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混合世界は永遠に  作者: 黒空-kurosora-
異世界と現実世界
4/4

現実世界の縛り

久々の更新となります。

第4話です。

今回は文字数多めですが、是非よろしくお願いします。

記憶を失った異世界の少女、アルフレア・アルムルージュと青葉兄妹たちが出会ってから二ヶ月が経つ。

魔物を追い払ってからは大きな問題はなく、ギルドで受けた簡単な依頼をこなしつつお金を稼いで生活をやりくりしていた。

なんでもここ最近では見知らぬ土地を警戒する傾向にある異世界の人たちも依頼をこなすようになり、大分ギルドも活気づいたとか。

二ヶ月が経ち、皆がこの世界に対応してきているのが見て取れるようになっていた。


「おはよ、アルフレア」

「ええ、おはよう、閃」

以前浴室で直面してしまってからどことなく素っ気無さや気恥ずかしさを感じられるようなアルフレアはここ最近閃とあまり顔を見合わせていない。

とは言えお互い不慮の事故だったということは理解してるので、単純に時間の問題だろう。

最近ではだいぶその傾向も薄れてきている。

「2人とも、朝ご飯できたよ」

そう言って唯はエプロン姿のまま、キッチンから出てきた。

朝が弱い閃や、そもそも料理の記憶がないのであまり上手に作れないアルフレアはあまり朝食を担当することはない。

よって基本的に唯が担当するのだが、日を重ねるごとに成長していくその腕前は閃やアルフレアも驚くほどだった。

「唯、この数ヶ月で本当に料理上手くなったよなぁ、うん、上手い」

「ふふーん、実はマリーさんに色々教えてもらってたんだ」

そういえば、と2人は思った。

ここ最近唯はあまり依頼に参加せず、ギルドでマリーの手伝いに専念していたことを2人は思い出した。

「マリーさん料理もできたのか。

あの人完璧すぎだな」

閃はマリーの手際の良さやら面倒見の良さやらあらゆる面を含めてそう思った。

あの人に弱点はあるのだろうか?

