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暗黒神と石化竜の咆哮

作者: シュウ@広島

初めまして。

この作品は拙著、「暗黒の女神に死の接吻を…。」の続編的意味合いが強い作品です。

そちらを読まなくてもわかるようになっていますがお時間のあるかたは、是非、「暗黒の女神に死の接吻を…。」を読んでから読まれるとより一層楽しめると思います。

よろしくお願いします。

 美しい星空を見ていると、太古の人々もこの星空を見ていたのかもしれないと遠い過去に思いを馳せる事がある。

 原初の宇宙とはいかなる姿であったのかと考えてみても答えなどでるはずもなく、ただ美しい星座に昔の人々の思いを伝える伝説が残るのみである。

 しかし、注意深く世界の古代神話に目を通してみると、いくつかの共通していることを見つけることが出来る。

 ゾロアスター教が出来てから後の宗教的な教えは、宇宙とは創造神がいて光と共に宇宙が出来たというのが一般的であろう。

 科学の世界ならさしずめ、ビッグバンによって宇宙が出来たとするのが常識だろうか?

 しかし、日本やインド、中国、北欧神話になると話が違ってくるのである。それは最初の神の体を使って、三人の神によって作られたと伝えられているのである。インドの古代神話になるとさらにその前の話が伝わっている。

 ヨハン・バウアーもふとした事からインドの古代神話の本を手にいれた一人である。偶然に見つけた古書店で「太陽神の賛歌」という本を手にいれた。その内容は彼にとってはとても信じられない内容で、今までの常識を頭の中で瓦解させたのである。

 今日もヨハンは午前中のアルバイトが終わると家で「太陽神の賛歌」を読んでいた。


 宇宙はその時、無もなく、有もなかった。

 空も無く、その上の天も無かった。

 あるのは深くて計り知れない水(原水)であった。

 その時、死もなく、不死も無かった。

 昼と夜も無かった。

 かの唯一者は、自力により風なく呼吸していた。

 これより他に何も存在しなかった。

 太初において、暗黒は暗黒に覆われていた。この一切は光明なき(混沌とした)水波であった。空虚に覆われて顕れつつあったかの唯一者は、熱の力によって出生した。

 誰が正しく知る者であろうか?

 誰がここに宣言し得る者か?

 この創造は何処から生じ、何処から来たのか?

 神々はこの創造より後である。ならば、創造が何処から起こったか知る者は誰か?

 この創造は何処から起こったのか。誰が創造したのか、あるいはしなかったのか?

 最高天にあってこの世界を知る者のみがこれをよく知っている。

 あるいは、彼もまたこれを知らない。


 ヨハンはため息をつかずにはいられなかった。今までの科学の時間や宗教的な教えは何だったのだろう?

 神でさえ宇宙の始まりを知らないのだから、誰が宇宙の始まりを知っていようか?誰も知るはずがない。この本にはそう書いてあった。何度も読み返してはヨハンは自分の常識や信じている宗教的な教えとは何だったのだろうかと思うばかりだった。

 多くの人達がこの本を読んだら、神を冒涜していると言うだろう。しかし、恵まれない生活を送っているヨハンにはこの教えは新しい世界の価値を教えてくれた大切な物なのだ。もし、自分が満ち足りた生活をしていたら、この世界に疑問を感じることは無かっただろう。目の前に有るものに感謝し、神に祈り、幸せを噛み締めて生活していただろう。

 しかし、家業の酪農を継がずに夢を求めて都会に出て来て、ようやく現実の厳しさを知ったときには、もう遅かった。毎日が僅かな稼ぎを得る為に朝から夜遅くまで働き、やっと生活をしている自分を見たら、きっと両親は帰ってこいと言うだろう。しかし、ヨハンにも意地がある。まだ、それが何かはわからないがきっと自分にしか出来ない使命や天命があるに違いないと信じるしかない。それを見つけるまでは諦めないと固く心に決めていた。

 今日もヨハンは太陽神の賛歌を読んで勇気を貰っていたのである。

 すると、ドアがノックされた。さしずめ教会の寄付を求める人だろう。お金のないヨハンは居留守を使う事にした。善行はしたいが自分が食事を出来なければ何の意味もない。神が現れて無限に増えるパンでもくれれば話は別だが。申し訳ないが居ない事にするしかない。ヨハンはベッドで寝返りをうつと、再び太陽神の賛歌を読んで次の仕事まで時間を潰す事にした。しかし、しつこくノックするのである。しかも、よく聞くとノックの位置が随分と低いところをノックしている。なにやら子供の声も聞こえるのだ。子供達のいたずらかと思い、仕方なくドアを少しだけ開けた。するとドアの外には双子の外国人の女の子がにっこりと笑って立っていた。ヨハンは驚き、思わず言葉に詰まった。果たして彼女達は何人なのだろうか?いや、それ以前にドイツ語は通じるのだろうか?いやな予感がヨハンを包んだ。おそるおそる聞いてみる。


