その9 ゴブリンネット通販
一通りの家事を終わらせたゴブリンは、キッチンの机でノートパソコンを開いた。
アクセスするサイトは『ゴブリンネット通販』だ。
「何か画期的な新商品があるといいんですが……」
ページをスクロールしながら見ているのは、キッチン用品だ。ここは魔王城ではないので、ゴブリンが日ごろから使っている日用品の類がまったくない。
「セシリア様には野菜や果物をたくさん取っていただきたいですね……」
負担にならないよう、スムージーにしてみようとミキサーのページを見る。魔力で動くため、高頻度で使わなければゴブリンの少ない魔力でも動かすことができるのだ。
小さめサイズのスムージー用ミキサーをぽちったところで、背後から興味津々といった声が響いた。
青い瞳をキラキラさせたオリヴェルが、ノートパソコンの画面を楽しそうに覗き込んだ。
「そのサイト、何?」
「これは、ゴブリンの作ったアイテムが売られているゴブリン専用の通販サイトです」
簡単に説明して、ゴブリンはオリヴェルに商品を見せていく。大抵のものがゴブリンサイズに作られていて、人間には扱いづらいものになっている。
ただ、贈り物を想定したアクセサリーなどはどの種族が付けても問題ないよ、可愛らしいデザインや綺麗なデザインと種類が豊富に取り揃えられている。
「へえぇ……こんなゴブリン特化のネット通販があるなんて知らなかった。あ、スムージー用のミキサー買ったの? 確かにセシリアみたいに可愛い子は、スムージーが似合うよね。さすがだゴブリン、ナイス!」
「はぁ……」
オリヴェルはセシリアが絡むと話が長くなる。これはゴブリンがここにきて真っ先に学んだことの一つ。
これはしばらく付き合わされそうだなと思いながら、一緒にモニタを覗き込む。いつの間にかマウスはオリヴェルが操作していて、セシリアに似合いそうなアクセサリーを探していた。
「すごいね、ゴブリンって……手先が器用なんだ」
「鍛錬しても戦闘力があまり上がらないので、こういった技術面を上げるゴブリンは一定数いますね」
あまり戦いを好まず、平和に過ごしたいというゴブリンが一定数いるから成り立っている世界だろう。
「これって、俺も帰る?」
「ああ、このサイトはゴブリン専用なんです。魔物、人間と関係なくゴブリンにしかIDとパスワードが発行されない仕組みになってるんです」
「こんなにいい代物があるのに? もったいない……」
そう呟きながら、オリヴェルが可愛らしいピンクパールのアクセサリーをぽちる。
おっと?
「セシリアなら全部着こなしちゃいそうだよね。ゴブリンだったら、このブルーとイエロー、どっちの方がセシリアに似合うと思う?」
「え? ええと、セシリア様ならどちらも似合うと思いますが……」
「だよね!」
ゴブリンの返事を聞いてすぐに、オリヴェルは色違いの二品をぽちって買い物カゴへと放り込む。一気に値段が膨れ上がり、ゴブリンは慌てて止めに入る。
勇者であるオリヴェルにこんなことをしたくはないが、ゴブリンの作るアクセサリーはとてもいい代物な分……お値段がとても高い。
オリヴェルがさらりとぽちったアクセサリー三つは、合計でゴブリンのお給料二か月分相当だった。さすがに、それを登録してある自分のカードから引き落とされたら破産してしまう。
申し訳なく思いつつも、ゴブリンは素直に理由を話して買い物をやめてもらうことにした。
「……ああ、なんだそんなことか。ゴブリンに支払わせたりしないよ!」
「えっ!?」
オリヴェルはサイトの個人情報ページにいき、支払いカード情報をゴブリンの物から自分の物へと書き換えた。
「これでよしっと。俺のカードを登録しておいたから、ゴブリンもほしいものがあれば買うといい。さっきのミキサーだって、ここでセシリアのために使うんだろう? 俺に払わせてよ」
「いや、ですが……」
さすがにそこまで支払ってもらうのはと、ゴブリンが申し訳なさそうにオリヴェルを見る。魔王であるセシリアならまだしも、ゴブリンである自分にここまでする必要はないと思っている。
「いいんだ。セシリアのためにものは、全部俺が買ってあげたいから。だからゴブリンも遠慮しなくていい。ゴブリンが楽しそうにしてると、セシリアも嬉しそうだからね」
だからここにいる間は、不自由なく過ごしてほしいのだとオリヴェルが告げる。
――まさか、そんな風に思っていただいていたなんて。
セシリアにくっついている邪魔なゴブリンと認識されていると思っていたため、オリヴェルの言葉が純粋に嬉しかった。
「ありがとうございます。……これで美味しいご飯を作って、セシリア様にお仕えします」
「うん、よろしくね」
男二人、キッチン机に置いたノートバソコンを覗き込みながらセシリアの可愛さについて語り合ったのだった。





