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用意されていたスイーツを執事さんに取り分けて貰い、早速いただくことにします。
「ではいただきますね、カイト様。」
「どうぞ、召し上がれ。」
カイト様に促された私は取り分けて貰ったケーキに舌つづみをうち始めました。
甘さもくどくなく、とても美味しいケーキでした。
やっぱり甘いものは心を穏やかにしてくれますね。
顔が自然に緩んでいるのが自分でも分かります……。
カイト様はそんな私を笑顔で見つつ、
「どうかな、……って聞くまでもないかな?」
と、聞いてきました。
「はい。とても美味しいです。……顔に出てましたか?」
「ああ。君って意外と美味しいもの、特に甘いものを食べる時に顔に出るよな。」
「意外ですか?」
「そう。」
私が首を傾げながら聞き返すと、カイト様は頷きました。
「会ったばかり時は同い年のはずなのに年上の女の子みたいだと思ったから。」
「そ、そうなんですか?」
(カイト様、やっぱり鋭いです)
「でも、今はそんなことは思わなくなったかな。」
「?」
再び首を傾げた私に、いたずらっぽい笑みを浮かべてカイト様は答えます。
「美味しいものを食べると素直に感情が顔に出る。だから、年相応だなあって。」
「年相応……」
(それもそれでまずいですよね?)
一応精神年齢は成人しているのですが。
やや身体年齢に引っ張られているのもあるかもしれません。
感情の起伏は私が前世で亡くなった時よりは大きくなっているとは思いますし。
と、そんな事をもやもやと考えていましたが
「さ、この話はこれくらいにしよう。ケーキだけじゃなくて他のお菓子も食べて。」
とカイト様にお菓子を進められたので、
「はい、いただきます……」
と答えたのでした。
再び執事さんに取り分けて貰ったスイーツを食べながら、最後にカイト様と会ってから今まであった出来事をお話することにしました。
「へえ。お祖父様の居る別邸に遊びに行ったのか。」
「はい。フィリアが寂しがっていたので、一緒に少し遠出をと。ローゼット家の別邸の近くには大きな果樹園があって、そこでお祖父様達と果物狩りをしたんです。」
「なるほど。だから果物とジャムのお土産をくれたんだ。ところでジャムは手作りなんだっけ?」
「はい、お祖母様の手作りです。お祖母様は貴族には珍しくお料理が趣味なので、果物狩りをしてきた果物を使ったお菓子を作ったりするんです。今回は私もお手伝いしました。」
「シオンさんは手先が器用だからな。本物のお菓子作りも上手そうだ。」
「き、器用かどうかは分かりませんが、料理や手芸は好きですね。」
「手芸は僕の先生でもあるくらいの腕だからな。」
「先生って、まだ言いますか……。」
そこまで難しい事を教えているわけでもないので、先生発言にはちょっと照れてしまいました。
「ところで最近は手芸してるのか?」
「手芸ですか?はい。してますよ。時間がある時に、ですけれど。」
「そうか。実は、前に作ったアイスの粘土細工をお母様に見せたらとても気に入ったみたいで、欲しいとせがまれてしまって。」
「カイト様のお母様に、ですか?」
「ああ。お母様も君と同じように綺麗なものや可愛いものが好きなんだ。」
「そうなんですね。」
カイト様のお母様というと、とても儚げな印象でありながら実はイール家をしっかり取り仕切る女傑、な方ですよね。
色々とお忙しいらしく、まだお会いしたことはありませんが。
「話を戻すけど、せっかく君と作った初めての粘土細工だったし、あげるのは嫌だったからお母様には悪いけど断ったんだ。……ただ、」
「ただ?」
「やっぱりお母様には何か作ってあげたいから、もし良かったらこの後、お母様が喜びそうな粘土細工を教えて欲しいんだ。だめ、かな?」
カイト様は少しこちらを伺うように聞いてきます。
まさかカイト様の方から粘土細工を教えて欲しいと言われるなんて思ってもみませんでした。
でもカイト様に頼られるのは私も嬉しいですし、
「はい。私で良ければ喜んで。」
と笑顔で答えたのでした。