「誰だい?何の用かな?」


 すると彼女達は、たどたどしいドイツ語でヨハンの問いに答えた。


「初めまして。」

「今日、ここに引っ越してきたの。」

「私はマーヤ。」

「私はカーラ。」

「よろしくね。」


 ヨハンは苦笑いするしかなかった。子供のいたずらかと思ったがどうやら引っ越しの挨拶に来たらしい。多分、引っ越しの邪魔だから部屋を出されて退屈なので、ドアをノックしたのだろう。目の前にいる女の子二人に、さて、どうしたものか?ヨハンは子供に慣れてなかったので対応に困った。その時、頭の中で冷蔵庫にチョコレートが少しだけ残っているのを思い出した。


「ちょっと待っててね。」


 ヨハンはそう言うとドアを一旦閉めて冷蔵庫に向かった。運よくふたつほどチョコレートが残っていたので二人にあげる事にした。ヨハンは再びドアを開けた。すると彼女達は嬉しそうな笑顔でヨハンを見つめた。


「はい。これをあげるよ。何処から来たの?」

「インドから来たの。」

「ありがとう。」


 彼女達は嬉しそうな笑顔でヨハンの差し出したチョコレートを受けとると階段を降りていった。やれやれとヨハンは思った。普段、子供に接する機会のない彼は外国人の子供は宇宙人のように思えるのだ。言葉が通じて良かったと肩を撫で下ろした。


「良かった。そろそろ次の仕事に行くかな。」


 ヨハンは呟くと自分以外がいない部屋で出掛ける支度をして部屋に鍵をかけて家を出た。


 ヨハンの夜の仕事はレストランでの下働きだった。じゃがいもの皮を剥いたり、皿を洗ったりが主な仕事だが最近は少しずつ調理の仕事も手伝わせて貰えるようになった。最初はこれといった目的もなく、ただ、賄いつきの仕事だったので頼み込んで採用になった。店側は調理師が欲しかったらしいがヨハンの実家が酪農をしていて肉を見る目は確かだったので、給料は安いが採用になったのだ。料理長は職人なので仕事にはとても厳しく、ヨハンも最初は怒られてばかりだった。何度も辞めようと思ったが、他に仕事のあてもなく、仕方なく我慢して働いているうちに仕事とは厳しいものである事を体で覚えさせられた。今はもっと任せて貰える仕事が増えたらいいなと思うまでになったのは料理長の仕事に対する真摯な仕事ぶりからだった。

 今日も一日が終わり、ヨハンは家に帰るとすぐにシャワーを浴びてさっぱりとした。そろそろ寝ようかと思った時だった。誰かがドアをノックした。どうやら今度はあの女の子達ではなく力強いノックから男性である事がわかった。ヨハンは誰だろうと不審に思いながら、ドアをチェーンはしたまま少しだけ開けた。


「久しぶり、元気だったかい?」

「ジャック・ワイルダーじゃないか。ちょっと待ってて。」


 ヨハンはドアを一旦、閉めてチェーンを外した。


「久しぶりだね!ジャック!元気だったかい?」

「久しぶりだね。ちょっと話があるんだが入ってもいいかな?」

「どうぞ!」


 ヨハンはジャックを部屋に入れた。

 ヨハンにとってジャックは命の恩人だった。古書店でロマーニ・プレッツィオと出会って危ない目にあった時に助けてくれたのがジャックだった。


「久しぶりだね!元気だったかい?ジャック?」

「あぁ。元気だよ。ヨハンは順調かい?」

「相変わらずの貧乏暮らしだよ。」

「ふーん。君は相変わらず、石が好きなんだね!」

「あぁ。あの時に君や石に助けて貰ったからね。それ以来、少しずつだけど石を集めているんだ。」

「ふーん。ラピスラズリ、マラカイト、ローズクォーツかな?」

「詳しいんだね。あの時に、石が光って助けてくれたからね。」

「その石の事なんだが、まだ持ってるかい?」

「それがね。持ってるんだけど…。」


 ヨハンはロマーニ・プレッツィオに命を狙われた時に急に光って助けてくれた石を出してきた。前は綺麗な青色だったが、今はグレーに色が変わっていた。


「あの時に光ってから、色が変わってしまってね。まぁ、命を助けてくれたからね。捨てはしないけど。」


 ジャックは色の変わった石を見て残念そうな顔をした。どうやら石に用事があったらしい。


「そうか…。まぁいい。一緒に一杯やらないか?」


 ジャックは大きなボストンバッグから酒の瓶を出してきた。ワイルド・ターキーとラベルに書いてあった。ヨハンは慌ててグラスを用意すると小さなテーブルの上に置いた。ジャックは二つのグラスに酒をつぐと、ヨハンにすすめた。ジャックに促されヨハンは酒を一口、飲んでみた。かなり、キツいが甘味のある後口がヨハンの口腔内を刺激した。


