GA-08◆「新年スペシャル」
■この世の彼方の館
その館は、何処かの深い森の奥にひっそりとあった。そこに至る者は、この世の理と、多かれ少なかれ、その命運を結び合わせた者達だった。
大きな広間の奥に切ってある暖炉からは、パチパチと薪がはぜている。その広間には、中央に大きな円卓が一つだけ置かれており、その周囲には色々な様相の者が座っていた。甲冑を身に纏った者がいれば、優雅な夜会服を身に纏った貴婦人がいる。こんなところに、と思う様な子供の姿もあった。
やがて、紅い胸甲を身に纏った女性騎士立ち上がった。はっとする様な整った顔立ちには、鋼の様な瞳が輝いている。
「方々。」
杯を高く掲げると、その女性騎士は厳かに言った。
「一つの年が終わり、そしてあらたな年の幕が開く。来るその年に於いて、私たちを何が待ち受けるかはわからぬが──勇気を、そして希望を失わぬ事だ。己が意思の力を信じれば、如何なる路も必ずや開けると私は思う」
一座を見回すと、己に集中する意志と想いの力を感じる。
「それでは。私たちそれぞれの未来に、乾杯っ!」
カシャン、カシャンとグラスやマグが打ち合わされ、そして陽気な宴が始まった。
☆ ☆ ☆
「見事なご挨拶です」
「皮肉か?」
「いいえ。本当に、そう感じましたの」
「・・・まぁいい」
細いグラスを傾けると、琥珀の液体を優雅に飲む。
「ところで──姫は古き年と来る年をどう思われている?」
「はい、古き年の間は、なかなかわたくしの話も進展を見せませんでした。来る年には、少しはお話の進展を期待しておりますわ」
「そうか──だが、姫。貴女の状況はまだ良い方だ。私など、異空異時間にローラン殿と飛ばされたまま、進展無しだ」
「まぁ・・・」
「少しは、その停滞空間を動かしてくれることを期待しているのだがな」
「強く願えば、きっと叶いますわ」
「そうだな。そうするとしよう」
「ところで、カーシャさま」
「ん?」
「どなたか、意中の方がおりまして?」
「ぐっ・・・レムリア姫、いきなり何を言うのだ?」
「いえ。ずっと独り身を通されてきたカーシャさまですもの。よほど良い方がいらっしゃるからでしょう?」
「い、いや。その様な相手はおらぬ」
「そうなのですか?」
「うむ・・・。そう言うそなたはどうなのか?」
「今のお話のわたくしは、まだ己の意思が未分化で、わたくし自身もやきもきしていますわ」
「そうなのか?」
「はい」
にっこり笑顔を浮かべる夢見の姫に、ちょっと額に汗を浮かべる紅の龍騎士だった。
☆ ☆ ☆
「オレらが揃うのも久しぶりだな」
「揃うと言っても、ランバルト。白の聖者様、灰の予言者様はいらっしゃっていないよ」
「我ら四名のみ」
「そうは言ってもね、ディンジル、ヒラリー。わたしたちが逢うこと自体、久しぶりでしょう? わたしは、それだけでもとっても嬉しいのだけど?」
「ダリエンの言う通りさ。三人欠けてるけど、再会に乾杯しようぜ」
「ふむ・・・まぁ、良いだろう」
四人はそれぞれのグラスを掲げると宙でチンと合わせた。
「ところで、ディンジル」
「なにかな?」
「愛しのヒラリーちゃんとのラヴラヴの日々は・・・へぶぅ!!」
ヒラリーの繊手が紅の勇者の脇腹にめり込んでいた。
「おほほほ。雉も鳴かずば打たれませんわ」
「冷たいんですね、ダリエン?」
「あら? 自業自得でしょう、これは?」
「・・・そう言うことにしておきましょうか」
「ヲィヲィ、オレの愛しの姫君と、何をくっちゃべってるんだ? あぁん?」
いつの間にか復活してきた紅の勇者様。その隣には、涼しい顔でグラスを傾ける紫の騎士もいる。
「誤解──という言葉は理解されないのでしょうね」
「あたぼうよ! オレのインテが幾つだと思ってるんだ?」
「恐竜並みだな」
「そうですよ。恐れも痛みも感じませんから、重宝するのですけれど」
