ来ても屋上でずっと寝ていた俺にとっては50分の授業というのは辛いものになっていた。もうすでに俺の決意は敗れようとしていた。


 俺は帰りにいつも寄る公園へ向かっていた。家の近くの公園だ。人も少なくゆっくりするにはいいところだ。人が少なくいと安心してタバコを吸えるからだ。 


 それにしても転校生はすごい人気だった。東京から来たってのもあるんだろうが、何よりその可愛さで他のクラスの男子や先輩がわんさか来ていた。俺はそのせいで大変だった。


「神田川、何かわからん事があったら桂に聞いてええからな」


そう先生が言ったらしい。転校したての神田川は学校に何があるとかわからない。


「神田川さん、僕が学校案内してあげるで」


「いや、俺が案内する!」


取り合いだ。


別に誰が案内したって一緒だろう。しかもそれを俺の横の席でしやがる。せっかくの昼休みが台無しになる。


「みんなありがとう。でも先生からわからなかったら健二君に聞くようにって言われてるから」


男子共の目線が俺に集中した。


「あ、あほ。んなだるいことするか。こんなに案内したがっとるやつおるんやからそいつらに頼めや」


「え、でも私…」


神田川は何か言い足たそうだったが、すぐにまた男子の取り合いが始まった。結局みんなで行くことになったらしい。十数人がゾロゾロと学校案内。ご苦労なこった。


「行ってやればよかったのに」


惣介だ。


「あほか、あそこで俺が行ってみろ。男子の袋たたきやっちゅうねん」


「ということはホントは行きたかったんか?」


ほんとこいつは苦手だ。


「んわけあるか」


俺はそう言って売店へジュースを買いに行った。




 俺はタバコに火をつけた。この公園の滑り台でタバコを吸うのが一番好きだ。この滑り台は俺にとってはちょっと思い出のある滑り台だ。ガキのころ俺はここで当時好きだった女の子に告白した。


「俺がおっきくなったらお前をお嫁さんに貰ったげるからな」


ガキの頃の約束だ。相手も俺もずっと忘れていたが、ある時思い出した。けどその記憶も曖昧で、当時俺は二人の女の子と仲がよかったらしく、毎日ここで三人で遊んでいたらしい。つまり俺はどっちの女の子にいったのか全く思い出せない。ただ俺はそれを思い出したくてこの公園に通っている。まぁ思い出したところで、それは叶わない約束なのだが。


 俺の幼馴染に美穂という女がいた。家が近所で、昔遊んでた三人の一人だ。昔から兄妹のように遊んでいた。けどその美穂が中2のとき交通事故で死んだ。俺には何が起きたのかよくわからなかったが、もう美穂と一生会えないんだってことはわかっていた。そんな時だ。俺は約束の事を思い出したのだ。俺は美穂に約束していたのかもしれない。そう思うと急に悲しくなって、俺はずっと泣いていた。守ることのできない約束を思い出してしまったのだ。


 もう一人の子はガキだった時に引っ越してしまった。それっきり連絡もなにもしてない。ただ、もう帰ってこないかもしれないって母さんに言われたのを覚えているだけだ。


どっちに約束していたとしても、もうそれは過去の約束だ。俺ももう忘れようとしている思い出だ。



「健…二君?」


滑り台から下を見ると、そこには犬を連れた神田川がいた。


「なんやお前は転校生やんけ」


「ちょっと。転校生じゃなくて神田川 香織」


神田川はぷくっと膨れた。


「すまんすまん、神田川やな」


「か・お・りでいいって言ったでしょ。健二君が、『俺のこと健二って呼んでくれなきしょくわるいわー』って言ったんだよ?私も香織でいいよ」


なんか神田川のモノマネが妙に腹が立った。


「それより、高校生が喫煙とかダメじゃない。タバコは二十歳になってからだよ」


神田川は俺の手のタバコを見て言った。


「ええやんけ、お前には関係ないやろ」


「関係なくない!」


意味がわからない。今日転校してきて、今日出会って、たまたま俺の席の横になっただけだ。


「関係ないやろ。今日出会ったやつになんでそこまで言われなあかんねん」


「それは…。でもダメなことをダメって言って何が悪いの!」


俺はいつもこうだ。別に神田川は間違った事を言ってるわけじゃない。でも俺は…。


「なんやねんお前。人がせっかく気持ちよう休んどったのに。もうええわ」


 俺は滑り台を滑り降りて帰った。その時の神田川の顔は悲しそうな顔をしていた。ちょっと言い過ぎたか…、そう思ったが俺は声もかけずに帰った。




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