「かなりキツいね。なんていう酒なの?」

「ドイツ人はバーボン飲まないのか?」

「普段は飲まないなぁ。」

「そうか…。」


 ジャックは何か言いたい事があるようで、バーボンのグラスを手の平で転がしながら、思い出話を始めた。


「この間の事件からどれくらいになるかな?」

「ロマーニに命を狙われた時の事かい?そうだな。半年くらいかな。あの時は助けてくれてありがとう。」

「いや。助けられたのはこっちだよ。君が暗黒神に太陽の光で立ち向かう力があるなんて知らなかったよ。」

「暗黒神?悪魔とは違うの?悪魔と思ってた。」

「違うんだ。暗黒神はまだ、神が顕れる前から宇宙にいたんだ。認めたくないがね。だからなかなか神の力が効かないんだ。あの本はまだあるかい?」

「あるよ。見るかい?」


 ヨハンはジャックに太陽の賛歌を渡した。ジャックは神妙な顔でそれを何度も読み返した。そして、何度かため息をついた。

 どうやら自分が命をロマーニに狙われたのも暗黒神と関係があるらしかった。そういえば、ロマーニに出会う前に何度も夢の中に気持ちの悪い悪魔が顕れ、うなされていたのを思い出した。それは体こそ女性らしかったが、頭や手足はとてもヨハンに想像できるような生き物ではなかった。なぜ、ある日に突然、夢に顕れるようになったのかヨハンには皆目、見当がつかなかった。

 ジャックが話を続けた。


「なぜ君が暗黒神に魅入られたのか?それはわからないんだが…。少なくとも君にはそれを追い払うだけの力があったってことだな。」

「力って何?僕は何にもしてないよ?」

「いや。実は君にまた一緒に来て欲しくてね。」

「どういうわけで?」

「ロマーニがまた、暗黒神を復活させようとしていると情報が入ってね。君の力を借りたいんだ。」

「嘘だろ?僕は何の役にも立たないよ。もう石が駄目になってしまったし…。それにジャック、君は何者なんだ?何でロマーニを追ってるの?」

「俺の事は聞かないでくれ。駄目かい?」


 ヨハンは黙った。ロマーニに命を狙われた時に光だして助けてくれた石はもう色が変わってしまっていて、役に立ちそうもない。この石の光が暗黒神とロマーニの魔方陣とを撃退したのだった。石の力が期待出来ない今となっては、自分は何の役にも立たないだろう。ヨハンは断ろうとした。しかし、ジャックは一気にバーボンを飲み干すと、一言だけいって立ち去ろうとした。


「明日までに考えておいてくれ。また、来るよ。」


 ジャックはヨハンの肩をポンと軽く叩くと部屋を出た。

 残されたヨハンはバーボンを見つめながら考え事を始めた。

 あの時に暗黒神を撃退出来たのは、太陽の賛歌とロマーニが月の女神のしずくと呼んだ今は色がグレーに変わってしまった石の光があったからだ。自分が行っても役には立たないだろう。ヨハンは明日、ジャックが来たら断ろうと心に決めた。




 翌日の朝、ヨハンはドアをノックする音で目が覚めた。まだ昨日のバーボンが少し、残っているようだ。ヨハンはドアを開けた。

 するとジャックが立っていた。心なしか焦っているようにも見受けられた。


「ヨハン。すまないがすぐに一緒に来てくれないか?」

「どうしたんだい?」

「ロマーニが今夜にも暗黒神を再びこの世界に呼び出そうとしているらしいんだ。時間がない。一緒に来てくれないか?」

「いや。そう言われても…。これから仕事で…。」

「ヨハン!事は一刻を争う。一緒に来てくれないか?」

「わかったよ。ちょっと待ってて。」


 ヨハンは服を着替えると、ズボンのポケットに太陽の賛歌とラピスラズリ、マラカイトを入れた。そしてジャックの後について部屋を出た。

 外にはジャックの車が停まっていた。ヨハンはジャックに促され助手席に乗り込んだ。急いでジャックが車を出そうとした時だった。


「ちょっと待て!誰だ!その娘達は?」


 ヨハンが後を見るとマーヤとカーラがリュックサックを背負って後ろの席に乗っていた。ヨハンは驚いて二人に声をかけた。


「何してるの?降りなさい。」


 マーヤとカーラは顔を見合わせて笑っていた。


「ヨハン!知ってるのか?」

「最近になって引っ越してきたインド人の女の子だよ。」

「インド人?インド人なら英語が通じるよな?」


 ジャックは二人に向かって何かを英語で話しかけた。すると二人が猛然と英語で言い返した。三人は英語で激しく言い争った。しかし、負けたのはジャックのほうだった。


「ええい!くそっ!勝手にしろ!」

「どうしたの?」

「君に危険が迫ってるから、ついて行くってきかないんだ!」

「僕に危険が?」

「俺の事を疫病神って言いやがった。勝手にしろ!車を出すぞ!」


 ジャックは凄いスピードで車を出して、走り始めた。

 後ろの席のマーヤとカーラは窓の外を見ていた。

 ジャックの車はどんどんと都会の喧騒を離れ、田舎の田園風景が見えるところまで来た。ヨハンにとっては帰りたくても帰れない自分の故郷の風景に似ていて、なぜか懐かしい感じがした。

