観覧車の少女
夏のホラー2017に投稿する作品です。…ホラーって初めて書くので、こんな感じかな~と思いながら書いてみました。…はい。
ちょっと、加筆しました。
日間ホラーランキング43位…まるで、奇跡ですね。
今日も私達は外に出ることを夢見ているの。死んでしまってから私はずっとこの観覧車の中に閉じ込められているの。あの自由な世界に私達も戻りたいのに…私達はずっとこの小さな世界に閉じ込められているの。寒くて、寒くて…あの暖かなあの世界に戻りたいのに、誰も私達の声に気付いてくれないの。
また、肝試しと称して私達と同世代くらいの子たちが私達のいる『裏野ドリームランド』にやってきた。町に流れる噂を確かめるためにこの場所に来たのかもしれない。ジェットコースターやアクアツアーの道を順に巡っていた。しかし、今のところ期待外れだったのか落胆しながら次の場所へと向かっていた。
一人は寂しい。なんで誰も私達に気付いてくれないの?私達も本来ならあの子たちと同じように学校に通って、普通の社会人になって、楽しく生活するはずだったのに。暖かな家族に囲まれて、幸せに過ごすはずだったのに。なんで私達だけ、『ワタシタチ』だけ、こんな場所に閉じ込められなければいけないの?
「苦しいよぉ…誰か私達を助けてよぉ…」
「クルシィ、ナンデワタシタチナノ」
「ワタシタチモ、アノジユウナセカイニイタカッタノニ」
私達の声に続き、ワタシタチが悲痛の声を上げる。誰も見向きもしてくれないの。私達を置いて、みんな私達の前からいなくなっちゃったの。だから私達はこの小さな場所に残っているの。私達が、ワタシタチが。自由になりたいの。独りぼっちは寂しいの。みんなと一緒に遊びたいの。
でも、みんな私達の声を聞いちゃうとすぐに逃げちゃうの。
「ねえねえ、待ってよ。私達から逃げないでよ。一緒に私達と遊んでほしいの。…え?君も他の子たちと同じなの?そうやって私の前からすぐにいなくなるの?ねえネエネエネエェェ」
「オチツイテ、ワタシタチ」
「キットアノコタチナラ、アソンデクレルワ」
ワタシタチの声でようやく正気に戻ったの。気が付けばあの子たちはドリームキャッスルの中に入っていたわ。確かあの城の地下には拷問を好む変態な男性がいたような気がするわね。男性を好んで襲う変態だったから私達は何もされなかったけど…今回来てくれたあの子たちは男性が五人、女性が四人だったかしら?
いったい何人が私のもとに来てくれるのかしら?何人が来てもいいように私達も準備を進めなくちゃいけないわね。
「今回こそ逃がさないわ。出たいなんて高い望みは言わないわ。でも、みんなも一緒にこの観覧車で遊びましょう?」
「ソウネ、タクサンジュンビシナクチャネ」
「うん!みんなで準備をしましょう?一生楽しめるこの遊園地で、私達の楽しい楽しい時間を‼」
私達の言葉にワタシタチは力を貸してくれるみたいね。さて、あの子たちを迎える準備を進めなくちゃ。私達にワタシタチ以外の友達ができるのは初めてだから、どんなことを話したらいいかわからないわ。でも、退屈だけはさせないようにしたいわね。まずは逃げられないようにしっかりと鍵を閉めて、そうだわ、お菓子も用意しなくちゃいけないわね。
あの子たちどこまで進んだかしら?観覧車の中から外を見るけど、まだドリームキャッスルから出てきた子たちはいないようね。…あの人全員殺したなんてことはしてないかしら。不安だわ。私達に友達ができるかもしれないのに、あの人ったらダメな人。
「まったく、あの人も私達のこの世界に来てくれないかしら?歓迎して見せるわ。もちろんあの子たちも檻迎して見せる」
うふふ、楽しみだわ。あの子たちが私達のもとに来てくれるその瞬間が、楽しみで仕方がない。この場所から出られるのであれば、私達の方から迎えに行きたいけど、私達はこの世界から出ることができないし…あ、そうだ。ワタシタチに手伝ってもらえばいいのだわ。ワタシタチだったらきっとあの子たちを連れてきてくれるはずだもの。ワタシタチの手はとても長いもの。