「あ、そうそう、新聞届いてたよ」

「おお、そうか、依頼しに行かない日は情報がわからないからな。電波が届かないからスマホも使えないし、充電もほとんどできないし」

閃たちは混合世界の混乱を避けるために離れた場所で暮らすいわば「はぐれ者」として暮らしている。

不便な点と言えば現代ではなくてはならないインターネットに触れる機会が激減することや電化製品などを使えないといった点だろうか。

しかし、閃たちは未だ現在も読まれている新聞紙などを入手することで情報面に関しては不足を補っている。

「…ふーん、スターダスト国の姫君、ルーナ姫が2つの世界の決まりを設定、ね。

「ルーナ姫ってここ最近すごく頑張ってるよね?」

ルーナ・アステル・スターダスト。

混合世界へと変化したこの世界で、閃たちが住む日本と融合した異世界の大国「スターダスト」の姫君。

彼女はこの世界が融合した原因を探りながら、2つの世界の異文化や法律などを統一しようと動いているらしく、ここ2ヶ月で随分と街も変わっていった。

例えば2つの世界の名称。

現実世界の名は「レアリタ」と名付け、異世界の名は「レーヴィ」と名付けられた。

「レアリタ、レーヴィ…。確かに現実世界の人間から見たら異世界は当然異世界だし、でも異世界の人から見たら現実世界は異世界だ。

マリーさんは上手く対応してくれたけど、これからもこんなだと面倒だしな」

「私たちも慣れるのは大変だけど、この名前、しっかり覚えよう」

「そうだな、よし、また何か変わったことがあるだろうし、依頼してお金も貯めたいし。

エナジーフラワーまで行くか」

彼らは一先ず、依頼をするためにエナジーフラワーへと向かっていった。



エナジーフラワーまでほぼ毎日行くのに、距離はそれなりにかかる。

体力もついてきたとは言え、流石に時間もかかるということで、マリーがある乗り物を3台用意してくれていた。

異世界「レーヴィ」の技術を駆使した簡易的な乗り物で、魔石というものを埋め込み、浮遊して進むバギーのような乗り物。

レーヴィでは誰にでも使える自転車のようなものなのだが…。

「相変わらず快適だなーこれ!」

「そうだねー、自転車とは比べ物にならないね」

現実世界「レアリタ」の人間、閃たちから見るとこの乗り物は体力をあまり消耗しない上に速いという非常に優れた乗り物に感じていた。



スターダスト国領地内、レヴェンドゥルフ『エナジーフラワー』にて。

「マリーさん、依頼ってあるか?」

エナジーフラワーに入店すると、少しだけ、空気が違うと感じた。

活気を取り戻し、人が増えたから、という割には妙に鬱憤とした空間だった。

「…では失礼する」

マリーと話していた人は、レアリタの人間のように見えた。

しかし一般人と比べて、明らかにしっかりした体格に、閃とは比べ物にならないほどに引き締まった筋肉を見るに軍人のように見えた。

「おっと、失礼」

入り口に立っていた閃はそのレアリタの人間が通る道を避けると、その人物と目が合った。

「閃」

「…お、おお、悪い、圧倒されてた」

その迫力につい圧倒されてしまった。

魔物とはまた別の、死戦を潜り抜け来たかのような雰囲気は一般人の閃には圧倒されるほかなかった。

「マリーさん、今のは?」

「レアリタの連合軍『axxis』と言ってました。

最近その名をよく耳にしますね」

なんでもこの近辺の調査を行っていたらしい。

この辺にはどれくらい人口がいるのか、魔物はどれほど存在しているのかなどの調査だったとマリーは語った。

「なるほど、ね。

あの人はなんかすごかったな…。

異世か…レーヴィには強い人がたくさんいるけどあの人はそんな人たちに負けてない」

「おお、あんた目がいいな」

後ろから声をかけられ、振り返るとレーヴィの大男が立っていた。

身長は閃よりも15は上だろうか。

「確かに奴はそこらで魔物と戦ってるようなオレ達と比べても明らかに違うものがあった」

「そうなのか」

「あんたも結構ここに来るが、やはり奴は別格に感じたんだろう。

レアリタの人間もあんたといい奴といい中々できる奴がいるな」

そう感心しながらその大男は酒を飲みながら元の席へと戻っていった。

「まぁ俺たちが関わることはあまりないだろうな」

「どうかな?せん兄はやたらトラブルと縁があるし、わからないよ?」

「それは言わない方向で頼む」

閃は唯と軽口を叩き合いながら、アルフレアと依頼の内容を確認していた。

「…これがいいんじゃないかしら?」

「なになに…食材調達か…。

『このアラバイト一のレストラン、ナンバーズトップの看板のトリュフカレーのトリュフが切れてしまった。レアリタのすまーとふぉんだか何だかの口コミで話題になってしまって、困っている、誰かアラバイト山脈の麓の森林に生えているトリュフを取ってきてほしい』か…」

スマホの口コミというのはこの世界になっても変わらない拡散力があるのかと感心しつつ、報酬に目を見やるとその金額に彼は驚愕した。

「な、7万…だと!」

「トリュフも高級食材だけど、十分に元取れる金額でしょう?」

「しかし…アラバイト山脈の麓にある森林って何だろう?」

アラバイトとはこの地域の名称。

スターダストの領地で最も巨大な地域で、レヴェンドゥルフもその一部にある街。

しかしまだレーヴィの土地の知識には疎い彼にとってはアラバイト山脈と言われてもイマイチ理解しきれていなかった。

「それについては私が答えますよ」

「マリーさん」

「アラバイト山脈はここから数十キロ離れた先にある巨大な山脈です、登ることはほぼ不可能とされていて、基本的には整備された道しか通れないと言われていますね。

その麓にある森…。地図上では確かに森林はあります。ですが名前すらないようなほどの盛りです。まさかそんなところにあのトリュフカレーの具材があったなんて…」

トリュフカレーってそんなに有名なのか…と本日二度目の関心をしながら閃は頷いた。

「だけどせん兄、どうするつもり?数十キロでしょ?歩けないしあの乗り物も流石に使えないし…」

「…そうだよなぁ、報酬には惹かれるがやはりここは別のを…」

「馬車なら手配しますよ?」

「…え?」

「馬車なら手配しますよ?」

マリーは突然、力強くじっとこちらを見つめながら同じ言葉を繰り返した。

「ま、マリーさん?」

同じことを繰り返しながら目を輝かせるマリーに彼等は少々引いていた。

「…私、あのトリュフ大好きなんです!