 青々と茂る牧草地帯と壊れかけの柵の並んだ風景、がたごとした田舎道が忘れかけていた自分の幼き日の思い出を呼び覚ました。

 きっと今頃、父親や母親も忙しく働いている事だろう。太陽の光が自然の色の美しさを証明しようとしてるように感じられた。どれ位、走っただろうか。辺りはすっかりと昔ながらの田園風景となった。ヨハンが自分の腕時計を見ると二時間位は走ったようだ。ジャックはようやく地図を取り出すと、辺りの地形や目印などを確かめ始めた。どうやら目的地はそろそろらしい。地図の上で見てもかなり大きな敷地のある家が一軒あった。どうやら昔の貴族か何かのお屋敷があるところが目的地らしかった。ジャックは慎重に辺りの景色や地形などを確認していた。どうやら目的地のお屋敷の裏手にまわれる道はないか探しているらしい。当たり前だが自分達は招待されて来たわけではないのだ。むしろ、当人達のお楽しみを邪魔しにきたのだから、慎重に車を隠せる場所や侵入通路を確認しておかなくてはならない。ヨハンにはジャックの慎重さが手慣れたものに思えたのが不思議だった。ジャックからとりあえずヨハンと二人の女の子達は村の繁華街で食事をしてくるように言われた。ジャックは独りで調べたい事があるようで、お互いに別行動となった。ジャックは地図で確認したこの村の繁華街まで車を走らすとヨハンに食事代を渡して自分は車で何処かに向かった。ヨハンとマーヤとカーラは村のレストランに入った。店のなかは突然表れた見たことがない外国人のために、三人は好奇の眼差しで見られた。二人がビーフは駄目だと言うので、田舎ながらの豚肉料理を頼んだ。二人は笑顔で嬉しそうに食べていた。食事が終わったがジャックが帰ってくるまでは、三人はこの辺にいないといけないので、仕方なく我慢して村の繁華街でうろうろとした。村人達の好奇の眼差しが痛かった。ようやくの事にジャックが帰ってきた。三人は急いでジャックの車に乗り込むとその場を離れた。ヨハンがようやく口を開いた。


「参ったよ。みんなにジロジロと見られてさ。」

「だろうな。別行動にして正解だった。」

「侵入経路は確認出来たのかい?」

「あぁ。問題は時間が夜になるから、辺りが暗くなった時にどうかな?それに犬を飼ってたからな。」

「犬を?どうやって屋敷に侵入するの?」

「たぶん、今夜は犬は犬小屋に入れると思う。暗黒神の気配に驚いて騒がれても困るだろうしな。今までもそうだった。辺りが暗くなったら、使用人達も邪魔をしないように人払いをするはずだ。その時が唯一の機会だな。まあいつも行き当たりばったりなんだがね。」

「それで、僕の役目は?」

「君は後ろから俺についてきてくれ。もし、君の力を借りなくても何とかなるようならそれが一番だ。」

「わかったよ。もしもの時は合図をしてね!ただ…役に立てるかどうかはわからないんだが…。」

「構わないよ。一人で出来ればそれが何よりだ。おや?寝たみたいだな。」


 ジャックは車の後部座席を見るように促した。ヨハンが振り替えってみると、マーヤとカーラはもたれ掛かって寝ていた。二人の寝顔はまるで天使のようで、この緊迫した状況を何もわからずに寝ている無邪気さに少しほっとした。

 いよいよ夕暮れが迫り、ロマーニとの対決の時が近づいて来ていた。ジャックとヨハンは気持ちが高ぶるのを抑えられなかった。ジャックは目的地の屋敷のかなり手前の藪のなかに車を隠した。

 辺りの枯れ枝や雑草なども使いながら入念に車を覆い隠した。

 車を隠し終わる頃には、すっかりと辺りの景色は夜になっていた。

 ヨハンがジャックに質問した。


「家に入るタイミングはどうやって知るの?」


 するとジャックはポケットから直径十センチ位の円盤のような物をだしてきた。両面に何かの図形のようなものと、呪文のようなものが描いてある。


「これは天使のタリズマンだ。もし、邪悪な者がこちらの世界に出現する事になれば反応するから、これでわかるんだ。」

「そうなんだね。わかった。後は待つだけだね。」


 四人は暗がりでその時を待つ事にした。

 一方で屋敷の中のロマーニは地下室で忙しく暗黒神を呼び出すために準備をしていた。生け贄にするのであろうと思われる家畜の死体を吊るしたり、内蔵ばかりを集めた物を大きめのガラスの容器に入れたり、床には誰も見たことがない象形文字で魔方陣を描いたり、大きな鏡をセットしたりと忙しく働いていた。