「あら、ようやくドリームキャッスルから出てきてくれたみたいね。さて、か弱い女の子の声でも出しましょうか。近づいてくれるはずだもの」
どうやら拷問部屋を見て精神的にも肉体的にも疲れ切ってるみたいね。これならきっと、私達と遊んでくれるかもしれないわね。あの子たちがメリーゴーランドを無視して私のいる観覧車の前まで近づいてくれたわ。さて、始めましょうか。
「…助けて、出してよぉ……」
噂通りに小さな声で呟く私達。その声がぎりぎり聞こえたのか、あの子たちは私達のいる観覧車の座席に近づいてきた。中を覗き込むようにガラス窓に顔を寄せる。…やっぱり私達には気づいてくれないようね。こんなにこの子たちの目の前で、見つめているのに…どうして気付いてくれないのかしら。
「…はぁ、仕方がないわね。ワタシタチ、あの子たちを捕まえて」
「ワカッタワ」
観覧車の座席から無数の黒い手があの子たちに向かって伸びていく。ワタシタチが張り切ってくれているみたい。あの子たちはまだ気づいていないようだけど、ワタシタチの黒い手が十本から百本くらいにまで増えていた。
その手があの子たちに触れる寸前に、あの子たちは手の存在に気付き、逃げ始めた。
ねえねえ、待ってよ。
私達から逃げないでよ。
一緒に私達と遊んでほしいの。
…え?君も他の子たちと同じなの?
そうやって私の前からすぐにいなくなるの?
ねえネエネエネエェェ‼
私達も友達がほしいの。ワタシタチ以外の友達もほしいの。でも、私達を見たらみんな逃げちゃうの。だから逃げることができないように…閉じ込める必要があると思うの。
「きゃああああああ」
「に、逃げろ‼…このままだとあの黒い腕につかまるぞ‼」
「……ドコニイクノカナァァァ?ニゲバナンテナインダヨ?」
「チッ、うやくあの拷問野郎から逃げれたと思ったのに、最後の最後でこれかよ!…こんな場所に来るんじゃなかったぜ‼」
「キャアアアアアア…ぁ……」
「ゆ、ゆ、優子ォォォォォォ‼」
「…ヒトリメ、ツカマエタァ、クヒヒヒヒヒ」
優子と呼ばれた女の子を捕まえれてくれたみたい。でも、やっぱり一人だけっていうのは悲しいわよね。もう少し人数がほしいわ。男の子も一人か二人くらいはほしいわね。今まで縁がなかったんだもの。少しお話してみたいという気持ちはあるわ。
優子と呼ばれた女の子を私達のいる場所に閉じ込めると、ワタシタチはほかの子の確保に向かって手を伸ばし始めた。
「うわああああ…イタッ」
「お、オイ。だ、大丈夫かよ大雅!」
「…お、俺はもうだめだ……。俺のことは気にせずに戻るんだ‼…ァ……」
「そんなことができるはずねえだろ!みんなで無事に帰るんだよ!…ァ……」
「オトコフタリカクホ。ゴウケイナナニンダナァ。アノコハヨロコンデクレルカナァァァ」
ふと目を話している間に残っているのが女の子二人だけになっていたみたいね。うふふ、必死に逃げようとするあの顔、とても可愛いわ。今ならあの人の気持ちも少しわかるかもしれないわね。必死に逃げようとするあの顔はどこかそそられるものがあるもの。
必死にワタシタチの腕から逃れ、無事に門の前まで着くことができたようね。…でも、残念ね。その門は開かないのよ。
「ど、どうして開いていないのよ!入るときは開いていたはずなのに‼なんでなの!」
「…もしかして私達、最初から出られないように仕組まれていたんじゃないの‼」
「で、でも…逃げないと!私たちまで掴まっちゃうよ!」
「……ふふふ、もう、遅いわ」
「「…ア゛」」
最後の二人も無事に確保ができたわ。ようやく、ワタシタチ以外に私達に友達ができたわ。初めての友達。…うふふ、私の小さな世界でたくさんたくさん遊びましょうね。
「私達の世界でたくさん遊びましょうね。さみしくなったら、新しい友達を捕まえてきてあげるからね。…でも、逃げようとか考えちゃだめだよ?」
―――――ドコマデモオイカケテツレモドスカラネェェ、クヒヒヒヒヒヒ。