おほほほ、と紫の騎士様に笑いかける蒼の賢者様。
「ところで、ヒラリー」
「何か?」
「あなた方は、今後どうするの?」
「使命はまだ終わっていない。使命を全うするまで、プライムに残り続けるだろう」
「辛くない?」
「・・・正直に言えば、辛いと感じる時もある。だが・・・もはや一人ではないからな。その辛さも耐えることが出来る」
ダリエンは、黙ってヒラリーを抱きしめた。ダリエンの温もりが、ヒラリーの心を温めた。
「あれ? おい、ヒラリー。お前趣旨替えしたのか? いつからレ○・・・」
「衝破光っ!!」
目映い光の帯が辺りを真っ白に染めると、その不埒な発言をした馬鹿者を彼方に吹き飛ばした。
たま屋ぁ・・・、というのが、その馬鹿者の恋人が漏らしたコメントだったという。
☆ ☆ ☆
「このメンツが揃うのも久しぶりね~」
「上の方々と同じ事を仰っておりますね、マールさん」
「いいのよ、ウィン! 何たってアタシの廻りに世界が回ってるんだから!」
「わぁ、す、凄いねマーちゃん!」
トクイ、トクイとその薄い胸を張るのは黒髪が長い少女。その隣で両手を握ってキラキラと瞳を輝かせる小柄な少女の傍らでは、ほんわかした雰囲気の栗色の髪の少女が笑顔を浮かべている。言わずと知れた、我らがソーサリアン三人娘である。
「アタシたちメインの話って、完全に停滞しているわね。ホント、失礼しちゃうわ」
「でも、少しずつお話は進んでいますわ」
「年に二回のペースでしょ! 冗談じゃないわよっ!」
フンガーっと鼻息も荒いマール。あらあれ~と笑うウィンディ。おろおろとするシャイン。三者三様だ。
「まぁ、一番重要なアタシたちよ。史的にも、語的にも、欠かせないでしょ?」
「そうだよね! ボクたち、ソーサリアンだし!」
「グレイホーク・アナザーの世界は、時が一筋の流れとなってる所。神古の時代から始まって、現在、そして未来へ。どの時代に生まれても、どの時代に生きていても──忘れられることはありません」
「で、でも!」
「なによ、シャイン!」
「創造主さん・・・かなり忘れちゃってるみたいだよ・・・」
「え~~~~~っ!!」
悲痛な、だが何処かコミカルに聞こえるマールの悲鳴。おろおろするシャイン。にこにこ笑うウィンディ。そして、ダ・カーポ(笑)。
☆ ☆ ☆
「すっかり脇役、ですね」
その温厚そうな外見の青年は嘆息して言った。
「嘆くな。我らが主たる話は、彼の第二紀大団円を持って終わりを告げたであろう?」
「そうは言ってもですね、ルーン・・・」
青年が話しかけた相手は、見事なプラチナブロンドを肩口で切りそろえた女性だった。その隣には、長い黒髪を三つ編みに結んで肩から前に垂らした女性が微笑んでいる。二人とも、一度見たら忘れられない様な強い印象を与える素晴らしい美人だった。
「・・・脇役?」
続きの言葉を言おうとして、先に入った突っ込みにがっくりとなる青年。だが、気を取り直して、傍らに座る小さな女の子の頭を優しく撫でる。
「違うよ、ノア。正確に言うとだね、“休眠状態”っていうんだ。決して“引退”したわけじゃぁないよ」
「そうなんだ」
「そうとも」
そのつぶらで純粋な瞳を見ながら、青年は力強く頷いた。
「ギャラハッド。いい加減なことをノアに吹き込むなよ」
「いい加減とは失敬ですね、ルーン。ほら、カーラも笑ってないで、少しルーンに言ってやって下さいよ」
「何を言えと?」
「だからですね・・・」
「いいのだ、カーラ。コヤツが軟弱にも待つことに耐えられず、己の状態に自信を失いつつあるだけのこと」
同情の余地も無い──と続けられて、ギャラハッドと呼ばれた青年は思わず苦笑いを浮かべた。
「そこまでは言わぬよ。だが、我らが話しもソーサリアンの三人娘の話に準じている。あちらが動かねば、こちらも動かないな」