 この屋敷の主にして、今回の依頼者でもあるベルンシュタイン男爵はその様子を見て、地下室が異様な空間に変わっていくのを満足げな顔で見ていた。


「ロマーニ。準備は整ったのか?」

「ベルンシュタイン男爵、もう少しお待ち下さい。気持ちがはやるのは理解できますが。」

「早く、暗黒神をこの目で見たいものだ。」

「ご心配には及びません。必ず呼び出してご覧にいれましょう。後はもう少しの辛抱です。長年の夢が叶うのですぞ!」

「うむ。暗黒神に不老不死にしてもらえば、私は永遠に生きることが出来る。もはや、恐れるものなど何もない。」

「仰るとおりです。では始めますかな。まずはこれをお飲みください。」


 そう言うとロマーニはワイングラスに注がれた怪しげな液体をベルンシュタイン男爵に勧めた。中には琥珀色の液体が入っており、薬草だと思われる香りがした。


「これは何だ?」

「まぁ…気付け薬のようなものですな。普通の状態では暗黒神が現れる前に気絶する方もいらっしゃいますので。」

「お前は飲まないのか?」

「私も飲みますよ。では、成功を祈って乾杯といきますかな?」

「それならいい。乾杯!」


 二人はワイングラスの中の液体を一気に飲み干した。口腔内から食道、胃腸までが熱くなるような感じがした。

 ロマーニは部屋の中心にある椅子にベルンシュタイン男爵を座らせると、その前の大きな鏡に自分の血で描いた図形の説明を始めた。


「まずは、この鏡から青黒い霧のような物が出始め、今までに嗅いだことのない臭いがしてきます。そして、やがて異形の神々が姿を現します。その中から今回呼び出す暗黒神、ヨーグ・シュトゥルスが姿を現します。よいですかな?何があっても気を失ってはなりませんぞ!そして正気を保っていて下さい。よいですかな?」

「わかった。では、頼んだぞ。」

「それでは始めます。」


 そう言うとロマーニは大きな鏡の前に置かれた椅子に座っているベルンシュタイン男爵の後ろに回って呪文を唱え始めた。


「フングルイ・ムグルウナフー・クトゥルフ・ルルイエ・ウガ・ナグル・フタグン」


 ロマーニが高らかに呪文の詠唱を始めると、まずは部屋の空気が変わり始めた。先程まで無風状態だった地下室に僅かながら湿度の高い湿った風が吹き始めた。それは二人の足下をすり抜けるように部屋の隅々までに達し、まるで生き物のように部屋の中を這いまわっているかのようだった。


「眠れるクトゥルフはルルイエにて永劫の夢を求めてさまよい、死は死にあらず。誰が汝に死を与えられようか。ただ、星辰の狂いのみが汝の時を止めたのみ。フングルイ・ムグルウナフー・クトゥルフ・ルルイエ・ウガ・ナグル・フタグン!」


 ロマーニの呪文の詠唱はますます声高らかに響き、部屋の中に響き渡った。鏡からはロマーニの予告とおりに、青黒い霧のようなものが出始めた。異様な臭いが辺りを包み、ベルンシュタイン男爵は自分が恐怖に体が震えているのに気がついた。何か本能的に恐ろしい者の存在を感じ、身震いがし始めた。

 ロマーニの呪文の詠唱は続いた。


「ラー・ユゴス・ザー・ノイエ・アギト・ブルクシュナフ・ヴォルクフォルク・ヨーグ・シュトゥルス・フタグン。ユゴスの門を守りしヨーグ・シュトゥルスよ!今、僅かに眠りから醒め、我らのもとに使役せよ!何も汝を妨げず憂うことなき完全なる世界の僅かな切れ間より、彼の地に降り立てたまえ!」


 すると青黒い霧がもくもくと鏡から吹き出し始めた。


「汝を妨げるのは星辰の狂いのみ。ここにその狂いを一時的に戻し、ユゴスの門より出よ!ヨーグ・シュトゥルス!」


 すると、大きな鏡の中から声にならない叫び声ともとれる、異様な声がし始めた。そしてずるずると何かを引きずるような重たげな音がし始め、明らかに異形の何かが鏡の中からこちらの世界を目指して進んでいるのがわかった。やがて、その音はどんどんと大きくなり、鏡から振動を感じるまでになった。部屋の中には魚のような爬虫類のようななんともいえない生臭さが充満し始めた。やがて、ずるずるとする音はいよいよ近づき鏡の中から赤く光る無数の光が見え始めた。そしてそれは鏡の中から次元の壁を越えようと、鏡の中であがき始めた。