一時期あの味を再現しようとしてました!

でもなんか味が違くて…もしかしたらトリュフが違うのかもしれないと!」

「……それはつまり、マリーさんも行くと?」

「馬車なら私が実費で手配いたしますがどうしますか?」

マリーが自ら実費で払うと言っている。これほどお互いにあった条件はないだろう。

熟考の末、閃たちはマリーの提案に乗ることにし、馬車の手配をお願いした。



その夜、エナジーフラワーの休憩室にて、彼等は明日来る馬車を待つためにここで泊まる準備をしていた。

「マリーさん、凄かったね〜」

「唯の料理がここまで上達したのもマリーさんのおかげなんだろ?

あの勢いは断るに断れない勢いだったな」

先程の会話を思い出しながら閃は思わず苦笑してしまった。

「私はAXXISの人が気になったな。なんかインパクトが強くて」

「そうだねぇ、あれは圧倒された。

閃はどう思ったの?

あのギルドの人に過大評価されてたけど」

「過大とはなんだ過大とは。

…まぁ実際あの人は凄いと思ったよ。

なんか怖かった。

同じ現実世界…レアリタか。

同じレアリタの人間とは思えなかった」

「へぇ、まぁ確かに別格だったよね」

唯曰くトラブルに愛されている閃とのことだが、今日も相変わらず様々なことがあった。

変わりゆく世界、移りゆく日々。

それらを振り返るとなんだか楽しいような、面倒だったような。

ともあれ充実していることに間違いはなかった。



次の日。

「さて参りましょう、私は今日という日を待ち望んでいました!」

相変わらずテンションがおかしいマリーに圧倒されつつ、彼女が借りてきた馬車に乗り彼等はアラバイト山脈へと向かっていった。

「おぉー、なんか馬車を使うなんてRPGみたいだ」

「せん兄ゲーム好きだもんねー、最近は出来てないけど」

「……げぇむ?」

各々が各々の感じるままに旅が始まった。

見たことのない景色に心を震わせながら。

混合世界の景色は思ったよりも綺麗な景観で、自然が多く、空気も心地が良い。

自然と気分が向上した閃たちはその景色を見ながらこの時間を、この空間を満喫したのだった。

「…なぁマリーさん、アレなんだ?」

「アレって…。……皆さん!衝撃に備えてください!ファイアボアの行軍です!」

閃は正面から砂煙を上げてくるものが確認できた。そのことを伝えると、マリーは顔色を変えて馬車の方向転換を始めた。

馬車を動かしていた馬も焦りつつ安定した挙動で方向転換を行い、猛スピードで駆け出していった。それほどまでに大きなことが起こっているのだと容易に想像できる。

「ファイアボアってなんだ!?」

「この辺を住処にしている魔物です!

一年に2回ほど群れをなして新たな住処へ移るんですが、習性なのかなんなのか、隊列を組んで軍人のように進むことからファイアボアの行軍と私たちは呼んでるんです!」

マリーはその後、普段は周期があるのでそれを確認すればまず遭遇することはないらしいが、混合世界になってからはまだ行軍の確認が取れず、周期がわからなかったらしい。

レーヴィでの行軍周期ではまだこの時期ではなかったらしいが、混合世界に変わって周期も変わったのかもしれないとマリーは考えていた。

「とりあえずどうすればいいんだ!?」

「馬さんの体力が持つかはわかりませんが、避けられるところまで避けてみます!

