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その13 ボードゲーム:後編

 突然の嫌な気配。

 どうやらそれはセシリアも感じとったようで、オリヴェルの膝の上で首を傾げている。


「どうせ、ソラだろ」

「きゃっ!」


 膝に座っていたセシリアをそのまま横抱きにして立ち上がり、オリヴェルは窓から外の様子を窺う。

 そこには予想した通りソラがいて、かつて自分とパーティを組んでいた仲間たちも一緒だった。いい加減セシリアはオリヴェルのものだと認めてしまえばいいのにと、思う。


「こりないなー……」


 さすがに面倒だ。

 セシリアと一緒にいるときは、なおのこと。


 オリヴェルを殺し魔王を捕らえろという王命を受けし、新たなる勇者ソラ。彼はその命を忠実に守っているのかいないのか――かなりの頻度でオリヴェル邸へ乗り込んで来ている。

 一人のときもあれば、兵士を引き連れてくるときもある。

 けれど、オリヴェルの元パーティメンバーを連れて来たのは初めてだ。


「いったい何を企んでるんだろうな」

「……私を、殺しにきたのでしょう?」


 ぽつりと呟いたオリヴェルの言葉に、すぐさまセシリアが何を言っているのだという瞳で見つめて言葉を返す。至極まっとうな魔王様のお答えだが、しかしそうじゃない。


「違う」


 ソラはオリヴェルを殺そうとは思っているかもしれないが、来るたびにセシリアへお菓子の土産を持参しているのだ。王命にかこつけて、セシリアに会いに来ているだけなのだ。


 ――本当、セシリアは魅力的すぎて困る。


「とりあえずほっとくかな。今はセシリアと一緒にいたいし」

「……私を差し出せば丸く収まるのに?」

「セシリアは俺のだから、渡さないの」

「…………」


 オリヴェルは、セシリアが何度言おうと、絶対に駄目だという。

 しつこいとか、何度も言ったとか、そんな怒るようなことは決してしない。何度でも、セシリアを可愛いと言っては甘やかすのだ。


「でも――」

「セシリアは、ここにいればいい。俺がちゃんと守ってあげるから、心配はいらないよ?」


 にこりと微笑んで、オリヴェルはセシリアをソファへとおろす。

 セシリアが気にして、自分を差し出すと言い続けられるのも面白くない。それにやはり、ずっといられると目立って邪魔なのだ。あの勇者一行が。

 それに、セシリアが意識をオリヴェルに向けようとしないのがよろしくない。それならば、とっとと障害であるソラたちを追い払うのが得策だ。


「すぐもどってくるから、このまま待ってて」

「…………」


 行ってきますと言うように、オリヴェルはぽんぽんとセシリアの頭をなでる。そのままセシリアの部屋のバルコニーへと歩き、庭へ飛び降りた。


「……どうして」


 私なんかを、そこまで守ろうとするのだろうか。

 セシリアの声は、誰もいない室内へと溶けた。




 ◇ ◇ ◇


 綺麗に整えられた庭園を横切って門まで行くと、ソラがオリヴェルを見てぶんぶんと手を振った。お前は王に命令され自分を殺しにきたんじゃないかとため息をつく。


 ――あの王は、勇者に嫌われる性質でも持ってるのか。

 なんて思ってみるが、そもそも普通の人間ですらそう簡単に好きになるような人種ではなかったなと思い返す。


「お、やっときたオリヴェルさん!」

「ソラ、お前はしつこすぎる。とっとと帰れ」


 お前は懐いた犬かと呆れながら、オリヴェルは手でしっしと追い払うような動作をする。すぐにソラが「違う違う」と声に出して、後ろにいる元パーティメンバーに視線を向けた。


「違うよ、今日の俺は付き添いだ」

「?」


 つまり、元パーティメンバーがオリヴェルに用だということだろう。特に改まって話すようなこともないし、セシリアを手放す気もないのでこちらとしては何も話すことはない。

 セシリアとの時間を邪魔され、ピリッと嫌な空気がオリヴェルから流れる。


「……オリヴェル」

「エルナ?」


 オリヴェルの名前を呼んで、一歩前に出たのは回復役をしていた女王のエルナだ。

 いったいどうしたのだろうと見やるが、特に武器は持っていない。そもそも彼女は回復専門なので、攻撃はしない。


「わたくし、わたくしね、オリヴェルに伝えたいことがあるの」


 今、この場で口を開いているのはエルナだけだ。

 オリヴェルが魔王を持ち帰ってから、その後一度様子を見てから、ずっとずっとそのことについて考えていたのだ。

 こんなの、魔物をなぎ倒していたオリヴェルと違いすぎると、エルナはそう――思い込んでいた。


「わたくしは、ずっとオリヴェルが好きなの。愛しているの……!」

「!」

「魔王を倒して、街に戻ったら……ずっと、オリヴェルと一緒にいられると思っていました。オリヴェルはいつも優しくしてくれたから、わたくしの隣にいるものだと……」

「…………」


 熱のある告白ではあるのだが、オリヴェルの心はまったくもって動かされることがない。

 エルナが言う優しいも、オリヴェルにとってはあまりピンとこなかったからかもしれない。魔法の相談にのったことはあるけれど……。


 王女である自分の結婚相手にするならば、勇者であるオリヴェルがふさわしくてちょうどいいと思っているのだろう。エルナは聖女と呼ばれていることもあり、勇者であるオリヴェルと結婚すれば国民からの人気も上がるだろう。

 今でこそ王に追われているオリヴェルだが、国民の人気は落ちていない。逆に、国王の人気があまりないから――この機会に、オリヴェルの罪を許し挽回しようと考えているのかもしれない。


 後ろに控えているパーティメンバーたちは、若干不思議そうな顔をしているが、彼女を応援しにきたのだろう。そう思うと、連れてきたソラに怒りが湧く。

 どうするかオリヴェルが考え口を開こうとするが、それより早くエルナが再び口を開く。


「ねぇ、オリヴェル! わたくしと、結婚しましょう?」


 そしてこの国を、より発展させていきましょうとエルナは囁いた。

感想ありがとうございます。

思った以上に表紙のゴブリンが認識されていなかった……っ!


発売日まであと三日です!

完結まであと少し、よろしくお願いします!

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