 ベルンシュタイン男爵は思わず声を洩らした。


「こっこれが暗黒神なのか?なんと禍々しい姿だ!この地球上に彼等の姿を想像できる者がいるだろうか?この世界のいかなる理も無視した異様な姿に震えずにはおられない。なんて事だ。知らないものは幸せだ。私は知ってしまった。もはや戻れない。」


 そう言うとベルンシュタイン男爵は気を失った。

 あまりの禍々しい姿に正気を保っているのが困難となり、大の大人でさえも気を失うほどの禍々しさは筆舌に尽くしがたい。異様な臭いも感覚を失うには充分だった。


「ちっ!気を失ったか。まぁよい。このままヨーグ・シュトゥルスの生け贄にしてやる」


 鏡の中から次元の壁を越えようとする存在が、まだ壁を越えられないものの頭を鏡の中からだしていた。口らしきものの中には、牙が無数に生えていた。

 その時だった。地下室へのドアを蹴破り、走って降りてくる者がいた。ジャックとヨハンだった。

 ジャックが叫んだ。


「そこまでだ!ロマーニ!今日こそ貴様の息の根を止めてやる!」

「また、お前かジャック・ワイルダー。なんてしつこい奴だ。いい加減にお前の顔は見飽きたわ!」

「やかましい!こっちこそお前を追うのに飽きたぞ!今日こそ貴様の息の根を止めてやる!」

「いいのか?この人質がどうなっても?」


 見るとベルンシュタイン男爵の側には暗黒神がすでに立っていた。その姿は頭は人間の世界に例えるなら馬で、体は人間だが太くて逞しい腕が六本あり、指は四本で爪は禍々しいかぎ爪だった。下半身は巨大な蛇を思わせる。異様な色と模様が施されていた。

 ジャックが叫んだ。


「させるか!アグラ・アドナイ・アグラ・エヒエ・テトラグラマトン!」


 ジャックのタリズマンから光が放たれ暗黒神に照射された。しかし、暗黒神は不思議そうな顔をしてジャックのほうを見ていた。

 ロマーニが言った。


「無駄だ!ジャック!お前の天使のタリズマンでは暗黒神を倒すことは出来ない。学習能力のない奴だ。」

「くそっ!ヨハン!君のほうはどうだ?」

「駄目だ!太陽神の賛歌が光らない!」


 ロマーニはジャックの後ろに隠れているヨハンを見つけると言った。


「ほう。ヨハンも来ているのか。しかし、今回はお前がいても役には立たないぞ。」

「何故だ!」

「月の女神のしずくはこの間、エネルギーを放出したばかりだろう?まだ、充電が出来てないはずだ。まあいい。まずはお前らから喰らってやる!行け!暗黒神の使い魔よ!あの二人から喰らってしまえ!」

「ブシュルルルルルルル!」


 暗黒神がゆっくりとそして確実にジャックとヨハンに近づいていった。ヨハンは思った。今回は太陽神の賛歌は役には立たないのかと。そうしてる間にも暗黒神がずるずると音を立てながら、ジャックとヨハンに迫っている。このままでは殺られる。そう思った時だった。何処からともなく聞いた事のない笛の旋律が聞こえ始めた。それは確実にジャックとヨハンに近づいて来ていた。

 いよいよ笛の音が大きくなった時に姿を現したのは、笛を吹いているカーラと手に竜の石像を持っているマーヤの姿だった。

 ジャックが叫んだ。


「バカ野郎!なんで入ってきた!すぐに引き返せ!」


 するとマーヤが言った。


「ジャック!天使のタリズマンじゃ暗黒神は倒せないわ!私に任せて!」


 マーヤは竜の石像を床に置くと手に持っていた小ぶりな果物ナイフで親指を切り、血を竜の石像に塗りつけた。そして、呪文を唱え始めた。


「サルヴァダマナ!サルヴァダマナ!サルヴァダマナ!サルヴァダマナ!」


 すると竜の石像がみるみる大きくなり、血が通うように色が変わり始め、叫び声をあげた。


「ガルルルルル!ドゴール!グギャー!」


 マーヤは石化していた竜の封印を解いたらしい。

 その竜は逞しい顎に目付きが鋭く、逞しい腕と脚を備えていた。体は鱗に覆われているが、胸や腕、脚の筋肉は鱗を剥がしてしまうのではないかと思われるほど逞しかった。そして背中にも腕が二本あり形こそ蝙蝠のそれと近いが鱗に覆われた大きな翼があった。その翼を羽ばたかせるための腕は体についている腕の三倍は太く、逞しいものであった。顔の鼻先には動物のサイのような角が二本あり、指は四本で爪は禍々しいかぎ爪だった。獲物を一度捕らえたら離さないのが見てとれた。

 ロマーニが叫んだ。


「ばっ馬鹿な!太古の原始竜だと!それを石化して封印を解いたのか!なんだ!何者だ!その女達は!」


 ジャックとヨハンは驚きのあまり声も出ず、ただこの状況を把握するのに戸惑った。まさか、こんな小さな女の子が竜の石像の封印を解き使い魔にしてるとは誰が予想出来るだろうか。しかし、カーラは相変わらず笛を吹き続けていた。