軍のようにとはいえファイアボアの大群は横列もかなり広いですから!」

マリーは焦りつつも巧みな馬術で乗りこなし、駆ける馬もそれに応えるべく全力で走っている、これもマリーの技術ゆえだろう。

「せん兄!向こう見て!」

唯が指したその先ではファイアボアが3体ほどこちらに向かって走っていた。

おそらく群れから外れてパニックになっているのだろう。

慌てて走っているのが伺える。

「マリーさん!このままじゃぶつかるよ!」

「くっ…!アルフレアさん、10秒だけで構いません。手綱を持っていただけませんか?

私があのファイアボアを追い払いますから!」

「……やってみます、マリーさん、お願いします!」

アルフレアはマリーの考えに乗り、手綱を受け取った。

「んっ、引っ張られる…!」

全速力で走る馬車の手綱は持っているだけでも精一杯なほどであった。

レアリタより優れた体を持つレーヴィの人間でもこれほどの馬車を操るにはよほどの技量が必要だろう。

「本当に、すごい…!」

「でも、マリーさん、どうするんだ!?」

「…こうするんですよ!

祖よ、開闢せし大地から吹き上げる紅蓮の炎より現れし精霊。我にその力の一節を授け給え…!煌け、爆裂…エクスプロード!!」

マリーが詠唱を始めると、周囲の空気がマリーに集まっていき、世界の色が変わった。

魔法陣が形成され、詠唱を続ける度その魔法陣は徐々に巨大化していく。

やがて前方のファイアボアに魔法陣が移ると彼女は魔法を発動させた。

エクスプロード。大爆発を意味するその名の通り、味方すら巻き込みかねないほどの爆発がファイアボアを襲った。

「わっ…すごい…」

「…ふぅ、なんとか狙いを上手く外せましたね」

「………?」

マリーが見つめる先にはファイアボアが群れの方向へと走っていく姿が写っていた。

マリーは魔物を討つことはせず、敢えて大きな火力の魔法を放つことで我に返させようとしたのだ。

「可能なら魔物といえど命は奪いたくありません。魔物だって魔物なりの考えがあって生きていると思いますから。ただ無益に魔物を討つだけならそれは…ただの殺人鬼と変わらないでしょう」

