アルフレア
小説を書くことに慣れるために、この作品を書こうと思いました。
この作品は異世界転生とも異世界転移とも言い難く、ジャンルのつけ方に迷っています。
一応異世界ものではあるのですが…。
一先ずこの作品でしっかりと力をつけていこうと思いますので、よろしくお願い致します。
もし、この世界の他に、世界があるとするならば、それを本当に信じる者はいるのだろうか。
常識的に考えれば、まずいないと見て間違いない。
何故ならば、認識できない存在であるからだ。
超能力も、どうなっているか「視認」することはできるけれども、真の意味で「認識」することは困難だ。
だから、人はそういった類の話をなかなか信じることはできない、妄想や空想の世界ということで閉じ込めてしまうのだ。
トリックがほとんどの人が大体何らかのタネがあるはずと睨むように。
怪談が陰影やその環境による勘違いだと思う人が一定数いるように。
だけどこの世界は違う。
「本当に」こことは違う世界があったのだ。
信じざるをえない。
何故なら…それを、認識できてしまったからだ。
「混合世界は永遠に」
元の世界…現実世界と言っておこう。
現実世界は、ある日を境に変わり果てた。
異世界とでもいうべきか。
いわゆるラノベやゲームの世界に限りなく近いものへと変わった。
人は今のこの世界を混合世界と呼ぶ。
もちろん突如として変わったものだから、現実世界と異世界の人たちは大混乱を招いた。
そしてその混乱を避けるために、人里離れた土地で暮らすものも増えていった。
ここにも…混乱を避けるため、小さな山奥に住む者がいた。
◆
「せん兄ー、まだー?」
「おー、もうちょい待っててくれよ…おし、準備できた」
山奥で、小さな家がある。
もともとは倉庫だったものを少し改造して家にしたものだ。
「やっと来た。ずいぶん待たせたじゃない」
歩いてくる姿を見て、青葉唯は言う。
「悪かったよ、その分ちゃちゃっと終わらせようぜ」
唯に強気な口調で押されて、謝罪の言葉を述べるのは彼女の兄、青葉閃。
二人暮らしの彼らは、この混合世界で起きた混乱を避けるため、人里離れたこの山奥で住んでいる。自給自足の生活を強いられながらも何とかやりくりしているらしい。
「世界が変になってからもう一月は経ったっけ」
「そう…だね。せん兄の言う通り、それくらい経ったよ」
「あーぁ、めんどうだなぁ。
どーせなら、異世界転生してチート能力とかもらって無双したかったよ」
「そんなの、せん兄に起きるわけないでしょ?
ラノベじゃあるまいし」
現実世界と異世界が一つになって、一ヶ月が経った。
世界は未だに混乱の情勢が続いている。
場所によっては戦争だの、何だの…。
とてもじゃないが治安が良いと呼べるような場所はすでになかった。
「けどまぁ、アレだろ。この辺は異世界から連れてこられたモンスターとかもいないしさ。
野菜とかも育てられるし良い場所だよな」
「それは言えてる。
私たちでも育てられるし、そんな不便しないよね」
一方、人里離れた場所に住むようになった人々は、その分自給自足の生活となるものの、異世界との混合による効果なのか、環境が少し変わって、作物が育てられやすくなっている。
そういったことが判明していって、町や都市から離れる人々も増えていった。
それから暫くが経ち…。
「唯ー、こんなもんで良いだろ」
閃が確認を取るため、唯を呼ぶ。
その言葉を聞いた唯は軽い足取りで閃の元へと向かい、確認を取る。
「うん、まぁちょっと育ちきってないのも採っちゃってるけど大丈夫かな」
唯が確認を取っていたものは、山を降りた場所の近くの畑で農業をしている農家に手伝いも兼ねて作物をもらっているところだった。
まだ一月しか経っていないため、買い溜めした食材以外乏しい二人はこうやって同じ考えを持つ人たちと連携をとりながら、生活をしている。
日が暮れ始めた頃、農家に挨拶をして、いくつかの作物をもらった兄妹二人は暗くならないうちに帰路へと向かっていた。
「今日は雨が降りそうだな…。