 ロマーニの使い魔は不意に現れた原始竜の姿に一瞬、驚いたもののすぐに原始竜に向かって突進し始めた。かくして暗黒神対原始竜の戦いが始まったのだった。

 まずは暗黒神が長い蛇の尻尾を原始竜に巻き付け締め上げた。

 原始竜は苦しそうな声をあげた。


「ドゴー!ガルルルルル!」


 マーヤが叫んだ。


「サルヴァダマナ!サルヴァダマナ!サルヴァダマナ!サルヴァダマナ!ガイラ・プロト・トプス!胴体を爪で引き裂くのよ!」


 ガイラ・プロト・トプスと呼ばれた竜は四本の腕で蛇の胴体を掴むとその鋭いかぎ爪で胴体の表面を引き裂いた。


「ガーブシュルルルルル!ギエー!」

「いいわよガイラ!そのままやっつけちゃえ!」


 蛇の胴体を放した暗黒神の体からは血の変わりに緑色の体液が流れ出していた。すると暗黒神は一旦、後ろに体を縮めると今度は凄いスピードでガイラを捕まえた。ガイラは四本の腕で暗黒神の腕を掴んだが、暗黒神には腕が六本あるために残りの二本がガイラの逞しい体躯をその鋭いかぎ爪で差し貫いた。


「グギャー!ガルルルルル!」


 ガイラは苦しそうな声をあげた。


 マーヤが叫んだ。


「ヨハン!ガイラに力を貸して!」

「僕が?どうやって?」

「太陽神の賛歌を出して!」

「わかった。」


 ヨハンはポケットから太陽神の賛歌を取り出すと、前に突き出した。


「この後は?どうすればいい?」

「私の言うとおりに唱えて!ヴィバスヴァット・ヴェーダ!よ」


 ヨハンは太陽神の賛歌を突き出したまま、マーヤの言うとおりに唱えた。


「ヴィバスヴァット・ヴェーダ!ヴィバスヴァッド・ヴェーダ!」


 するとヨハンの太陽神の賛歌が光始めた。

 ロマーニが叫んだ。


「馬鹿な!月の女神のしずくはないはずだ!そんな印刷物になんで太陽神の力が宿ってるんだ!」


 するとマーヤが言った。


「おじさん!インド人をなめないでね!ヴィバスヴァット・ヴェーダ!」


 するとヨハンの太陽神の賛歌の光がガイラに光を注ぎ始めた。ガイラの体は群青色から、光の色へと変わり始めた。

 ガイラの体を差し貫いていた暗黒神の体にもその光が流れ始め、暗黒神は苦しみ始めた。

 ガイラは四本の腕で暗黒神の四本の腕を引き抜いた。そして自分の体に刺さっている二本の腕をへし折った。


「プギャー!ブシュルルルルルルル!ブシュルルルルルルル!」


 暗黒神はガイラを背に逃げ始めた。するとロマーニもこれはヤバイと思ったのか、後ろの階段を上がり始めた。

 ジャックが叫んだ。


「逃がさんぞ!ロマーニ!」


 ヨハンもジャックの後を追おうとした。するとカーラもマーヤがヨハンを止めた。


「何で止めるの?」

「まだ、異次元の壁が閉じてないわ!もう少し、太陽神の力が必要なの。ジャックなら大丈夫よ。ヨハンは太陽神の光で暗黒神をあっちの世界に追い返すまで頑張って!」

「わかった。ヴィヴァスヴァット・ヴェーダ!」


 太陽神の賛歌からの光はいよいよ強くなり、地下室の全体を覆い始めた。するとボロボロに傷ついた暗黒神が鏡の中に眩しそうにしながら入っていった。かくして異世界の入り口は閉ざされた。