マリーの表情は憂いに満ちた表情で、そこからは閃では計り知れないほどの何かを垣間見た気がした。



「ふぅ、お馬さんもよく頑張りました。今日はひとまずゆっくり休んで英気を養ってくださいね」

疲れはてた馬はぐっすりと眠っていた。

無理もない、かなりの距離を全力で駆け抜けたのだから。

「マリーさんもお疲れ様」

「ありがとう、みんなキャンプの用意を頼めますか?私は料理の準備をしてきますので」

「あ、私も手伝います」

「唯さん…ありがとうございます。お願いしますね」

料理の準備をしに行った唯とマリー。2人の負担をかけないように閃とアルフレアはテントやキャンプの準備を滞りなく終えた。

しかしアルフレアはどこか浮かない顔をして。

「…ねぇ、閃」

「どうしたんだ?」

「こうしてしばらく一緒にいると忘れてきてしまうけど。……私って一体誰なんだろう。

覚えているのは名前だけ。アルムルージュという名も手がかりにはならない。

いつまでも閃たちの元にいるわけには…」

アルフレアはこうして過ごす毎日に幸せを感じながらも焦燥の念も抱いていた。

やはり彼女も責任を感じており、一刻も早く自分の生い立ちについて知らなくてはならないと思っていた。

「…そんなに焦らなくてもいいさ。

俺も唯も、アルフレアが居てくれて助かってるんだ」

「だけど…」

「ゆっくり、この世界のことも自分のことも知っていこう。きっとそのうち手がかりは見つかるさ」

閃は優しく、アルフレアに声をかけた。

それは彼が持つ優しさ、彼女がよく知る彼の良いところだった。

「…ありがとう、でもそれならもっと役に立たなくちゃ」

「…どういうことだ?」

「秘密」

アルフレアは魔法というものを知らなかった。

マリーが使ったあの爆発。あの後、あれは魔法によるものだとマリーは言っていた。

レーヴィの人間のみが扱える魔法という力。

あれを見て、何か感じるものがあった。

魔法を使えることができればもっと閃たちの役に立てるのではないかと。

その思いを秘めてアルフレアはマリーを待つのだった。



食事を終え、休息に入った頃。

「うーん、髪がベタベタ…。

あまりこの状態で寝たくないなぁ…」

「それでしたら近くに湖がありますよ。

小さいものではありますが、体を綺麗にするぐらいなら十分だと思います」

「本当ですか!それじゃあ行ってみます!」

「いえいえ、女の子なら誰しも身だしなみには気をつけたいところですもんね。

…唯さんは疲れ果てて寝てしまってますけど」

「マリーさんはどうしますか?」

マリーには敬語で話すアルフレア。

元々閃や年下の唯ですら敬語で話していたほどなので閃たちと出会う前から礼儀正しい性格だったのだろうというのが伺える。

「私も後で向かいます。

とは言え見張りは必要ですので、もう少し経ったら閃さんに変わってもらいますから、そうしたら行きますよ」

「では先に行ってきますね」

アルフレアはマリーから貰った簡易的な地図-彼女の速筆さはこういった面でも役に立つのかと内心驚いていた-を見ながら小さな湖へと向かっていった。



「おぉ…本当にある。確かにちょっと湖と呼ぶには小さいかな…」

湖というよりは少し大きい水たまりと言っても過言ではない気がした。

とは言えしっかり綺麗な水が溜まっている辺り、人の手であまり触れていないことがわかる。

「誰もいないよね…魔物とかも…」

辺りを見渡して人や魔物がいないことを確認するとアルフレアは衣服を脱ぎ、畳んでから湖に浸かった。

「…はぁ、気持ち良いなぁ……」

汚れた身体を洗い流しながら、アルフレアは自分のことや魔法のことについて考えていた。

まだここに居てもいいと閃は言ってくれた。

とは言えそれでも気が乗らないのはまた事実。

少しでももっと役に立ちたい。

そんな気持ちが強くなっていくのがわかる。

あの魔法を見てからだろうか。

魔法を使って、魔物を倒して、もっといろんな依頼をこなして閃たちの役に立ちたい。

そう思ってしまうアルフレア。

「…はぁ」

湖の上に浮いて空を見上げる。

人里離れた土地から見える綺麗な星々が見える。それは自らの焦る気持ちを少し和らげるには十分な効果を発揮した。

「……うん、魔法については聞きたいけど。

何もわからないんだし、まだ焦ることはないよね。閃もせっかくああ言ってくれているのだから」

そう思って再び浸かり直すとどこからか聞き慣れない音が聞こえる気がした。

ガサガサ。

草を退けて進む音が聞こえる。

「…魔物……!?」

アルフレアは衣服を取り上がろうとするが、物音を立てては魔物に気づかれるかもしれないという懸念からその場に留まることにする。

魔物に気付かれること。それが今最も危険だと思ったからだ。

(どのみち気付かれちゃったら着替える時間ないか…)