「然り。カーラの言う通りだ。何も、我らの人格を攻撃しているのではない。単に、更新が非常に遅いだけだ」
「・・・遅いという点ではいつものことですけどね。それくらいは理解しているつもりですが」
「不満か?」
「少しは」
ルーンに返すと、肩を少し落として戯けてみせる。
「それよりも、貴殿ら、来る年の抱負は何か?」
「そうですね──今度こそ、貴女とのラヴラヴ話を・・・うぐっ!!」
「冗談はよせ」
どこかのだれかと同じく、脇腹に繊手を突っ込まれて苦悶の表情のギャラハッド。
「雉も鳴かずば打たれまいに」
そのセリフまで同じであった。いや、浮かばれないのはどちらも同じか。
「私は、あの三騎龍に一矢報いてやりたいな」
「同感だ、私も」
ルーンとカーラはお互いに冷え冷えする笑みを浮かべて言う。
「あの後ろで笑っているパボニスとアスクレウスとやら。教訓を垂れてやらぬといけない。あのままでは、曲がった大人になるからな」
すでに育ちきっているのではないかというギャラハッドの突っ込みはきっぱり無視された。というわけで、哀れな青年は隣の少女にその対象を変える。
「ノアはどうしたいのかな?」
「・・・そうね・・・。世界の平和、かな・・・?」
「世界平和…それはまたグローバルでジェネラルなことで・・・」
何処かかみ合わないまま、それぞれの想いを抱いて、四人の夜は過ぎてゆく・・・。
☆ ☆ ☆
「姫様、こちらをどうぞ」
「ありがとう、パリス」
ジョフ大公国の誇る飛翔騎士の一人、トニオ・パリスが細いグラスをジョフの至宝、大公女レアランに渡した。
「二人とも、レコンキスタでは力を貸してくれてありがとう。心から感謝致します」
「勿体なきお言葉」
恭しく頭を垂れるのは、マリー・ケイセル。もう一人の飛翔騎士である。この二人、対照的な人物である。トニオ・パリスは陽気な小兵で、マリー・ケイセルは大柄で生真面目な女性だ。二人は、レアランを含めて、ただ三騎のジョフ飛翔騎士であった。
「大公女様は、来る年に何を思われますか?」
「ジョフの民が、復興の苦しさに負けずに、再び住みよい、素晴らしい国を作り上げることです」
はっきりと言いきったレアランの瞳には、強い輝きが宿っていた。
「あなたは?」
「わたしですか? そうですねぇ、今年こそ可愛い彼女を見つけて、田舎に帰って羊の放牧でもしたいですね」
「戯れ言を」
「あ、きっぱり切られた」
にこにこ笑うトニオは、マリーに何を言われても全く気にしていない様子。
「あなたは? マリー」
「私は、今年同様、来る年も大公女様に変わらずお仕え出来ればと思います」
「マリーは真面目だね」
「トニオが不真面目なのだ」
「そうですか?」
「そ・う・だ。」
「二人とも・・・」
仲が良いですね、と続けたレアランの言葉に、二人とも目をむいた。だが、優しく笑うレアランに。何時しか二人の表情も和らいでいく。
「今年も、皆で力を併せて、ジョフの復興と民の安寧に頑張りましょう」
「勿論です」
「全力を挙げます」
チン、と合わせたグラスがその決意を祝福するかの様に鳴った。
☆ ☆ ☆
荒くれ猛者、とでも言えそうな厳しい面構えの戦士達が四騎。何れも、大戦士グランと共に、苦しいレコンキスタを乗り切った一騎当千の戦士達だ。軽騎一のルー。軽騎四のマイラム。装騎のフレム。親衛騎LAGのアルノ。四人は、手に持った杯を勢いよくガチンと合わせた。
「我々全員の為に乾杯っ!」
「ジョフの未来の為に!」
「大公女殿下と大戦士様の為に!」
「友軍として奮闘してくれたコーランド派遣軍の盟友達の為に!」
思い思いの言葉を叫ぶ。大きな戦役を戦い抜いた漢達の表情は非常に明るかった。
「お! トリアノン殿っ! こちらに来ませんか!」
