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その8 半裸勇者:前半

本日2回目の更新です。

敬老の日なので。

 夜になり、セシリアはどうしようもない不安に襲われていた。


 ゴブリンは共に夕食をとり、客室に案内されている。魔王城から一人でここまで来て疲れているから、もちろんゆっくり休んでほしい。助けてほしくもあるけれど。


 ――お願いって、なんだろう。


 勇者の、オリヴェルのお願いがまだ行われていないのだ。

 ゴブリンと会うことと引き換えに、お願いを聞くことになっている。その内容を未だ知らないし、正直いい予感なんてまったくない。


「…………」


 果てしなく、不安だ。


「何か、飲み物はないかな……?」


 オリヴェルが整えた、可愛らしい室内。

 レースを惜しみなく使われた天蓋付きのベッド。職人の魂がこもっているような家具。どれもが一級品だ。


 セシリアが不便なく過ごせるように、と。オリヴェルが整えた部屋ではあるのだが、水差しは置かれていない。

 喉の渇きを感じたセシリアは、仕方なくリビングへ足を運ぶことにした。

 もちろん、水差しを置かないことによってセシリアをリビングへ誘導するのもオリヴェルの作戦ではあるが――セシリアはそんなことを考えもしない。


「どうして、この家で自由にしてもいいんだろう……」


 自分は魔王なのだから、牢屋に放り込まれても文句は言えないのだ。

 むしろ、なぜ牢屋に入れないのか聞いてしまいそうになる。

 そろりと自分の部屋を抜け出して、リビングへ。この屋敷を歩くのにも、少し慣れた。そんなことを思いながら、オリヴェルがいませんようにと祈りながら、ドアを開く。


 しかし、そんなセシリアの願いはあっさりと打ち砕かれる。


「あれ? どうしたの、セシリア。眠れなかった?」

「…………いえ」


 丁度お風呂上がりらしく、上半身裸で、肩にタオルをかけているオリヴェルがセシリアを出迎えた。

 苦虫を噛み潰したような顔をして、セシリアはやはり喉の乾きは我慢すればよかったとため息をもらす。


「ああ――飲み物? 今、紅茶を淹れてあげる」

「…………」


 なぜこうも簡単にばれてしまうのか、にこりと微笑んだオリヴェルはキッチンへ行き紅茶を淹れる。

 今のうちに部屋へ帰ってしまおうかと思ったが、自分のために紅茶を淹れてくれているオリヴェルを放置していくのも申し訳ない。

 というか、放置して部屋に帰ったら追ってきそうだと思いセシリアは震える。それならば、まだここにいたほうがいいだろう。仕方なくソファに座って、ぼうっとすること約五分。紅茶を淹れたオリヴェルが笑顔で戻ってきた。


「はい、どうぞ。お姫様」

「……ありがとうございます」


 素直に礼をいって、オリヴェルから紅茶を受け取った。

 ゆっくりと口を付けて飲むと、温かさが体にじんと染み渡る。


「…………」


 二人の間に沈黙が流れるが、オリヴェルは終止にこにことしながら紅茶に口を付けるセシリを見ている。

 何時間でも見ていられそうだと思うのだが、見られているセシリアはそうもいかない。見ないでと心の中で叫び声をあげるが、オリヴェルは華麗にスルーする。


 しばらくの沈黙の後、言葉を発したのはオリヴェルだ。


「ねぇ、セシリア。――お願いをしてもいい?」

「……っ!」


 その言葉を聞いて、セシリアはびくりと体を揺らす。

 手に持っていた紅茶をテーブルに置いて、震える目でオリヴェルを見た。そんな顔も可愛いなと思ってしまうオリヴェルは、やはりもう末期なのだろう。


「な、なにをさせようというのですか……」

「別に、そんな難しいことは言わないよ? というか、セシリアは別に何もしなくていいし」

「…………?」


 オリヴェルの言葉に、セシリアはますます不安になっていく。


 何もしなくていいということは、オリヴェルが彼女に何かをするということだ。拷問でもされるのだろうかと、小さな体をぎゅっと抱きしめる。

 耐えれるだろうけれど、痛いのは好きじゃない。


「……わかり、ました。約束ですから、拷問でもなんでもするといいです」


 ぎゅっと目を閉じて、セシリアは顔をそらす。

 魔王の配下であるゴブリンを屋敷に招き入れ、夕飯をふるまい、泊まれるように部屋まで用意してくれたのだ。何をされても、文句は言えない。

 もとより魔王セシリアは囚われの身だ。断罪のときが、少し早まっただけ――それだけだ。


 綺麗な瞳を閉じ震えるセシリアを見て、オリヴェルはやれやれと苦笑する。


「セシリアは、拷問をされたいの?」

「……っ」


 低いオリヴェルの声が、セシリアの耳元で囁かれる。

 思わずつぶっていた目を見開き、小さく首をふる。拷問されるんだとわかっていても、自ら拷問してください! という人はなかなかいない。

 すぐ近くにきたオリヴェルに震えながらも、否定する。


「そっか、よかった。拷問されるのが好きとか、セシリアってば変な趣向でもあるのかと思った」

「な、あ……」


 ――そんなの、あるわけない!

 叫びたかったが、近くにオリヴェルがいるためそれもできない。


「まぁ、それはそれで楽しそうだけど」

「……っ!」


 ひぃっ。


 オリヴェルの言葉に体をすくませて、逃げようとソファから立ち上がろうとして――前から、オリヴェルがソファの肘掛けに両手を置いてしまったため逃げ道がなくなった。

 やはり喉の乾きなんて我慢すればよかった――と。セシリアは後悔するほかなかった。

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