そう考え、その場に静止するがその考えが甘かったことを自覚した。

音を立てずとも人がいること、またはいたことを知る手立てはある。

つまりは匂いや足跡。

それを念頭に置いていなかったアルフレア。

すると。

「嘘っ!?」

魔物がここを嗅ぎつけた。

その魔物は、スティールウルフよりも凶暴と言われている魔物、バーサクウルフ。

肉食の生態であり、様々な情報から生物を見つけることから非常に優れた知能を持つが、生物を見つけた時の動きは正に食に飢えた獣の如しということからこの名がつけられた。

通称、脳ある猛獣。

アルフレアはスティールウルフの一件以降、ギルドで魔物について調べていた。

その時にこの魔物の名を目にした。

以前のスティールウルフと似た外見ながらも危険なので知識として覚えたほうがいいと思ったからだ。

「バーサクウルフなんてこの近くにいたの!?」

アルフレアは驚愕した。この辺りではバーサクウルフという名の魔物がいることは地図では確認されていなかったからだ。

慌てて湖から出る、バーサクウルフは情報では水中でもある程度は動けると知っているからだ。

「くっ…!」

考えをまとめる。

バーサクウルフは今にも襲い掛かりそうな雰囲気だ。

衣服も何も身にまとっていない状態でどうこう出来る問題ではない。

助けを呼ぶにも逃げ切れる自信もない。

「どうしよう…っ」

アルフレアはそのとき恐怖を感じた。

自分に戦う力があればこの状況を打破できるのに、という自らの弱さに怒りすら感じた。

それでも彼女には何もできなかった。

その無力さから立つ気力を失うほどに。

戦意を完全に失ったことを確認すると、バーサクウルフはその名の、情報通りの飢えた獣のような凶暴さでこちらへと向かってくる。

「…………!」

すると、横から強烈な風の力がバーサクウルフを吹き飛ばした。

「だ、誰…?」

「アルフレアさん、大丈夫ですか!?」

マリーだった。

焦った表情でアルフレアの無事を確認するとすぐに安心した表情に切り替わる。

「え、あの、はい。大丈夫です…その、ありがとうございます」

「良かったです、閃さんが少し早く変わってくれてこちらへと向かっていたときにバーサクウルフが森へと入ってくるのが魔法の力で遠くから見えたので焦ってこちらへ」

魔法はそんなことにも使えるのかと感心するがそれよりも立てないことに、足の震えが止まらないことに彼女は意識が向いていた。

それを察するとマリーはアルフレアを優しく抱きしめた。

「無事で本当に良かったです。

だから落ち着いてください…」

マリーの抱擁はとても心が安らぐようで、アルフレアの恐怖心は薄れていった。



「…落ち着きましたか?」

「…はい、ありがとうございます」

しばらく経ってアルフレアは体の震えが止まったことを確認する。

「まさかこんなところにバーサクウルフがいるとは私も想定外でした。

だけどそれよりもまず…」

「……?」

アルフレアは先程までの出来事で自分が今どんな状態なのかよく気付いてない様子でマリーを見つめる。

冷静に状況が判断できてたときはまだ頭にはあったはずだったのだが。

「服、着ましょう」

「……あっ」

同性とはいえずっとこの状態のままだったのかと思うと、今度は恥ずかしさで頭が回らなくなりそうだった。

胸などを腕で隠すと。

「その、同性とは言えやっぱり恥ずかしいので後ろ向いててください」

「そんな綺麗なスタイルなんですから恥ずかしがらずに同性の前くらいは堂々としていいと思いますけどね…」

少し羨ましそうな顔でこちらを見るが、マリーも相当スタイルがいい部類に入る。

能力や容姿も相まってそれこそ完璧だ。

そこで能力、と考えが及んで思い出す。

「あ、あの、マリーさん」

「どうしました?」

「…私に魔法を教えてくれませんか?」

少し声が小さくなってしまったが確かにアルフレアはそう伝えた。

「魔法、ですか?」

「はい。私もレーヴィの人間です。

元々閃たちの役に立つためと思いましたけど、さっきのを見て、ああいったことにも対応しなくてはいけないと思ったんです。

ですから…」

そう真剣に今思ったことを伝えると、マリーは優しい表情で。

「…わかりました。私で良ければ魔法について教えましょう。

…まず魔法について教えないといけないんですけど…」

「あ、服ですか?」

アルフレアは着替えようとするが。

「いえ、寧ろ丁度いいです。

衣服をまとわずにやることがありますので少し着替えるのを待っていただけますか?」

「……?」

アルフレアは首を傾げて着替えるのをやめた。



