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「お帰りなさいませ、お嬢様方。」
本邸に帰ってきた私達を、執事のナイツが笑顔で出迎えてくれました。
「ただいま帰りました。」
「ただいまです。」
ナイツに返事をした私達は、荷物をナイツの後ろに控えていたメイドに渡しました。
「……今回もかなりお祖父様方からのお土産があるようですねぇ」
明らかに行きの時よりも多い荷物をみたナイツは、苦笑いして言います。
「ふふ。そうなんですよね……。あ!そういえば、お土産の中には私達がお祖母様と一緒に作ったジャムも入ってるんです。」
「……ジャムですか。ということは、」
「みんなで果物狩りしてきたの。楽しかったわ。」
果物狩りをしたときの事を思い出しているのか、フィリアはニコニコと笑顔で答えました。
「左様でございますか。それはようございました。」
ナイツはそんなフィリアの様子を穏やかに見ながら頷きます。
私もフィリアを見て和んでいましたが、伝える事があったのを思い出しました。
「フィリアちゃん、先に家に入っていてくれる?ちょっとだけナイツに話があるの。」
「?はーい。」
フィリアに先に家に入るように促した後、ナイツに話を戻します。
「話って言うのは、そのジャムの事なんです。」
「?」
「後で小分けにしたジャムをカイト様にお裾分けしたいんです。」
「カイト様に、でございますか?」
「はい。三日後にカイト様にお会いする予定がありますから、その時に。」
ナイツの問いに、私は頷きながら答えました。
お祖母様が張り切って作ってくれたのは良いのですが、結構な量のジャムになってしまいました。
食べ盛りの兄と姉が居ないですし、せっかくならイール家の方にもお裾分けをしたいなと思ったのです。
「分かりました。忘れずに用意させていただきますね。」
「はい。お願いします。」
話も終わったので家に入ろうとしたのですが、
「……ところでシオン様?フィリア様をお先に促したのはフィリア様がカイト様の名前に過剰に反応するからでございますか?」
「……!」
急にナイツが言い出した事に、思わず無言になってしまいました。
そのつもりは無かったのですけど……
「違うにしても、シオン様。シオン様は少し周りに気を使い過ぎていると思います。」
「そう、ですか?」
「はい。このナイツ、シオン様が生まれた時からお世話させていただいているのですから、シオン様の事は、良く分かっているつもりです。」
ナイツは私の目を見てきっぱりと言い切りました。
「ナイツ……」
「……申し訳ございません。差しでがましい事を。」
「えぇと、ナイツは私を心配してくれたのですよね。ありがとうございます。嬉しいです。」
私は申し訳なさそうなナイツに感謝を述べました。
「……嬉しいと、思って下さるのですか?」
「ええ、もちろんです。……ナイツの事、こっそり三人目のお祖父様の様に思ってたので。」
「……!」
普段は滅多に驚かないナイツが目を見開いて驚いていましたが、直ぐにいつもの穏やかな表情に戻り聞いて来ました。
「シオン様、まさかご冗談でしょう?」
「いいえ、冗談ではないです。……私にお祖父様の様に思われるのは嫌、ですか?」
「そ、そんな事はありませんが、私のような者がシオン様の祖父の様に思っていただくなんて……」
ナイツは困り顔で答えました。
私はそんなナイツの片手を取り、ナイツを見上げながら聞きます。
「ナイツ?嫌じゃないのなら、これからもお祖父様の様に思っていても良いですか?」
「……」
「ナイツ?」
「…………はい。」
根負けしたのか、ナイツは頷き了承して貰う事が出来ました。
私はそれに満足し、ナイツと手を繋いだまま家に入ったのでした。