目敏く見つけたマイラムが呼びかけると、近衛騎士の礼装を纏った女性騎士が歩いてきた。
「これは皆様方。ごきげんよう」
「トリアノン殿、お疲れ様です」
「ご丁寧に、リュティエンス殿」
「先だっての戦役では、トリアノン殿とコーランドの盟友達のご助力、心から感謝申し上げます」
「私たちは出来ることをやったまでです。それが、貴国のためになったと有れば、それを大変嬉しく思います」
「本当にありがとうございます」
「カリスタン殿、頭を上げて下さいませ」
「いや、フレムやアルノの言う通りだ。トリアノン殿、本当に感謝する」
「へぇ~お姉ちゃんって凄いんだ」
唐突に、脳天気な、緊張感のない、不躾な──まぁともかく突っ込みが入って、ジョフの四騎士は一体だれが?って顔を上げた。
「あなたね! いきなり失礼じゃないの!」
ゴイン、と一発妹の頭を叩くと、肩口で髪を切りそろえた勝ち気そうな娘が頭を下げた。
「すみません、妹が唐突に」
「貴女がたは?」
「ご紹介しますわ、カリスタン殿。妹のオルセーとシュノンソー。二人とも、コーランドの近衛騎士ですわ」
「それも、腕の立つ騎士よ~って、痛いじゃないの、お姉ちゃん!」
もう一発をオルセーから貰ったシュノンソーが抗議の声を挙げる。
「あんたわね~(怒)もう黙ってなさい!」
「う~横暴~(涙)」
「ははは・・・元気な妹さん達ですね」
さしものマイラムも目を白黒させている。
「うふふふ、自慢の妹たちですの」
「そ・う・で・す・か・・・」
引き気味に話すフレム。その時。
「あ、姉さま! ラーライン様が呼んでらっしゃいます!」
「あらそう? では、すぐに行かないと。皆さん、失礼致しますね」
「はいはいはい、ごゆっくり」
「ばっはは~い」
「あんたは黙るって言ったでしょ!」
優雅に一礼するトリアノン、シュノンソーを引っ張るオルセー。騒がしくも目立つ三姉妹が去ると、一騎当千の勇者達は大きく溜息を付いてお互いの顔を見合わせた。そして、“オークレイダーの相手の方がましだな”と言ったとか言わなかったとか…。
☆ ☆ ☆
シェリドマールの真珠。コーランドの賢者。ラフラー宮の白き姫君。夢見の女王。などなどなど。数多の称号を帯びるこの若い娘こそ、当代きっての名君と言われるコーランドの女王、ラーライン・ド・コーランドであった。
その女王陛下、物憂げにグラスを傾けて、一人でお座りになっている。お付きが全くいないのも異例だが、まぁここは安全な場所なので大丈夫なのだろう──そういうことにしておこうと思う。
「皆さん、楽しまれているようね」
それはそれで良いことだけど、とラーラインは思った。でも、自分は少し退屈してしまっている。
「王陛下は、年末年始なのに、一人で龍退治に出掛けられたし・・・。こんなに可愛らしい、美人で賢い奥様を放って於いて、何が楽しいのでしょう?」
ほう、と溜息を付く。宇宙一と名乗るだけ合って、ラーラインの夫君であるバド国王は、猪突猛進だった。西に龍がいると聞けば、どこででも乗れる馬に乗って突撃。東に悪漢がはびこっていると聞けば、あっというすっ飛んで行って現下に成敗する。そんなこんなで、家(王宮)を留守にすることが多く、ラーライン女王は寂しさを囲っているという訳なのだ。
「もう・・・浮気、でもしてしまおうかしらん・・・」
物騒な思考をひねくり回す女王陛下。それは、核ボタンでモグラ叩きをするに等しいんですけど。
「構わないわよね? 向こうも勝手におやりになっているし、わたくしも勝手にさせて頂きましょうか」
思い立ったら吉日。ラーラインは即断即決即行動。とにかくリアクションが早かった。ウィズが高いので単独行動は不味いと思った女王陛下、遠くに見かけたレスコー三姉妹を呼び寄せると、ルンルン気分でパーティー会場を後にした。(って、大丈夫なんでしょうかね、これで?)
