プロローグ
のんびり更新していきます
「この、スライムの討伐ってやつ、お願いしまーす」
スライムといったら、ゲームでは、Lv1の駆け出し冒険者でも倒せる雑魚キャラ。というのが、彼の認識だったのだが…
「あぁ?おふざけに付き合ってる暇なんざねぇ!とっとと帰りやがれ!」
どうやら、この世界では違うようだ。
ここはクエスト受注の受け付け。クエストには主に2種類ある。採取系クエストと討伐系クエストだ。
採取系クエストは、薬草やキノコなど、決められたものを集めるクエストである。危険は少ないが報酬はあまり良くない。
討伐系クエストは、決められたモンスターを倒すクエストである。危険をともなうが採取系に比べて報酬は良い。
また、クエストには難易度と適正レベルがあり、難易度はA~Fの6段階に分かれていて、適正レベルは余裕をもってクリアできるレベルを示している。
最初は、採取系クエストで少しずつ稼ぐのが普通なのだろうが、彼の性格的に少しずつというのは合わなかったらしく、いきなり討伐系クエストを受注しようとしたわけだ。
だが彼は、難易度AやBを選ぶほどバカではなく、難易度Fで適正レベル1以上の『スライムの討伐』を選んだのだが…
「ふざけてねぇよ!適正レベル1以上ってことは、最弱のクエストってことだろ!どこがふざけてるって言うんだ!」
受け付けには、おそらく40代と思われるマッチョ男がいた。
「顔も格好も何から何まで全部ふざけてるってんだ!まずおめぇ、ただの市民だろ!」
「顔は関係ないだろ!確かにお世辞にもイケメンではないが、別にブサイクってわけでも……ただの市民?」
確かに、芸能人でも貴族でもないから、一般ピーポーなわけだが…
「おめぇ…まさか知らねえのか?」
「知らねえって、なにが?」
ついさっき、この世界に来た彼が知らないのも無理はない。
「マジか?」
「マジだ」
「……お前、頭大丈夫か?」
カッチーン。
「大っ丈夫だよ!余計なお世話だ!市民っつったらあれだろ?芸能人でも貴族でもない…その…と、とにかく、そういうやつだろ!」
とりあえず、さっき思ったことを言ってみた。全く分かってない。
「はぁ…いいか?市民ってのは……」
そのあとの話はこうだ。
この世界には、役職というものが存在する。役職とは生まれ持った役割のようなもので、討伐系クエストを受注するもののほとんどは戦闘系の役職である。戦闘系の役職は、勇者。魔法使い。戦士。武闘家。狩人。があり、中でも勇者と魔法使いはとてもレアで、めったにいないという。
また、討伐系クエストの適正レベルは、あくまで戦闘系の役職の基準であり、市民には当てはまらないらしい。つまり戦闘系の役職と市民では、同じレベルでも戦闘力に差があるということだ。具体的には市民のレベル10と戦闘系の役職のレベル1が同じぐらいだとか。
ならばレベルを上げればいいという考えにいたるのは普通だが、なにせ最弱モンスターのスライムですら、戦闘系の役職で適正レベル1なのだ。市民のレベル1が勝てるわけもなく、当然レベル上げもできない。
「どうだ、分かったか?」
マッチョな見た目としゃべり方から、大雑把な性格だと思っていたが、丁寧な説明で分かりやすかった。
「なるほどな…てか、おっちゃんはどうやって俺を市民だと判断したんだ?役職によって見た目が違うとか?」
「おっちゃんじゃなくてお兄さんだ!そりゃあおめぇ、武器も防具もないじゃねーかよ」
その見た目でお兄さんは無理があるだろ。と心の中で突っ込む。
「まあ確かに…でも、もしかしたら装備は家に置いてきてるかもしれないし、新しい装備を買うために売っぱらったかもしんないぜ!」
「いいか坊主、そういうのを揚げ足を取るって言うんだ」
真顔で言ってくるのが腹立つ。
「うるせぇーな!ないとは言えないだろ!」
「じゃあ、おめぇさんは戦闘系の役職なのか?」
「そんなわけな…」
いや…待てよ。違うとは言い切れないんじゃないか? もしかしたら…
「ん?どうした坊主」
いや、やめよう
「分からねぇ」
決めたじゃないか。
この世界に、期待はしないって。
「ってそりゃそうだ、さっきまで役職すら知らなかったんだからな」
そう言っておっちゃんは、左手の人差し指と親指を前に出した。
「よく見とけ」
出した指を下にスライドすると、シュン!という音とともに四角い板のようなものが出現した。
「おおぉ!すげぇーなおっちゃん!魔法使いだったのか!」
「バカ言うな、こんなのは誰でもできるんだよ」
誰でもできる?そんなバカな…いや、なるほどそういうことか。
「それで役職がわかるんだな」
「ほう、坊主にしてはやるじゃねぇか」
俺だってただ自宅警備員やってたわけじゃねぇ。これはゲームでいうところのステータスウィンドウってことか。
「役職だけじゃなくレベルや名前なんかも表示されるぜ。おめぇもやってみろよ」
「言われなくとも!」
おっちゃんの真似をして人差し指と親指を前に出し、下にスライド。 シュン!
「…」
何度も目を凝らし、見直した。
「おい、どうした坊主」
召喚された直後は、ちょっとだけ不安だったけど。
「……」
それでも、主人公になれた気がして、嬉しくて。
「どうしたんだよ!なぁ!」
やっと、退屈な日常を脱出できたと思って。
「………」
でも…実際はそんなことなくて。
「ははぁん、さては…俺を驚かそうとしてるな!」
強い武器も
「…………」
超能力も
「その手には乗らないぜ!どうせ市民なんだろ!」
信頼できる仲間も
「……………」
俺が想像していたものはなにもなくて。
「ほら、見せてみろよっと」
現実逃避ばかりして、日常が退屈だとか、スリルが欲しいだなんて、考えたことに。
「………………」
バチが当たったのだと思った。
「どれどれ…やっぱりな!やっぱりお前は市民…」
思っていたが…
「…………………」
どうやら、俺の勘違いだったらしい。
「レ、レッレベ…」
…神様…ありがとうございます…
「レベル999ううぅぅぅーーー!!!??!?!?」