「少し肌寒いと思いますけど、少し我慢しててください。どちらにせよ脱ぐことになりますし、そちらの方がアルフレアさんも楽だと思いますから」

「はい、わかりました」

そしてアルフレアが真剣に聞いてる中、マリーは魔法についてを語った。

「……魔法。レアリタでは伝説だとか御伽噺の一種とされてますが、私たちレーヴィの人間には割と身近にあるものだったりします」

「そうなんですか?」

マリーはポケットの中から魔石を取り出し。

「魔石は魔法を秘めた石を使ったもの。

アルフレアさんは閃さんたちとよく触れてますからレアリタのもので例えるなら…電池とかカートリッジみたいなものでしょうか」

「あ、それならわかります」

「そう、魔法は割と身近にあるものです。

でも使える人は限られてます。だからアルフレアさんも私が使ったことで魔法を初めて目にしたんでしょう」

それからマリーはわかりやすく、かつ長すぎず魔法について語っていった。

魔法はレーヴィの人間が体内に宿す、マジックスポットの貯蔵量で才能が決まるのだと。

そしてマジックスポットに宿る力を魔法力と呼び、その魔法力に応じた魔法が使えるということも。

そしてそれは生まれながらに持つ才能で、伸びることはない絶対的なものなので、魔法を扱う人間たちの界隈では差別が広がり続けているということも話した。

「それでは、お待たせしました。

アルフレアさんがどれほどのマジックスポットを持つのか見てみようと思います」

「どうやってみれるんですか?」

「そのために服を着ないで我慢してもらいましたから。

まず湖に浸かりましょう、その方がわかりやすいので。

そして精神を集中させてください。

すると体内に感じるものがあるはずですから、それを対外に放出させてみてください。

最後言ったものはなかなか難しいものがありますので、私がサポートします」

「わかりました、よろしくお願いします」

アルフレアはそう言って湖の中心に立った。

そして言われた通りに、静かに精神を集中させる。

湖はやがて音を立てることをやめて。

(マリーさんに抱きしめてもらってからすごく落ち着いてる、これなら…)

精神を集中させ続けると、マリーの言っていた通り感じるものを見つけた。

(これがマジックスポット…?)

マジックスポットらしきものを確認できたが、やはりそれ以降が難しいというのは本当だった。

体外に出すと言っていたもののイメージが湧かない。当然感覚もわからない。

「…そろそろサポートが必要ですね」

マリーはそう言って単純に魔法力を形にしたものをアルフレアの体内に宿した。

これは魔法を使う者がマジックスポットの探知に使われる手法で、魔法力を操り体内に宿るマジックスポットを発見するというものだった。

「アルフレアさんのマジックスポット…これ…って…嘘…?」

マリーはそう呟いて、アルフレアのマジックスポットから魔法力を放出させる。

「わわっ…」

アルフレアの身体から溢れ出た魔法力は周囲を揺らし、巨大な光柱を立て空へと消えていった。

「これが…アルフレアさんの魔法力…!?」

その巨大な魔法力はマリーの想像をはるかに超えていた。

周囲から優れたマジックスポットを持つと言われていたマリーですら、この魔法力には劣っているほどだった。

「アルフレアさん、貴女は一体…!」



続く


書いてた感想がマリーさん無双&アルフレアの肌色率(←)ですかね。

水浴び中に魔物現れてマリーさん助けてそのまま服着てないからマジックスポット探知して、と考えの中じゃ割とテンポよく言ってたんですが思ってたより肌色率が高い時間長かったですね。

まぁこれはこれで…。

もし書籍化されたらこの肌色率どうなるんだろうとありもしないことを考えてみたりします←

それと今回は今までと比較にならないくらい文字数が多い印象ですね。

その分情報量が多かったと思います。

閃たちの住む国「スターダスト」そしてその姫君ルーナ、現実世界のレアリタ、異世界のレーヴィ、レアリタの組織AXXIS、レーヴィの人間が扱える魔法、マジックスポット、アラバイト山脈、町の名前レヴェンドゥルフ…。

簡単にまとめてもこれだけの情報が初出となりました。

なので次回は同時刻の閃視点でのこれまでの設定まとめを行いたいと思います。

トリュフを取りに行くという話はまたその次回ということになると思います。

また機会がありましたら読んでいただけると嬉しいです。

それではまた次回で。

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