☆ ☆ ☆
「あぁ、久し振りだなぁ」
「おおげさですわね、兄さま」
「だってな、考えてみろよアリサ。件のキャンペーンが終わってしまってから、一回も出番が無かったんだぞ」
「大団円の度合いが大きかった対象は、それだけ後での出番が少ないってことさ。わかってるんだろ、ユージェーヌ」
「皆まで言うなよな、ギルバルト」
「そうであっても、お二人とも嬉しいのでしょう? また出番があって」
ユージェーヌとギルバルトは、二人してちょっと決まり悪そうに顔を見合わせた。
「さぁさぁ、今年の豊富は何でしょう、というのがお題だそうよ。兄さま、ギル、どんな抱負なの?」
「そうだな。今年こそ、カーラ殿に想いを伝える努力を多少なりとも進めようと、ちょろっと考えたくあるな、うん」
「複雑な言い方をするなよ。カーラに気があるのは、見え見えだぞ。相手にも、伝わっていると思うがな」
「ホントか! ホントにそう思うか!」
兄さま、キャラが違ってきてますよ~と、ここで妹が心の中で涙したのは秘密だ。だいたい、この新年編、キャラが違ってきているのばかりだし(爆)。
「それは兎も角として──おまえ達はどうするんだ?」
「へ?」
「おまえとギルだよ。結婚するんだろ?」
「あ、あぁ・・・って、おまえ知ってたのか?」
「周知の事実だ。ラフラー宮(コーランド王宮)全体に知れ渡ってるぞ」
「むぅ・・・」
「早いトコ、オレん所に挑戦に来いよ。オレに勝ったら、妹との結婚を許してやるから」
「嫌がらせしてるだろ」
「他に何があるっていうんだ?」
ここで、妹がはぁ、と心の中で溜息をついたのは秘密だ。いや、ばればれだったかも知れないが。
「ともあれ! 今年こそはもっと物語に復権しよう!」
「おぅ! たまには良いこと言うじゃないか、ユージェーヌ!」
「たまには、は余計だ!」
「たまにも言わんだろう、普通は!」
「言ったなぁ!」
「それがどうした!」
対峙する二人。お互いに、コーランドの至宝とか銘が付いている剣に手を掛けてたりする。だが。
「いい加減にしなさ~~~~~~~いっ!!!」
あきれ果てた妹の一喝で、そんな行動は粉砕された。
「正月草々、喧嘩なんかしていると、わたしが粉微塵にしてあげますわよ! ほら、そんなことをやっている内にスペースが尽きたじゃない! わたし、まだ何も言ってないのに~あ~!!!」
チャンチャン。
☆ ☆ ☆
「こう言う所の登場は初めてだね」
「まともに活字化されてからから考えると、十数年は経ってるな。その時でも、三人一緒に揃ったと言う一行しかなかったし」
「良いのではなくって? それだけ、世には事も無しということでしょうから」
「銀の姫は余裕だな」
「そう見えますか? 炎の騎士さま」
「見えるよ」
「まぁ・・・」
笑いあう二人を見て、中に立つ青年も笑みを浮かべた。
「僕たちの意志が受け継がれて行くならば、それで良いと思うよ。常に、世はその時に生きる人々が決めるもの。僕たちは見守るだけだから」
「そうですね」
「あぁ、そうだな」
穏やかに笑い合う三人は、談笑しながら黄昏れる中、世々を眺め続けた。
☆ ☆ ☆
「わたしにも、出番が回ってきたのね」
その少女は、ややもすれば寂しげな笑みを浮かべて言った。グレイト・キングダム帝都ラウクセスでも評判の酒場、BLUE RAGOON。夜の喧噪に沈むその店の一角に、ちょこんと座った少女クリスは、出されたオレンジ・ドリンクにも手を付けず、じっと黙っていた。
友達がいない訳ではない。何時も、自分のことを気に掛けてくれるランカー塾の塾生達や、磯が品かを縫って面倒を見てくれるエリザベートやフランシス、リヒター別館に詰める守護の騎士、ルテキア達もいる。
けれども──
じわり、と心を浸食する寂しさが減る訳でもなかった。
深い森の奥にあった古い館──そこで、育った記憶──閉じこめられていたその深い闇の中へ、差し込んだ一条の光──すべては、まだ鮮明に覚えていた。
それでも。
一度知ってしまった暖かみは、奈落の底の深さをより一層感じさせるだけに過ぎない。そして、より深い絶望も。
それでも・・・。
この国の民を護る為、自分は強く有らねばならない。自分というカタチが例え崩れてしまっても、それが国民の平和をもたらすので有れば──それだけでも、嬉しく思わねばならないだろう。
決心したはずだった。
その決意が鈍るなんて──
どうしてだろう? ねぇ、どうしてなの? どうして、どうして、そんなに笑顔で居られるの? わたしは、どうしたらいいの?