 ジャックはロマーニと一階の廊下で向き合っていた。


「今夜こそ逃がさんぞ!ロマーニ!」

「ふん!天使のタリズマンだけの貴様に何が出来る?ヨハンの太陽神の力がなければ何も出来まい。」

「それはどうかな?」


 ジャックは小さなボストンバッグから大きな鍵爪のある手甲をとりだし。右手にはめた。ロマーニはそれを見ると一瞬だがたじろいだ。


「その鋭い鍵爪は、貴様は秘密結社ソロモンのかぎ爪の暗殺者だったのか!どうりでしつこい訳だ。」

「やかましい!貴様のように暗黒神をこの世界に呼び戻そうとする者はこの世に存在してはならんのだ!ロマーニ!地獄へ行け!」

「おやおや?神の使徒が人を殺してもいいのか?何の罪で?」

「うるさい!暗黒神は絶対に復活させん。お喋りは地獄でしろ!」


 ジャックは鋭いかぎ爪をロマーニに突き刺そうと殴りかかった。

 するとロマーニの横にあった鏡から巨大な蛇が現れ、ジャックの腕と下半身に巻き付いた。


「そこでそうしていろ!ジャック!さらばだ!」

「くそっ!待て!ロマーニ!ロマーニ!」


 またしてもジャックはロマーニを取り逃がした。巨大な蛇を何とかしようと格闘しているとヨハンとマーヤとカーラが現れた。

 カーラが笛を吹き始めると蛇は急にジャックを襲うのをやめて、何処かに行ってしまった。


「大丈夫かい?ジャック?」

「大丈夫だ。くそっ!ロマーニをまた取り逃がした!」

「取り合えず地下室の方は収まったよ。人が来ないうちに帰ろう。ジャック!」

「そうだな。それがいい。退散するか。」


 ジャックは自分の荷物をボストンバッグに入れると、四人で出口に向かった。そして、暗い夜道を懐中電灯で照らしながら、なんとかジャックの車にたどり着き、車を走らすとヨハンの家に向かった。

 ヨハンの家に向かう道すがら、ジャックとヨハンは今夜の信じられない出来事を話し合った。


「参ったよ。まさかこの女の子達が竜を使うとはね。」

「そうだよね。それに僕の本の力の引き出しかたも教えてくれた。」

「あれは何語なんだい?」

「インドの言葉で太陽神の賛歌をヴィヴァスヴァット・ヴェーダって言うらしいよ。」

「何にせよ、君達に助けられたな。おまけの女の子達がこんなに役に立つとはね。」

「カーラとマーヤは何物なんだろうね?不思議な女の子達だよ。」

「それより、ヨハン。帰ったら大変だぞ。」

「何が?」

「この女の子達の両親が娘が誘拐されたと警察に通報してるかもしれないからな。何か言い訳を考えておいたほうがいい。」

「え?そうか!つい時間がなかったから連れてきちゃったけど…。そうだよね!誘拐だよね!ジャック!一緒に来て警察に事情を説明してよ!」

「どうやって説明するんだ?暗黒神とか石の竜とか?」

「だけど!」

「俺は面倒くさいことは御免だよ。じゃあね!ヨハン!ここで降りてくれ。」


 そう言うとジャックはヨハンのマンションがある坂道の下に車を止めて三人を下ろした。


「じゃあな!ヨハン!」


 ジャックは立ち去ってしまった。

 ヨハンは悩んだ。どうやって警察と彼女達の両親に事情を説明しようかとそればかりが頭のなかをよぎり、ヨハンは足取りも重く坂道を下を向いたまま歩いていた。辺りには朝陽が射し込み家々を照らしていた。すると不意にマーヤとカーラがヨハンを呼んだ。


「ヨハン!バイバイ!」


 ヨハンが二人を見ると二人はバイバイをしながら坂道を上がっていった。そして姿が見えなくなった。ヨハンはなるべくゆっくりと坂道を上がっていった。警察が来ているかを遠くから確かめたが、自分の住んでいるマンションには警察の姿はなく、いつも通りの静かな朝を迎えていた。ヨハンは少しホットしながらも、自分の住んでいるマンションの入り口を開けた。するとそこはしんと静まりかえっていた。おかしい。マーヤとカーラの声もしないし、ましてや誰かが住んでる形跡もない。ヨハンは恐る恐る一階のドアノブを回してみた。すると中は誰もおらず、誰かが引っ越してきた形跡もなかった。ヨハンは何が起こったのかわからなくなり戸惑った。さっきまで一緒にいたはずのマーヤとカーラの声もしない。ヨハンは思わず二人を呼んでみた。


「マーヤ!カーラ!」


 すると一階の住人が出てきた。ヨハンは最近、引っ越してきたインド人の家族はいなかったか訊ねた。すると誰も引っ越してきていないとの事だった。ヨハンは自分の身に何が起こったのかわからないまま、自分の部屋に戻った。ベッドに寝転ぶと、太陽神の賛歌を出して、マーヤに教わった呪文を唱えてみた。


「ヴィヴァスヴァット・ヴェーダ!」


 すると太陽神の賛歌が光った。間違いない。マーヤに教えて貰った呪文は本物だ。しかし、マーヤとカーラの姿はなく自分だけが一人、取り残されたような気がした。

 マーヤとカーラは何処に行ったのだろうか?

 本当にいたんだろうか?それとも幻だったのか?

 太陽神の賛歌の光だけが今回の事件の真相を知っているのかもしれない。









参考文献

インド神話/上村勝彦著/ちくま学芸文庫

ラブクラフト全集/H.P.ラブクラフト/創元推理文庫

ネクロノミコン/ドナルド・タイスン/学研

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― 新着の感想 ―
[良い点]  ストーリーは面白いです。この作品は長編の一部といった感じでしたが、インド神話の要素あり、クトゥルー神話の要素ありで、登場人物の国籍も多様と、十分に物語の奥ゆきを感じることができました。も…
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