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捕らわれの。

作者: 甘宮るい

ご挨拶代わりの短編小説です。この名前では初投稿です、お手柔らかにお願いします。


 目を奪われるとは正にこういうことをいうのだろうな、なんて覚束無い頭に浮かべる。視線は耐えず彼女に奪われたままだ。

 一目ぼれ、とも言えるだろうか。そんなロマンチックな雰囲気ではないけれど。

 彼女は、塔の窓から僕より少し上を見ている。空だろうか、夜なのだろうな。深みのある青色の髪が夜風に吹かれていた。美しい彼女に似合わない窓の鉄格子が、彼女に儚さを与える。彼女はこの高い塔に、閉じ込められているのだ。

 目をあわせられたらいいなと思う。彼女の目線がこちらを向いたなら、きっと僕は彼女の見ているものが見えるのだろう。月の光が明るい、自然が笑う世界が。

 蔦の伝う螺旋階段は、所々崩れそうだった。それでも、勇気を出してこの階段を駆け抜けて、そして、彼女の首輪を僕が断ち切れたなら、僕はきっと王子様になるのだろう。運命を変えた僕に、彼女は恋をして、僕は退屈な日常を変えることができるだろう。

 自分の煩いほどの鼓動が、突然聞こえなくなった。

 僕は悟った、彼女と僕は違うことを。彼女が僕を見ることがないということを。

 それでも、その透き通る肌に、水色の優しい瞳に手を伸ばしたい。大きな窓でよかった、彼女の足も見えるから。彼女の縒れて破れた服が見えるから。

 しいていえば、もっと近くで。


 そんな衝動が抑えきれず、手を伸ばしロープを潜ろうとした。

「お客様!」

 突然、肩を叩かれる。

「あっ」

「申し訳ありません、お手を触れることは」

「……すみません」

「いい絵ですよね、私もこの美術館に勤めて長いですが、一番この絵が素敵だと思います」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 私もよく美術館や博物館などに行くのですが、この男性の気持ちがよく分かります。ここまで想像豊かではありませんが笑 作者自身の感動した作品を元に考えているのでしょうか? 書き手の伝えたいことを…
[良い点] 非常に面白かったです。 何というか、こういった短編小説が好きで、一文で世界が変わったような気がしました [一言] これからも頑張ってください!
2018/07/01 05:18 退会済み
管理
[良い点] 詩的なリズムで書かれた文体が静的な絵画を生きて動いているようにしていて素敵だと感じました。
感想一覧
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