答えの出ない問い。
今宵も、一人の少女を涙に暮れさせて、帝都の夜は更けてゆく・・・。
☆ ☆ ☆
「酷いものだな」
「なにが、でしょう♪」
「思わないか?」
「だ・か・ら・なんのことを言ってるの~」
「言わずと知れている」
「まぁ」
「だいたいな、貴女は暢気すぎるぞ、フランシス。今後のこの国を背負って立つ人の嘆きを心配せずになにをぽややんとしているのだ」
「あらあらあら~。わたしだって考えていますわよ~♪」
「到底信じられないが」
この二人、誠に対照的だった。エリザベート・v・ルックナー。ルックナー伯爵家の令嬢にして、希代の聖騎士でもある。長い金髪に真っ青な瞳。細面の表情は美しくも凛々しく、都の話題の極の一つだった。
そしてもう一人。肩口で切りそろえた艶やかな黒髪。大きく煌めく黒い瞳。陽気な笑みを何時も口元に浮かべるこの貴婦人はリヒター公爵家のお姫様、フランシス・v・リヒターであった。
二人は古くからの友人(エリザベート曰く、忌まわしく腐れ縁)で、一緒に行動することも多かった。そしれ、今日も今日とて、新年パーティー会場にこうして一緒につるんでいる。
「いつもに増しての落ち込み振りだな」
「相乗効果なのよね~。一旦落ち込むと、連鎖反応的にどんどん落ち込んでいってしまうのよ~あの子の場合」
「そうだな。その不憫さが忍びない」
つと目蓋を見事なレースのハンケチで押さえるエリザベート。余談だが、ここら辺が女性らしさを嫌う彼女のささやかなおしゃれなのかも知れない。
「まぁ、泣く子は育つって言うから♪」
「いわないぞ。」
フランシスの戯れ言を、きっぱり切り捨てるエリザベート。
「でもね~あのままって言うのは、ちょっと可哀想かもね~」
「その通りだ。だが、肝心な莫迦タレが何も行動を起こさない。全く、何を考えて居るんだか・・・」
ぶつぶつ言うエリザベートにフランシスがホンワカ笑って言う。
「いいのよ~。釣った魚にはエサをやらない、でしょうから」
「あほかっ!!」
ちゃんちゃん
☆ ☆ ☆
「久しぶりよね~。記録を見ると、ほぼ一年更新がとまってるんだもん」
「怠慢、ね・・・」
「そうよ、ミューズ。言ってやって言ってやって!」
「?」
「純粋無垢なミューズに変な癖をつけるのは頂けないね、アンリエット」
「あのねぇ~アンタには言われたくないわ、トリスタンっ!」
「まぁ、それは良いとして。ホントに忘れ去られそうだね、ボクらは。と言うか、『GKDの嵐』の世界自体全てが止まってしまってるしね」
「すっごく重要な時代ステップなのにねぇ。結構アタシたちって扱いが薄幸よね」
「・・・創造主にも、色々・・・事情が、あるから・・・」
「あら、お優しいことで」
「あの時代と世界全体を纏める構想はあると聞いたけど」
「“予定は未定、決定ではない”を地でいく感じね。空手形っぽい感じがプンプンするわ」
「そう言いなさんな。言うだけ惨めになるよ」
「そうだけど・・・」
「・・・他の、みんな、は?」
「アキ、エリック、グスタフ、ジャンニ、シュヴァルツ、セリル、ドナティーン、真理査さん、V、ローター、リヒトホーヘン…エリザベートさんとフランシスさん、カリストとレテキアの四人は来てるわね」
「何時か、また全員が揃う時があるかな」
「揃う時、じゃないの! 揃うのよ、自分たちの意思で!」
「・・・そう、ね・・・信じていれば・・・いつか、また・・・逢える・・・」
「そうだな」
「そうね」
「では、その再会に向けて、乾杯をしておこう」
「良い考えね! それでは!」
「・・・乾杯・・・」
『カチン』と澄んだ音を立てて、三つのグラスが交わった。そして何時の日にか、もっと多くのグラスが交わらんことを・・・。
GREYHAWK ANOTHERのキャラクター、揃い踏みです(笑)。三つの時代(第一紀、第二紀、オリジナル)からの登場ですが、既に幾つかのお話しで名前が出ているキャラもいます。ご要望があれば、まだ未登場のキャラの話もアップしてみたいと思っております。