21
馬車に揺られること約一時間。
目的地の祖父の屋敷へ到着しました。
父に家督を譲った祖父は、王都から離れたのどかな町にある別邸に移り住みました。
馬車から降りると、そこには別邸を仕切っている執事のウィルが待っていました。
余談ですが、彼は本邸の執事のナイツの双子の弟です。
「お嬢様方。ようこそお越し下さいました。」
「いえ……こちらこそ、急に訪問してしまってごめんなさい。」
「良いのですよ。主様はとてもお喜びになっていましたし、私もお嬢様方にお会い出来て嬉しいのですから。普段はナイツにばかり良い思いをさせていますしね。」
「ウィル……、ありがとう。」
ナイツと同じ顔に穏やかな笑みを浮かべて話すウィルに、感謝を述べました。
「……そろそろ主様も待ちわびているでしょうし、中へご案内いたしますね。」
ウィルは笑顔を絶やさぬまま、私達を屋敷へと促しました。
そして久しぶりに訪問した別邸は相変わらず、祖父が集めたアンティーク品が並んでいて、レトロな雰囲気を醸し出しています。
「……相変わらず、壮観ですね。」
「でしょう?でも、また増えたのですよ……。」
「あら。……お祖母様の困り顔が見えますね。」
「ご明察です、シオン様。」
「でも、珍しいものがたくさんあってフィリアは楽しいですよー。」
「まあ、私も見る分には良いですが、囲まれて暮らすとなると……」
などと会話をしているうちに、祖父が待っている応接間に着きました。
祖父は大きなソファーに座っています。心なしかそわそわしているようです。
「主様。お嬢様方が見えましたよ。」
ウィルの言葉にはっと気づいて顔を上げた祖父は私達の姿を見つけると素早く立ち上がり、こちらにやって来ます。
そして祖父は満面の笑みで、
「良く来たね。私の可愛い小鳥たち。」
と言って私達を抱きしめました。
私は上目遣いで、
「こ、こんにちは、お祖父様。」
となんとか挨拶をします。
祖父は満足したのか私達を解放し、今度は頭を撫で始めました。
「来てくれて嬉しいよ。二人とも疲れていないかい?」
「大丈夫です、お祖父様。」
「フィリアもまだまだ元気いっぱいです!」
「そうかそうか。」
祖父は私達を微笑ましく見ながら頷きます。
そんな祖父ですが、外見はとても孫が居そうに見えません。
実年齢は50代後半ですが、(祖父も父も10代で結婚しています。)少なくとも10歳は若く見られます。
私も、ここまで祖父が若々しいままとは思いませんでした。
少し遠い目をしていると、
「あらっ、もう着いていたのね!」
と、軽やかな女性の声が後ろから聞こえてきました。
その声の持ち主はもちろん、
「お祖母様!」
「ふふ、こんにちは。いらっしゃい。」
「こんにちは。」
「こんにちは、お祖母様」
優しい笑みを湛えた祖母でした。
こちらも孫が居るとは思えないような外見です。美形補正ですかね……。
そして祖母も祖父と同じく私達を抱きしめました。
「二人とも、元気そうで良かったわ。」
「はい!元気です。」
「お祖母様もお祖父様も、元気そうで良かったです。」
「ふふ。ありがとう。……ところで二人とも、お腹、空いてないかしら?」
「……確かに、ちょっと空いてます。」
「フィリアもちょっと空いてます……。」
言われてみれば、そろそろランチをする時間帯です。
「じゃあ、お昼にしましょう?実はもう、昼食の準備は出来ているのよ。着いたばかりだから軽めにしてあるけどね。」
「そうなんですね。フィリアちゃん、せっかくだからいただきましょう。」
「はい!」
「じゃあ、行くとするか。」
祖父は私の手を引き、祖母は妹の手を引き、仲良く食堂に向かいました。