雲行きがあやしい。唯、食事の前に雨漏りしないかチェックしておこう」
「面倒ごとが嫌いなせん兄にしては珍しい。
あ、だから雨なのかな?」
「さりげなく酷いこと言ったよね!?」
雨の心配から、家の雨漏りをチェックしたいと主張する閃に対しての唯の答えに軽く傷付きながら、家へと戻っていった。
◆
時間は少し戻り、昼ごろ。
「はっ…はっ…」
どこかの森で、誰かが追いかけられている。
モンスター、魔物。RPGなどで見かけるこの存在は今や現実となり、混合世界で生きるものたちを襲っていた。
そしてその魔物から逃げるローブを着た人影が見える。
「ここから…逃げないと…」
そう呟いて、また精一杯走り出す。
走る内に、洞穴が見えた。
一目散にその洞穴へと駆け出す。
洞穴に入ると、追いかけてきた魔物は別の方向へと向かっていき、上手く撒いたと安堵した。
「はぁ、はぁ…少し回復しないと、きつい…」
そう言って、しゃがみ込む。
しかしその後。落ち着いたしたことを後悔する。
洞穴の奥から足音が聞こえる。
重い足音だ、それに速い。
一歩一歩進むたびに大きくなる音に腰が引けて行く。
その後、目の前が真っ暗になった。
「あんなの、いるなんて聞いてない…!」
身にまとっていたローブを囮に外へ駆け出した。
虎やライオンの類ではあったものの、そういった存在より遥かに巨大な魔物であった。
どこへ向かっているのかもわからない。
とにかく逃げなければならない。やるべきことがあるから。
そう心に呟いて、ただひたすら走り続けた。
しかし、その先は崖だった。
切り立った大きな崖…落ちたらどうなることか。少なくとも命の保証はできなかった。
あの重い足音が再び聞こえてきた。
戦慄が走る。そして脳裏に二つの選択肢が浮かぶ。
ここで果てるか、生き延びる可能性を信じて飛び降りるか。
どちらも命の保証は全くない。
だけど少しでも可能性があるのなら…。
魔物は飛び掛かる。迷ってる暇は、ない。
そして崖から飛び降りた。
生きたい、そして使命を果たさないと…。
記憶は、そこで途絶えた。
◆
「雨やばいな…。ちゃんと対策取っておいてよかったよ」
食事を終えた青葉兄妹。
倉庫だったものを改造したため、耐久性に少し難があったものの、一月かけてなんとか家として機能する程度にはなった。
「久しぶりだね、こんな雨。
この世界になってからは初めてだよね」
「そーだなぁ、まぁ冷えると思うし、これ以上強くならない内に風呂の準備でもするか」
と言いつつ、閃は傘を持って外に出た。
この家では風呂は火を焚いて貯めた水を温めている。
ドラム缶風呂の応用である。
安全のため、中からは火を焚けなくなっていて、いつも裏側から回って火を焚くよう設計されている。
家の裏側に回った閃はいつもと違った何かがあることに気づいた。
「アレってまさか…」
何か、が気になり、その場所まで向かう。
変な予感がしたからだ。
その予感は的中した。
それは少女だった…しかも見た目や服から異世界人のものだろうか…。
怪我をしている。
一体どんな事が起きればこんな風になるのだろうか。
取り敢えず呼吸を確認すると、身体は雨で冷えているものの息があることを確認する。
閃は少女をおぶって、ひとまず家まで戻った。
◆
「うわ、どうしたの、その子…?」
「家の奥で倒れてたんだ。
なんでかわからないけど、怪我もしてるし、手当てしたい。
面倒ごとは嫌いだが、見捨てるのも嫌だからな。
ちょっと手伝ってくれ」
怪我の手当てをする。
身体を強い衝撃で打ち付けられていて、完治までしばらくかかりそうだった。
「ありがとな、唯。
さすがに放っておけなくてな」
「良いんだよ、せん兄がそういう性格だってわかってるから」
「…面倒ごとは嫌いだけどな」
「それもわかってる、それでも助けようとするのがせん兄だからね」
妹はよくわかっていた。
それから数時間後、少女が目を覚ました。
「…ここ、は…?」
「おっ、目が覚めたか。結構ひどい怪我だったんだからな。あんまり動くなよ」
「貴方は…?」
