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本邸に帰って来てから二日経ちました。
カイト様にジャムやフルーツのお裾分けをしたかったので、執事のナイツにイール邸にお伺いを立てて貰い、今日、イール邸にお邪魔することになりました。
(カイト様、喜んでくれると良いですね。)
バスケットに入った色とりどりの果物やジャムを見ると、自然と笑みがこぼれます。
程なくしてザイール邸に到着し御者に手を引かれて馬車から降りると、
「やあ、シオンさん。こんにちは。」
「ようこそお越し下さいました、シオン様。」
カイト様がいらっしゃいました。
後ろに控えていた執事さんも笑顔で私を迎えてくれました。
「こんにちは、カイト様。突然お伺いしてしまってごめんなさい。」
「いや、謝る必要はないよ。それに僕も会えて嬉しいから。」
「そ、そうですか。」
「うん。」
「………。」
躊躇うことなく言うカイト様に、少し気恥ずかしさを覚えてしまいました。
「ところでシオンさん。今日はどんな用だっんだ?詳しい話はまだ聞いて無かったからさ。」
「あ……」
肝心なお裾分けの事を忘れていました。
「実はですね」
と、一旦話を切りバスケットを持って後ろに控えているメイドさんに顔を向けて頷きます。
メイドさんも、
「はい。畏まりました。」
と頷き、
「こちら、シオン様からの贈り物でございます。お受け取りくださいませ。」
と言って、バスケットを執事さんに差し出しました。
執事さんはそれを受け取り、
「シオン様からの贈り物、有りがたく頂戴致します。」
と言って一礼しました。
それを横で見ていたカイト様はバスケットの中身が気になったらしく、バスケットを覗きこみました。
「……これは果物と、ジャム?」
「はい。私とフィリアが果樹園で採ってきた果物と、それを使って作ったジャムです。ジャムはお祖母様特製です。」
「果樹園で?シオンさんが採ってきた?」
「はい。少し前にお祖父様達の住む別邸に遊びに行ったのですが、その時に近くにある果樹園に果物狩りをしに行ったのです。」
「へえ……、そうなのか。だからその時に採ってきた果物を持ってきてくれたんだ。」
「はい。果物もジャムも本当に美味しいので、カイト様にも食べて頂きたかったのです。ただ……」
「ただ?」
「果物もジャムも生ものなので時間を置いておけなかったので、こんなに急な訪問になってしまいました。」
と、私が申し訳無さそうに言うと、
「そんな顔をしないでくれ。むしろ僕は嬉しい。」
「え?嬉しい、ですか?」
「嬉しいよ。確かに急は急だけど、大切な婚約者の訪問を喜ばないはずはないだろ?」
「……!」
「果物もジャムも僕の為にわざわざ持ってきてくれてありがとう。……さ、立ち話もここまでにしてそろそろ行こうか?お手をどうぞ。」
「……はい。」
また躊躇うことなく差し出されたカイト様の手を取ります。
エスコートはそのまま応接間に着くまで続きました。
応接間には既に私を迎える準備ができていて、美味しそうなスイーツがたくさん用意されています。
「どう?シオンさんが好きそうな菓子を用意してみたんだけど……」
私の手を引いたまま、カイト様は私に聞いてきます。
スイーツは作るのも食べるのも好きですしとても嬉しいのですが、カイト様には"私=菓子大好き婚約者"として認識されてしまったようです……。
でも、カイト様は何故だか私がスイーツを食べているのを満足そうに見ているので、出されたものは有りがたく頂いているのですが。
「こんなにたくさんのお菓子を用意して頂いてありがとうございます。嬉しいです。」
カイト様に素直に感謝を述べると、
「っ……」
「?」
「えっと、……喜んで貰えて良かった。用意したかいがあった。うん。」
一瞬微妙な間があったのが気になりましたが、すぐにいつものカイト様に戻ったので私も特に言及はしませんでした。




