31
「ところでカイト様。お母様にどんな物をお作りしたいのですか?」
「実用的で可愛い小物かな?」
「なるほど。」
「出来ればお母様が喜びそうなお菓子の形にしたいんだけど。」
「実用的でお菓子の形の小物ですね。」
カイト様に言われた条件に当てはまりそうなお菓子のモチーフの小物を考えていると、私の目の前に広がるお菓子の一つが目に入りました。
「…… あ!」
「ん?何か良さそうな物、思い付いた?」
「はい。このお菓子を粘土で作るのはどうでしょうか?」
「……これ?」
そのお菓子は見た目は華やかですが、粘土で作った時は意外と簡単だった記憶があります。
ちなみに前世では、丸い蓋付きのケースの上にそのお菓子を載せたスイーツデコ小物を作りました。
「これって……」
「はい。クロカンブッシュですね。」
そう、クロカンブッシュ。簡単に言うとプチシュークリームのタワーですね。この世界は基本的に食べ物や飲み物の名前は前世と変わらないので、このお菓子もちゃんとクロカンブッシュと呼ぶそうです。
クロカンブッシュは、市販のプチシュークリームを買えば作れちゃうので、パーティーにもオススメですよ。
……っと、話がずれましたね。今は粘土のクロカンブッシュを作るという話でした。
「これ、作るのは難しくないか?」
「いえ、そうでもないですよ。粘土で小さいシュークリームをたくさん作って積み上げて、粘土で作ったクリームを絞ったり接着剤で作ったソースを掛けたりすれば、出来上がりです。」
「へ、へえ。そうなのか。」
クロカンブッシュの作り方を少し身を乗り出しながら淀みなく説明した私に、カイト様は少し身を引きながら頷きます。
「蓋付きの丸い小物入れを用意して、それを土台にしたクロカンブッシュの小物入れを作ってはどうでしょうか?」
私は更にそのクロカンブッシュを使った小物入れを提案してみました。
「クロカンブッシュの小物入れ、か。」
「はい。一緒に作ってみませんか?」
「……うん。君が先生だし、頑張ってみる。母上にも喜んで欲しいし。」
私の提案したクロカンブッシュの小物入れは、カイト様に無事採用されたようです。
「作る物も決まりましたし、必要な材料を買いに行かなければなりませんね。」
「そうだな。材料が無いと始まらないからな。」
「今日は買い物だけにして、後日私の作業部屋で作りましょう。道具などもお貸しできますし、多少汚れても大丈夫ですから。」
「分かった。作るのはまた今度だな。」
私の提案にカイト様は頷いて了承して下さいました。
そして私たちは材料を買いに行くために身支度を整え、ザイール家の馬車へ乗り込み、買い物へと出発したのでした。