まだ焦点がいまいち定まってない目で閃の方を見つめる。
「俺は青葉 閃だ。こっちは妹の唯。
お前が倒れてるのを見つけてな、手当てしたんだ。そういうお前は?」
「私?私は…。あ、あれ…?」
少女はその長い銀髪の髪を揺らして、頭を抱えた。
「えっと、私の名前はアルフレア・アルムルージュ」
「本当に異世界人なんだ…。
綺麗な髪だし、すごく可愛い…」
アルフレアと名乗る少女の姿を改めて見て、唯はその可憐な姿に可愛いと言ってしまった。
女性から見てもそう思うほどの容姿だった。
だけど…とアルフレアは口を開いた。
「私、それ以外、何も思い出せなくて…」
その言葉を聞いて、兄妹は目を見開く。
先に口を開いたのは閃だった。
「アルフレア…さん、それって記憶喪失ってことか…?」
「記憶…喪失…そう、なのかな。
何か大事なことをしようとしていたはずなんだけど、何もわからないの…」
俯き、悩み始めるアルフレア。
その目の前で何か閃いたかのような表情をする閃は、ある案をアルフレアに持ちかけた。
「だったら、この山を降りて少し先にある街に行ってみるか。
アルムルージュっていうのが分かってるなら、異世界人がその名前を知っているかもしれない」
「そっか!それが良いよアルフレアさん!
ちゃんと怪我を治してからだけどね」
閃の意見に賛同する唯。しかしそれ以上に彼女の怪我も気遣っていた。
「身寄りも知らない私のために…いいの?」
「いいの、せん兄はそういう性格だから」
「んまぁそういうことだ。まぁ街へ行くかどうかは、お前次第だけどな」
事情も知らない記憶喪失の自分のためにそこまでしてくれることに戸惑うアルフレアだったが、唯がそれを諭した。
「…それじゃあ、お願いします。閃さん、唯さん」
◆
一週間が経った。
ひどい怪我だったにもかかわらず、異常な治癒力で完治したアルフレアは次の日に街へ向かいたいと提案した。
「異世界人の治癒力ってここまであんのか…」
流石に驚愕する閃だったが、アルフレアの意見を快く受け入れた。
その夜、久々の風呂ということでアルフレアは嬉々としていた。
記憶を失くす前から、どうやら風呂に入るという行為は好きだったらしい。
「アルフレアさん、火ぃ焚いたから、待望のお風呂に入れるぜ」
「本当!?すぐ行く!!」
うずうずしていたアルフレアは早々に風呂場へと向かっていった。
「記憶がないって言ってたけど、やっぱり好きなこととかは体が覚えてたりするんだね」
「そうなんだな」
「ところでせん兄。いくらアルフレアさんが美人だからって覗いたりしないでね」
「しないって…」
時折妹の信用度を疑う兄はやはり少し傷付きながら、妹の家事を手伝うのであった。
そしてその頃アルフレアは一人になって今の状況を整理し始めた。
「私は…一体誰なんだろう…?」
考えれば考えるほど、謎は深まる。
あの兄妹に助けられる以前の記憶は相変わらずない。変な霧がかかっている状態だった。
考えても仕方がなかったので、ひとまず風呂に集中した。
◆
約束通り、次の日。
唯に留守番を頼み、閃とアルフレアは街へと向かう準備をしていた。
「せん兄、ちゃんとハンカチとか色々持ちましたか?」
「いやいや、小学生の遠足じゃないんだからな?」
「ふふっ、冗談だよ。気をつけてね!」
家を出ると、そこには既に準備を終わらせていたアルフレアの姿がそこにあった。
真紅の衣装を身にまとったその姿は、可憐であり、美麗であった。
しかしその衣装はところどころが破けていて、服として機能するのがやっとという程度であった。
「その服さすがにボロボロだろう。
街に降りたら最初は服を買いに行こうか」
「でも私お金は…」
遠慮しがちなアルフレア。
当然だ。見ず知らずの自分に服まで買ってもらえるなんて常識的にありえない。
「いいんだよ、俺たちは現実世界側の人間だから、異世界人の服は買えないけどな」
この混合世界では、まだお金についていまいち定まっていない。
とりあえず現実世界のものは現実世界のお金で、異世界のものは異世界のお金でというのが現状のスタイルだった。
記憶がないアルフレアのために、この世界のややこしい説明をしていくうちに街のすぐ近くまでたどり着いた。
「ほら、あそこがこの近くの街だ。
俺たちも時折食料を買ったりしてるんだ」
「そうなんだ、結構遠いよね?」
「…それでも、俺たちはこの世界でそういう生き方をしていくって決めてるからな」
閃はそう言って、案内ついでに服屋まで向かっていった。
「…うん、一番これがいいかな」
「おっ、似合ってるんじゃないか。
値段もまぁ手頃だな」
元の衣装に近いイメージを与える、白と赤が基調の衣服を身にまとったアルフレア。
彼女自身も気に入ったようで、くるっと回っては笑顔でいる。
アルフレアにその衣服を買ってあげたあと、異世界人が集まる酒場へと向かった。
◆
結果は良いものではなかった。
アルムルージュという名前を出しても、その名を知る者は一人としていなかった。
結局、この近くでは彼女が何者かわからなかったのだ。
「まぁ、そう気を落とすなよ。
いつかは見つかるだろ」
「でも、これ以上あなた達に迷惑は…」
「…アルフレアさん?」
重い口調でアルフレアは立ち上がる。
その瞳はこれ以上迷惑をかけたくないという意思を示していた。
「ありがとう、ございました。
この服、大切にします。さようなら」
アルフレアは振り向かず、その場を逃げるように立ち去った。
「おい、アルフレアさん!
……ったくしょうがないな…」
閃は彼女の顔を見て、ある一つの決意をして、彼女を追いかけた。
◆
夕暮れ頃。
閃はようやくアルフレアを見つけ出した。
路地裏の暗い場所で、その長く綺麗な銀髪の髪を揺らしていた。
一際綺麗な髪を持つ彼女だったが、街が広大な上、足も速かったため、予想以上に探すのに時間がかかってしまった。
「…どうしてここまで追ってきたの?
私はもう貴方には…」
「…提案があるからだ。
俺たちと一緒にこの世界で暮らしていかないか?」
想像にもしなかったその言葉に彼女は驚いた。
「それは、どういう…?」
「そのままの意味だよ、お前が申し訳ないという気持ちがあるのなら、俺たちと一緒に、俺たちが助けた分、手伝ってくれ」
閃は、強く、優しい口調で語り出した。
「私は…」
「俺も唯も、この世界みんな、まだまだこの新しい世界に慣れてないんだ。
それはアルフレアさんも同じだろ?
なら、協力して。この世界を生きて行こうぜ。
帰れる場所はあった方が良いだろ?」
その言葉を聞いてアルフレアもまた、一つの決意をして。
「…うん、わかったわ。その提案に乗りたい。
貴方達と一緒に、帰れる場所が欲しい。
不束者ですが、その、よろしくお願いします…」
だんだんと自分の言ってることに恥ずかしくなってきたのか、アルフレアは赤面して俯いた。
こうして、現実世界の兄妹二人と、記憶喪失の異世界人の少女は出会った。
彼女は何者か、この世界はどうなるのか。
この場所で、生きていく。
そんな物語が始まる。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
「混合世界は永遠に」どうでしたでしょうか…。
まだまだ実力不足は否めませんし、地の文に関してもまだまだであると思っています。
ここで、ストーリー上描写がなかったので補足したい点があります。
崖から落ちた人影…アルフレアなんですが、あの後どうなったのかというところです。
そこそこ高いところから落ちてるので、普通に落ちれば間違いなく命の危険があります。
ですがアルフレアは奇跡的に、木の枝に乗っかる形で落下したため、衝撃が抑えられた形で落下することになりました。
ですので、命に別状はなかったということです。
私自身、色々と想像しながらこの描写はおかしくないかどうか考えながら書いていますが、それでもおかしいのではないかという点はいくつかあると思います。
様々な知識を身につけながら、この「混合世界は永遠に」を盛り上げていきたいと思っています。
今後ともよろしくお願いします。